仕事を急いで終わらせたある日のこと。
午後6時5分約束の場所。
私は5分遅れて着いた。

小走りで少し息が切れる。
360度を2回回った後、歩きながら左右を見るが彼女はいない。

「まさか帰ってしまったのか?」
一抹の不安が頭をよぎる。
慌てて重なった発信記録を押す。
「いーつまでも 手をー繋いでー・・・」

もう一度。
「いーつまでも 手をー繋いでー・・・」

彼女は出ない。

まださほど積み重ねたもののない私達である。こんなことくらいで頭が不安でいっぱいになる。

私には待つ以外選択肢がなかった。

10分後、握り締めた携帯が大きく震えた。いや、いつもと変わらない振動だったはずだ。だがそれは体全体が跳ね返るほど、大きな震えに感じた。

慌てて画面を見る。

私は深くため息をつき、その電話を無視した。
彼女ではなかった。

こいつは小学生からの親友で、私の人生のほとんどについて理解している男である。彼は・・・、いや今はそんなことはどうでもいい。

ふと顔を上げると、雑踏に似合わない速度で、周りが怪訝そうな顔をするのに構わず、私に向かって一直線に向かって来る姿が見えた。

彼女だ!!

私はホッとすると同時に、おっとりとした彼女の性格にそぐわないようなその速度に、少し驚いた。

「ごめんなさい」
そう言ったはずだ。
息も絶え絶えに搾り出すようなその声に心を揺さぶられ、彼女がとても愛しくてたまらなかった。

と同時に、小走りで息を切らしたくらいでいた自分を、少し恥じた。彼女と私の想いの差を。

「琵琶子!!!」

始めて呼び捨てでその名を叫んだ。
彼女は少し嬉しそうに微笑んだ。

だから私は彼女のもとへ今日も走る。
彼女に負けないように全力で、そして何度でも。

琵琶湖、じゃなくて琵琶子のもとへ・・・。


なんのことやね~ん晴れ