前回に続き、現代日本の文化に巣食う〈Mサイズ〉信仰と、その線引き幻想について、もう少しだけモノ申します。
若い女性の中には、ほどほどに健康的な〈標準体重〉よりも約5kg少ない〈美容体重〉、さらには10kgも少ない〈モデル体重〉の呪いに支配されている人が少なくありません。
その証拠に、身長は度外視で「体重はとにかく40kg台、ウエストサイズは59.99999……センチを超えなければ合格」みたいな、トンチキな線引きができちゃってる。
これ、全国のアホ校則と互角に戦えるクラスの、闇深き謎です。
ちなみに、モデルやらアイドル女子には常識でも、あの世界のあらゆるデータは“公称”だってこと、忘れたらアカンと思いますよ。
よーするに、一般女性までもが50.2kgになっただけで太った太ったと騒ぎ散らし、甘いもの断ちしたりジムに通い出すのは、まったく馬鹿げてるってことです。
日本の若年女子の痩せすぎ問題はさんざん指摘されてきましたが、マジで無茶な減量もほどほどにしないといけません。
元気な赤ちゃんを授かれなくなったり、骨粗しょう症のリスク増などなど、生涯にわたって健康面に深刻な問題を抱えることになります。
通常のBMIでの標準値の範囲内に入ればヨシとするくらいが、健康維持の観点からも無理がないように思えますね、個人的には。
アパレル業界に明るくなくても、衣料品のサイズ区分や表記ほどいい加減なものはない、というのは事実です。
なので、〈Mサイズ〉表記に固執する女性の、無茶で病んだ価値観を変える画期的な方法を思いつきました。
現行のサイズ区分はそのままに、SをMに、MをLに、LをLLに……と、表記だけをワンサイズずつずらして上げるのです!
〈Mサイズ〉信者のアタマが変えられないなら、タグの表記を動かしてしまえという発想の転換……なんて、やっぱバレたらただで済みそうにないか。
でもこれなら、旧Lサイズを着ていたとしても〈M〉の表記にウソはないことになるから、とりあえず心の安寧と身体の健康は保たれるというわけ。
このアイデア、いかが?
奇妙な〈Mサイズ〉信仰がここまではびこるのは、日本人は身体意識の自覚というものが未熟で、今なお寄る辺ない感覚のままだからではないでしょうか。
特に、イメージングが苦手な人の場合は、つい数字や記号に頼りがちなので、結果として頭でっかちになりやすいのです。
「これが本当の自分、これがいちばん魅力的」という確信が持てないために、他人のデジタルデータが価値基準となり、ひたすら流されていく。
これ、危険というよりは、たまらなく不幸なことに思えます。
すごく昔のテレビで、ムキムキの中国人男性気功師が「4歳女児の服を、“気”の力だけで着る」という冗談みたいなことを実際にやってのけたのは、けっこう衝撃でした。
ってことは、まさか日本でも同様に、〈Mサイズ〉の服を気合いで着れちゃってる人が多いってこと???
昨今の既製服には、さすがに昔ほどペチャンコで貧相なものは見かけません。
が、多くの現代人にフィットする“ミディアム”サイズがコレだと言ってしまうには、〈Mサイズ〉はだいぶ華奢で小さめな印象です。
衣服は、身体より小さいとパツパツに横ジワが入って、かえって太って見えるもの。
論より証拠、鏡の前で試着すれば納得いくはずなんですが。
生きる上で、意にそまずとも避けられない種類の線引きやルールとは、上手いこと折り合いをつけていくしかありません。
でも、中身がとっくに空っぽな、古い線引きにとらわれていないかのチェックは、すごくすごく大事だと思います。
この春は、ぜひとも〈Mサイズ〉の呪縛から自分を解放して、軽快に歩き出したいものです。
……あ、でも密は避けてね!
Sheila
Illustrated by Serafina
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