Guten Tag 
金曜日のノヴァーリスです、こんにちは。
ノヴァーリスの就農物語、第二部R営農組合篇。
雪の富山で農業をスタートします。


の前に、久々にドイツの文人紹介。

 

「エゴイズムは正しい、ただし、強くすぐれた者かつ誠実な者にとってのみ」(フリードリッヒ・ニーチェ)


ニーチェのすごいところは、前後のテキストを抜いて、こういう風にズバッと切り抜いてジャンと提示したときに、気の利いたアフォリズム化できてしまうところですよね。
 

 


 


朝、目を覚ますと、ご飯を食べて、身支度を整える。
七時半過ぎから、徐々にみんな出勤してくる。
理事や事務員さんは机に、あとのみんなは和室に座り、お茶を飲む。
NHKニュースで天気を確認すると、仕事が始まる。
僕には組合長から「今日は○○と行動してくれ」とお達しがある。
最初、みんな何も指示されないで何でわかるのだろうと不思議だったのだが、事務所のホワイトボードにネームプレートがあってタオルの人 倉庫」「ユキヨシくん りんご園」などと示してあるのだった。
それ以外に「○月○日 総会」などと書き込んであり、一ヶ月の必要な予定も全て記されている。


二日目もいぼ皮むきだった。穏やかな天気の日で、本当に心地よい
一日中作業をしていたくなる。はー幸せだなー。りんごの木、かわいいなぁ。
そう思いながらりんご園を移動していると・・・

 


ズボッ!


「ん?」

膝まで雪に埋まっていた。
たまたま深くなっていたところだったらしい。当然長靴の中にまで雪の侵入を許し、べちゃべちゃである。
他のどこにも問題はないが、足の先だけは異常なまでに冷たい。


ようやくやってきた10時の休憩。他の人には申し訳ないが、ストーブで足先を暖めさせてもらう。
「なんでびちょびちょ?」、隣に座った剣豪が言った。
「なんでびちょびちょじゃないんですか?」、僕は剣豪に聞いた。なぜなら彼一人、スニーカーだから。
「いや、まぁ%’(&)&’%&&」
「なんか長靴短くない?!」、今度はユキヨシくん。彼は基本無口なのだが、時折り、笑顔で話しかけてくれる。絶対短いよ。みんなもっと長い長靴はくんだよ!」
「お前、これ足に合うか? いっぱい持ってるから、やるわ」言いながら組合長が長靴をくれた。大阪のホームセンターで買った長靴は雪国仕様ではなかったようだ
このとき僕は学んだ。

耐えることは努力ではない

きちんと装備を整えて仕事することで、パフォーマンスは向上するのだ。
みんなでわいわいしながら、休憩時間は過ぎていく。


また別の日。
「なんかびしょびしょじゃない?」、雨の日だった。ユキヨシくんが笑顔で言った。「カッパ、水漏れしてるよ! 風邪ひいちゃうよ!」
大阪のホームセンターで買ったカッパは、外作業用ではなかったらしい。確かに僕だけが濡れていた。
「お前、これやっちゃ」言いながら組合長が新品の作業用カッパをくれた。
「えっ?! いいんですか?!」
喜ぶ僕を、みんな笑顔で見ていた
このカッパは今でも健在で、プライヴェートで使っている。
かように、この営農組合の人はみんな優しかった
仲が良く、みんなで和気藹々としながら日々の作業を行っていた。
もちろん不平不満がないわけではない。
当然色んな雑音も耳に入ってくる。
けれど、基本的にはみんな仲良く、みんなで力を合わせて頑張っていた。
吹雪の中、剪定で落とした枝を、さらに小さくする仕事をしていた。
組合長も、事務のお姉さんも、カッパを着ながら黙々と作業をしていた
稲の播種(種まき)作業、その数日後にする、ハウスへの苗だし作業、組合長も理事もみんなどろんこになりながら仕事した


土砂降りの日、
「お前ら、田んぼのヒエとってこい」と命じて、部屋でパソコンにしがみついている上層部はいない。


35度の炎天下、
「お前ら、草刈ってこい」と命じて、エアコンの部屋でアイスコーヒーを飲みながらパソコンにしがみついている上層部はいない。


豪雪の日、
「お前ら、会社の除雪、そのあと機械整備しろ」と命じて、暖房の部屋でホットコーヒーを飲みながらパソコンにしがみついている上層部はいない。


『ローマ人の物語』の中で塩野七生は書いている。
カエサルは誰もが認める天才だった。次々に新しいアイディアを出し、戦場では常に先陣を切って戦った。
初代皇帝アウグスティヌスは戦も下手だったし、革新的なことを考えるタイプではなかった。ただ周りに、なんとかして彼を支えてあげたいと思わせる何かを持った人だった。彼の周りに人は集まった。
僕はリーダーを見るとき、この人はカエサルかアウグスティヌスか、それ以外か、を見る(もちろんそんな単純な判断基準に全てを委ねるわけではない――古代ローマにだって、様々なリーダーはいたわけだから)
カエサルでも、アウグスティヌスでもないなら、なんなのだ?
ここで冒頭の言葉を再度引いて、今回は締めくくろう。

「エゴイズムは正しい、ただし、強くすぐれた者かつ誠実な者にとってのみ」


庭で栽培中のみかん