二月。
大阪・梅田の夜は冷えていた。
ボストンバッグをひとつ、肩にかけ、夜行バス乗り場へ。
富山行き。
その日、北陸方面へ向かう乗客は多いらしく、バスは二台。
一台は金沢、一台は富山。
梅田を出ると、すぐに車内は暗くなる。
これから始まる富山暮らし、まずはしっかり寝なければ、そう思えば思うほど眠れず、色々考えているうちに、細切れの眠りにとらわれていた。

バスの停車音で目が覚める。
到着のアナウンス。ついにきた!
意気揚々とバスをおりる。
駅前広場は広く、大きなバスターミナルがある。そして大きな門・・・
門???

金沢駅やん!

 


 

金曜日のノヴァーリスです、こんにちは。
ついに富山での暮らしを始めるノヴァーリスは、間違って金沢行きのバスチケットを購入し、金沢駅でおりていた。さて、どうなることやら。

 


 

 


富山行きの電車がくるまで、だいぶん時間がある。
早朝の到着だったため、まだ始発電車も走っていないのだ。
駅の待合室で一時間近く目を閉じる。
寒かった。
おそろしいほどに寒かった。
ようやくやってきた富山行きの電車に乗る。
寒い、寒気が止まらない。
どんどん乗客は増えて、大阪ほどではないものの、そこそこ満員状態。
人の熱気はあるのに、体は冷えている。
隣の男子高校生はずっと、お笑いの話をしている。
学校で漫才コンビを組んでいるらしい。
なんとなくそんな話を聞いていると、車内が急に光の洪水に包まれた。

朝日だ。

一瞬にして車内が暖まる。
涙が出そうなほどの眩しさ。
車内アナウンスが「富山駅」と告げる。

富山駅から公社まで、ゆっくり朝の散歩。
牛丼を食べ、公園の水道で歯を磨く。
噴水の前で時間が過ぎるのをぼんやり待つ。
僕はいま、住所不定無職である。

公社で待っていたSさんの表情は明るかった。
「よく来られましたな。では行きましょう」
車に乗って、一路、西へ。
今日からノヴァーリスさんにはRという営農組合で生活してもらいます。ここは二階に宿泊施設があるので、家賃もかかりません。一億円払う必要もありません。研修しながら、春からの勤務先を探しましょう」
「何を作っているのですか?」
「コメ麦大豆、それとリンゴです」
リンゴ? リンゴといえば青森と長野のイメージしかなかったので、驚く。
「本当は、ここで住み込みしながら研修して、そのまま就職させてもらおうと思っていたのですが、目論見が外れました。ちょうど一週間ほど前、マッチングイベントで採用をひとり決めてしまったらしく、いまは枠がない状態なんですよ。まだ二十歳そこそこの若い女性で。その前にも一人、女性を採用しています。これからは農業にどんどん女性が入ってくる時代になるでしょうね
彼の言葉が、まさにその通りになることは、この十年が実証した。
たくさんの女性が農業を職として選択するシーンを見てきた。
そもそも農業は、多様な人が営んできた産業である。それがいつからおじさんと高齢者だけの世界になってしまったのか

雪の田園風景の中を、一時間ほど走っただろうか。
その年は雪が多かったらしい。
雪の中にその営農組合はあった。