加賀れんこん(金沢市)

 

東京住まいの頃、ある日、はす蒸しがむしょうに食べたくなった。

 スーパーに行って加賀れんこんを探したが、あるはずもなく、名産と書いてあったので茨木県霞ケ浦のものを買った。

 さあ初挑戦、レシピをにらみつつ、れんこんをすり下ろし、エビを入れて蒸した。

 出汁のあんをかければ、見かけはわるくない。 ひとくち食べて「何だこりゃ」と愕然とした。

 蒸したまんじゅうはカスカスだった。 私が食べたかった、もっちりとした食感も粘りもない。

 そしてわかった。あのもちもち感は、加賀れんこん特有の持ち味なのだと。 そんじょそこらのれんこんとは違う、特別の伝統野菜であるのだ。

 以来、加賀れんこんが好物になった。 金沢へ帰省するたび、母はれんこんのきんぴらを山盛り作って持っていてくれた。

 泥の中かられんこんを掘る作業は、大変な重労働と聞いていた。

 いったいどうやって収穫するのだろう、という疑問が、現在公開中の映画「種まく旅人~華蓮のかがやき~」を観て氷解した。

 大画面の中、泥水の広い畑の中を、胸上までのウエットスーツを着てズブズブと入っていく。 片手でジェットポンプの噴出水をかけながら、れんこんを手掘りで掘り出すのである。

 映画で金沢駅や繁華街の知っている景色が映し出されるのも嬉しいが、見渡す限りのハスの葉、そこで輝くばかりに白い花を咲かせる見知らぬ風景が美しく、見とれてしまう。

 全編を通して空が映っていた。 青ではなく、グレーを含んだ水色で、なじみのある北陸の空だなあ、と親近感がある。

 この映画で、れんこん堀りの監修をされたれんこん農家の北博之さん(47)に、なぜ他の産地のものではす蒸しができないのか、お聞きした。

 「れんこんの種類が違います。 そもそも、れんこんをすり下ろす文化がよそにないから」

 だそう。加賀れんこんは、他の地域より深くもぐっていて、泥の圧力がかかるため、身がしまり穴が小さいのだそうだ。 なるほど、加賀れんこんの秘密がわかった。

 深いだけに収穫には苦労する。 泥の中では正座して作業している。 力仕事である。

 8月初めに花が咲き、収穫はそれから5月終わりまで続く。真冬の雪降る時も泥水に入ると聞き、身震いした。 

「ええっ、そんな大変な。おつらいですか?」

  すると、わははと豪快に笑って、「楽しいですよ。宝探しです」

 泥の中で、黙々と作業している方がいた。 息子さんだという。映画は後継者不足の話もあったが、ここではお宝のれんこん畑、明るい未来がある。

 ハスの花は泥の中から咲く。お釈迦様が座っていらっしゃるのもハスの上である。

 

 

引用元  富山新聞  2021.04.04