翌日
その日はどうしても外せない講義があり、俺は早くから行けず。
遅くなってしまったので行こうか、迷っていたら、連絡がきた。
夕日が落ちるのと時を同じくして、眠るようにいったらしい。
もう会えなかった。
会えないことを知った。
彼女は予期していたのだろうか。
しかし、次の発作で亡くなると思っていた周囲は、驚きとともに、その安らかな顔に少しだけ安心した。
どちらにせよ。
年端もいかぬその子には、時間が絶望的になくて。
わずか数十年でその時間に終わりが来てしまった。
俺が後悔したのは、お母さんとの最期の時間を奪うことに…結果的になってしまったこと。
最期の瞬間すらも運悪く立ち会えなかったらしかった。
それでも、お母さんは「ありがとう」って。
泣きながら、こころからの言葉をくれた。
結局のところ、ワーカーとしては失格だったように思えてならない。
けれど、彼女にしてあげられたことが彼女にとってもし、少しでも幸せだったなら。
こんなにうれしいことはないって、そう思える。
彼女からの最後の手紙をもらった。
さすがに、ここにそれはのせないけれど、拙いなりに懸命に書いたラブレターだった。
だから、渡せるはずもない返事を当時の俺は書いた。
♪
天国はどうだ。
居心地いいか?
お前の言うように、幸せが三大欲求なら。
俺はまたしばらく 幸せになれそうもない。
最期になにをおもった?
苦しくはなかったか?
かなしくはなかったか?
孤独じゃなかったか?
いつも笑っていたから、言う言葉も見つからないよ。
最期になにをいってあげられただろう。
なにをしてあげられただろうって。
そればかり考えてしまう。
なんて…おこがましいかな。
でも…それでも、さ。
天国なんてもんがあるなら。
そこで…誰より幸せになってくれ。
純粋にそれだけを願うよ。
君を想って、綺麗になれた気がした。
純粋な想いに触れて。
綺麗に、なれた気がした。
だから、ありがとう。
さようなら。
♪
当時、ブログにもこれをのせた。
よく考えたら、本も読んでいなかったあの子に読める漢字じゃないよなって。
あとから気づいた。
この出会いは、俺が…沈んでいた俺が。
すごくいい出会いだったと、素直に言えるものだった。
お母さんには申し訳なかった。だけど。
彼女の言葉がいまだ胸に残って、離れない。
でもそれは、とてもいいことだった。
それから一年ちょいたったけれど、どんな時でも、彼女の言葉が少なからず助けてくれたように思う。
正直、とても愛していたとは言えない。
言えないけれど。
好き以上の何かを今抱いているのは事実だ。
どうか、安らかに、眠ってほしい。