公的年金は、「老病死」という3つの人生のリスクに備えるための、いわば保険です。

老齢年金障害年金遺族年金の3種類がありますが、この中で、一番わかりにくいのが、障害年金ではないでしょうか。

 

障害年金は、病気やけがによって、生活や仕事などが制限されるようになった場合に、受け取ることができる年金です。

 

現役世代の方も請求できます。

というより、障害年金は、基本的に65歳未満の方を対象にしています。

若いから、まだ年金なんて関係ないと思っている方にこそ、もしもの時に利用して頂きたい制度です。

馴染みのないルールも押さえておいて、いざという時に、きちんと請求できるようにしておく必要があります。

まずはシンプルに、障害年金の概略を理解しましょう。

 

障害年金を受けられる障害とは

 

障害年金は、ほぼすべての障害が対象となります。

・手足の障害や眼や聴覚などの外部障害

・統合失調症、うつ病、発達障害などの精神障害

・循環器や呼吸器、腎疾患、糖尿病などの内部障害

 

障害年金を受けるには、障害の程度の認定が必要です。医師や歯科医師の診断書に基づいて、専門医が認定します

診断書は、所定の様式のものを使います。

 

診断書は8種類あり、病名ではなく「具体的な障害がどこに、どのように現れているか」によって、自分に合った診断書を選びます。

眼、聴覚、肢体、呼吸器、循環器、腎・肝・糖尿病、精神障害、その他と、症状に合わせた診断書が用意されています。

 

診断書の例(精神)

 

認定される障害等級は、1級から3級の3段階があります。(3級でもらえるのは障害厚生年金だけ)

障害等級と言うと、公的な福祉サービスを受けるための障害者手帳の等級を連想しますね。

身体障害者手帳の1級から7級、療育手帳(愛の手帳)の1度から4度、精神障害者保険福祉手帳の1級から3級があります。

 

時々、この等級がそのまま使われる、と誤解される方もいらっしゃるようですが、障害年金の等級は、障害年金独自の判断基準に基づいて認定されますので、ご自分が既に障害者手帳を受けていても、改めて認定を受けなくてはなりませんし、また、必ず同じような結果が出るとも限りません。

 

認定基準は、次のように定められています。

〇障害の程度1級

他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできない。身のまわりのことがかろうじてできるだけで、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドでの周辺に限られる

 

〇障害の程度2級

必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害。入院や在宅で、活動の範囲が病院内や家屋内に限られる

 

〇障害の程度3級

労働が著しい制限を受ける。日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある

 

これらは、おおざっぱな認定基準であり、具体的な障害状態については、障害等級表に定められています。

労働については、必ずしも、働いていると障害年金が受けられないということはなく、どのような状態で勤務しているのか、その実態も配慮されます。

 

請求の時は、医師が記入する診断書だけではなく、自分で記入できる「病歴・就労状況等申立書」というものも提出します。

これまでの病歴や仕事のことなど、生活の実態を知ってもらうためのものなので、どんな状態で生活してきたか、就労状況など、診断書では伝えきれない日常生活などについて、なるべく具体的に記載しましょう。

 

 

3つの障害年金のこだわりポイント

 

障害年金は、一般的な感覚とはちょっとずれている?と感じられるような、こだわりポイントがあります。

それがこの制度を、わかりにくいものにし、かつ、「事務的で不親切」と受け取られる一因となっているように思えます。

 

1.初診日にこだわる

障害年金請求で、一番重視されるのは初診日です。

初診日とは、その障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師や歯科医師の診療を受けた日のことです。

 

初診日が決まらないと

 ・受け取る年金の種類が決まりません

 ・障害認定日が決まりません

 ・保険料納付要件も審査できません

 

初めからずっと同じ病院であれば簡単ですが、転院している場合は、初診を受けた病院に「受診状況等証明書」という書類を書いてもらって、初診日の証明とします。

 

ですが、病気によっては、初診日は何年も前に遡ることがあります。

もうカルテが残っていなかったり、閉院していることもあり得ます。

 

病院から初診日の証明が取れなければ、「受診状況等証明書が添付できない申立書」を記入し、他の書類によって、初診日を特定しなくてはなりません。

一つ一つ病院を遡ったり、場合によっては、とても難しい作業となりますが、病院の証明ではなくても、第三者の申立や当時の紹介状など、様々な手段で証明することが可能です。

 

初診日によって、受け取る年金が決まる

初診日に厚生年金に入っていると障害厚生年金が請求できますが、国民年金に入っていたり、20歳前で年金に入る前であれば、障害基礎年金しか請求できません。

 

障害厚生年金は、障害の程度が3級でも年金を受け取れます。また、1級や2級になると、障害基礎年金も合わせて受け取れるので、どちらを請求できるかは、大きな問題です。

 

というのも、老齢年金や遺族年金は、少しでも厚生年金に入っていたことがあれば、その期間に基づいた厚生年金を受け取れますが、障害年金は、不思議なことに、たとえそれまで何年も厚生年金に加入していたとしても、たまたま初診日に厚生年金に入っていなければ、障害厚生年金は貰えません。

 

体調が悪くなったら、お勤めをしている間に病院に行きましょう。

早まって退職を急がないことです。

 

2.障害認定日にこだわる

 

障害年金には、「障害認定日」という、またまた少し不思議な概念があります。

障害認定日は、初診日から1年6ヵ月と決まっています。

この日に障害等級に該当する障害状態であれば、この障害認定日の翌月から年金が受けられます。

このような請求を「認定日請求」と言います。

5年の時効はありますが、5年前までは遡って、年金が貰えたりします。

 

※1年6ヵ月より前に症状が固定した場合など、早く障害認定日になる場合もあります。肢体の切断や離断をした日、人工透析から3ヵ月、人工肛門から6ヵ月 など、決められた特例があります。

 

障害認定日の障害審査の根拠となるのは、認定日以後3ヵ月以内の診断書です。

残念なことに、初診日頃にはどんなに重症であっても、障害認定日に障害状態が軽いと、認定日からの年金は貰えません。

精神障害などで、症状に浮き沈みがある場合、ピンポイントで障害認定日の認定を受けるのが、難しいケースもあるでしょう。

また、この頃、病院に行っていなくて診断書が書けない、などという場合も、認定日請求はできません。

 

認定日請求が認められない時は、請求日の障害状態で認定されることになります。

この請求を「事後重症請求」と言います。

対象は65歳未満です。

請求日以前3ヵ月以内の診断書に基づいて、障害状態が判断されます。

それ以前に、症状が重くても、症状が一番重い時の診断書を提出するわけではありません。

 

事後重症が認められれば障害年金が受け取れますが、注意したいのは、こちらは請求した日の翌月分以降の年金しか受け取れず、遡りが無いということです。

つまり、請求が遅れれば遅れるだけ、貰える年金も遅れます。

早めの請求が大切ということです。

 

 

 

3.保険料納付要件を満たしていること

 

保険料納付要件とは?

初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること

または
・初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと

 

つまり、

初診日の前々月までに、未納が1/3以上あったり、直近1年間に未納がない

かどうかで、納付要件を満たしているかどうか、確認されます。

国民年金の場合は、初診日以降に後納されていないかどうか納付日についても確認されます。

 

公的年金は保険ですから、保険料を払っていなければ、年金は貰えません。

具合が悪くなってから、慌てて保険料を納めて、それが認められるようなことが無いように、上のように厳格なルールが定められています。

 

年金なんて自分には関係ないと思っていて、もし未納期間がたくさんあると、どんなに障害が重くても、年金は受給できません。

支払いが無理なら免除申請を出し、一部免除ならその一部だけ払っていれば未納ではありませんので、きちんと手続きをしておきましょう。

 

ただし、まだ年金制度に加入していない20歳前に初診日がある場合は、当然、納付要件は問われません。

先天性の障害なども、これに含まれます。

 

※20歳前に初診日があっても、障害基礎年金は20歳からしか受けられません。

20歳前の傷病に基づく障害基礎年金の場合、初診日から1年6ヶ月を経過した日が20歳より前であれば、20歳が障害認定日とされます。

20歳より後であれば、1年6ヶ月経過後が障害認定日となります。

つまり、どちらか遅い方ということになります。

 

いくら貰えるのか

 

・障害基礎年金

2級は老齢基礎年金と同額。1級はその1.25倍です。

子の加算があります。

老齢基礎年金の額改定と同様に、毎年見直されます。

2023年度(2024年3月分まで)は2級が795,000円、1級993,750円です(67歳以下の額)。

該当する子ども(生計を維持している18歳未満の子ども)がいる場合は、子の加算がつきます。

(2人目までは1人につき228,700円 3人目以降76,200円ずつ)

 

・障害厚生年金

老齢厚生年金と同様、報酬と期間で金額が決定します。

2級と3級は報酬比例部分の年金額、1級はその1.25倍です。

1級と2級はそれぞれの障害基礎年金も、併せて受けられます。

配偶者の加算があります。

 

※報酬比例部分=平均標準報酬額×5.481/1000×障害認定日までの月数

月数の合計が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算します。

障害認定日以降の厚生年金加入期間は、年金額計算の基礎とされません。

 

1級と2級に該当すると、障害基礎年金も併せて受け取れます。

さらに、条件に合う配偶者がいる場合は、配偶者加給年金として228,700円が加算されます。

3級には、障害基礎年金2級の額の3/4の最低保障額が定められています。

 

認定を受けても、それで終わりではない

 

基本的には障害状態に変化が無ければ、障害年金を受け続けることができます。

ただ、病気の種類や障害の程度によっては、3年に1度とか、5年に1度など、一定の周期で改めて診断書を提出して、障害状態を再確認してもらう必要があります。

該当する人には、「障害状態確認届」が届くので、その診断書を医師に書いてもらって提出します。

認定結果によっては、等級が変わったり、年金が停止されたりする場合もあります。

 

また、障害が重なったり、障害の程度に変化があれば、自分で再認定を求めることもできます。

 

20歳前に初診日がある障害基礎年金は、納付要件が問われず、保険としては特殊な年金に当たります。

そのため、この年金には所得による制限があり、前年所得がおおよそ470万円で全額停止、370万円ぐらいだと、年金額が半額になります。

毎年、決まった基準に基づいて、所得審査が行われます。

 

 

障害状態、納付要件、初診日の判断など、障害年金は、なかなか自分だけでは請求が難しい年金だと思います。

医師の診断書を書いて貰うためにも、料金がかかります。

まずは年金事務所等で相談して、見通しを立てることをお勧めします。

また、障害年金を専門に相談に乗ってくれる社会保険労務士も多いので、問い合わせてみるのも良いかもしれません。

 

クリックお待ちしております。

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