歯止めがかからない医療費・介護費

 

医療費や介護費の膨張に、歯止めがかかりません。(1/22日経新聞より)

特に、この20年で、介護費は4倍に急増しています。

 

65歳以上の高齢者数は、2042年にピークを迎え、3,878万人に達する見込みです。

2040年には、団塊ジュニア世代が65歳以上になるため、65歳以上が35%に達します。

また2055年には、75歳以上の高齢者が25%を超えるそうです。

 

同時に、認知症患者も増加していき、介護を必要とする高齢者は増えていきます。要介護認定を受ける高齢者は、2040年度には1,000万人に迫る勢いとなるだろう、と予測されています。

 

直近では、団塊の世代が全員75歳を過ぎる2025年問題があります。2035年には全員が85歳を過ぎることとなり、年々増加する医療費・介護費と、それに対する対策が、大きな課題となっています。

 

三菱総合研究所の試算によると、2040年の医療費・介護費は、最大で6割増となる89兆円まで膨らむとされています。

この多額の費用を、保険料収入や税金だけで賄うことは、とても不可能であり、最大で27兆円もの財源が不足すると見込まれるそうです。

もし仮にこの不足分を、現役世代の保険料の値上げで対応すると、今より年に35万円も、保険料負担が増えるという試算もあり、現役世代にばかり負担を押しつけるのではなく、全世代で応分に負担を分けあう仕組みの構築が待たれています。

 

介護に当たる人材の不足も深刻です

高齢化がピークを迎える2040年には、介護職員が65万人が不足すると言われているなか、2022年には、介護業界を辞めた人の数が、働き始めた人の数を超えました。

物の値段が上がり、各業界で賃上げムードが高まっていますが、介護業界は後れを取っているのが現状です。この賃金格差が、他の産業への人材流出を生み、人材不足に拍車がかかったのです。

この、介護業界からの人材の流出は注目を集め、「迫る介護クライシス」といった不安な見出しが、新聞を踊ることとなりました。

 

このような事態を避け、介護に携わる方々の賃金を上げるために、2024年度から介護報酬を引き上げ、介護職員の処遇改善に充てることになりましたが、まだまだ賃金格差を埋められそうもありません。

 

支払い能力に応じた負担増へ

 

超高齢化社会に伴う医療費・介護費の膨張に備えて、社会保障制度改革が今、進められようとしています。

 

同時に、少子化、高齢化が急速に進んでいく流れを緩やかにするために、少子化対策が、続々と打ち出されています。

特に、若い人が急速に減少する2030年代に入るまでが、「少子化トレンドを反転させるラストチャンス」とされ、「我が国の持てる力を総動員」し、「不退転の決意で取り組まなければならない」。

それに対する財源を確保する必要もあって、全世代型社会保障の改革・構築に向けて、2023年12月5日、政府によって、改革行程の素案が示されました。

 

その中で強調されていることの一つが、「能力に応じて全世代で支え合い」、「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心となっている、これまでの社会保障の構造を見直す」ということです。

 

この素案には、医療費や介護費を、支払能力のある高齢者に、もっと負担してもらい、不足を補うと同時に、少子化対策の財源に充てることを目的とすることが盛り込まれており、

短期から中長期まで、

・2024年度に実施する取り組み

・2028年度までに検討する施策

・2040年ごろを見据えた中長期の課題

の3段階に分けて、具体的な改革案が挙げられています。

 

●介護2割負担の対象拡大

 

改革行程の素案では、2024年度中に、年収基準を引き上げて、介護サービスの利用費を2割負担する高齢者数を増やすとされました。

 

介護利用料は、原則1割負担ですが、現在、単身世帯で、280万円以上340万円未満の世帯は、2割負担、それ以上は現役並み所得者として、3割を負担することになっています。

ただ、2割の負担者は、介護保険利用者全体の5%弱、3割負担者は4%弱に過ぎません。

 

2割負担者拡大の素案は、12/7に厚労省の社会保障審議会によって了承され、280万円を190万円等まで広げる試算が示されました。

ただし、素案では、24年度中に増やすとされていましたが、実施は早くても25年8月になると、早くも先送りされてしまいました

介護サービス利用料の負担増は、長期に渡り支払いが発生し、高齢者の負担も大きいことから、慎重論も多いようです。

 

●後期高齢者の医療費窓口負担を、原則2割に引き上げ

 

高齢者の医療費の窓口負担についても、引き上げが示されました。

現役世代の窓口負担3割に対して、一定の所得がある人以外の後期高齢者は、原則1割と、低く抑えられています

高齢化に伴う医療費の増加を、現役世代が負担している構図を是正するために、この原則1割を、原則2割に引き上げる案が、工程表の素案に盛り込まれました。

2028年度までに検討する課題とされています。

 

●現役並みの所得がある高齢者の対象拡大

 

現在、後期高齢者の窓口医療費負担は、原則1割ですが、単身者で年収383万円以上の人は、現役並み所得者として、3割を負担しています。

現在、全体の7%に過ぎない現役並み所得者の対象を拡大し、3割負担の対象者の割合を増やす素案も示されています。

また、介護保険利用で3割を負担している、現役並み所得者の判断基準についても、検討を行うとされています。

これも、2028年度までの検討課題です。


●医療・介護保険の負担に、金融資産を加味する

 

資産を多く保有する高齢者の医療費の自己負担を、2割や3割に上げる案が、検討課題として改革行程の素案にあがっています。

現在は、負担する能力について、保有する資産については考慮されていません

リタイア後の高齢者は、主な収入が年金のみとなるため、所得は少なくなるのが一般的です。

一方で、高齢者は、若年層に比べて、何倍も多くの金融資産を保有しているという統計が出ています。

 

この金融資産も考慮して、高齢者に医療費や介護費を負担してもらうべきだ、という主張は、以前から議論されていましたが、いよいよ政府全体で検討する事項として、取り上げられることとなったようです。

年金は少ないけれど、コツコツ貯めた資産を取り崩しながら生活している高齢者にとって、今後の負担増が気になるところです。

最大の問題は、保有する金融資産をどのように把握するか、ということですが、これについては、マイナンバーカード導入等の、取組状況を踏まえつつ、進めていくとされています。

2028年度までに検討する課題です。

 

●金融所得を加味した負担増の検討

 

また、現在は、株式売却益や配当収入などの金融所得は、特定口座を利用して源泉徴収されれば、確定申告は不要で、申告しなければ、所得として反映されず、保険料等にも加味されません。

 

このような、確定申告の有無によって、保険料の負担が異なるといった不公平な取り扱いを是正し、資産運用の収益である金融所得を把握して、それも勘案した負担を検討することも課題としてあげられています。

これも、2028年度までに実施を検討する項目として、素案に盛り込まれました。

 

●高所得者の介護保険料の引き上げ

 

今年度(2024年度)の介護保険制度の改正で、所得が高い高齢者の、介護保険料を引き上げることになりました。

65歳以上の介護保険料は、所得によって段階的に高くなるように設定されており、厚労省で定めている段階の目安をベースに、各市区町村が決めていて、現在の区分は9段階です。

今の最上位は、年間所得320万円以上ですが、この上に、新たに4段階の区分が追加され、保険料基準額の倍率も上げられます。

保険料が上がる高齢者は、年間の合計所得が420万円以上となりました。

高齢者の4%、145万人が対象となり、月1,200円から3,200円の増額となると試算されています。

この増額分は、住民税非課税世帯の低所得者の保険料を、引き下げる財源として使われます。

引き下げの対象者は1300万人で、高齢者人口の35%に当たります。

2024年4月から実施されます。

 

負担できる人が、負担する時代へ

 

負担する能力のある高齢者に、より多く負担してもらうという「応能負担」の原則は、ますます強化されていきそうです。

また金融資産や金融所得にまで踏み込んだ「負担能力」をどのように正確に把握するかも、今後、具体的な方針が探られていくことでしょう。

 

一握りの資産家や上位所得者はもちろん、自分はそれほど収入はない、そんなに資産も持ってないと思っている高齢者の方々も、応分の負担を!と言われる厳しい時代が、もうすぐやってきそうです。

 

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