健康保険料率が上がっています

 

中小企業の従業員が加入している「協会けんぽ」の、令和5年の健康保険料率が、平均10%となりました。

その結果、介護保険の1.82%、年金の18.3%と合わせた社会保険料は、30%の大台に乗ることになります。(労使折半で労働者の負担は半分)

 

また、大企業の従業員が加入する「健康保険組合」も、健康保険の平均料率が9.27%となる見通しで、介護保険1.78%、年金の18.9%の合計は、29.35%と過去最高となりました。

 

子育て中の妻も積極的に働きに出るようになり、共働きの夫婦の合計年収は増えているのに、社会保険料負担が増加して、それほど手取りが増えていないというデータもあります。

 

健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、お給料から天引きされているこれら社会保険料は、知らず知らずのうちに上がっているようです。

 

少子化対策の財源に

社会保険料を充てる案が浮上しています

 

何となく気づかないうちに、増えている社会保険料が、この春、注目を集めています。

きっかけは、少子化対策の財源に、社会保険料を充てる案が浮上したことでしょうか。

 

3月末、政府から「次元の異なる少子化対策」のたたき台が示されました。

このたたき台には、児童手当の所得制限撤廃や、高校卒業までの支給延長、出産費用の健康保険適用などが盛り込まれています。

 

これによって必要となる、5兆円とも最大8兆円とも言われている規模の財源をどうするか、増税や国債発行で対応するのか、議論が進んでいるところですが、これを社会保険料で賄うという案が、政府・与党内で浮上しています。

 

自民党の茂木幹事長は、5月3日、日経新聞の書面インタビューで

「(少子化財源の確保には) 現状で増税や国債の発行で財源を捻出することは想定していない。まずは歳出削減の徹底や既存の保険料収入の活用で、できる限りの財源を確保したい」と答えています。

 

岸田首相も、消費税率について「10年程度は上げることは考えない」としていますし、国債の活用についても、「負担の先送りだ」鈴木財務相は慎重な姿勢を示しています。

 

その結果、財源の候補と目されている社会保険料ですが、5月7日のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した加藤厚労相の発言が、注目されています。

 

茂木幹事長の回答の中の「既存の保険料収入の活用」という点については、余地がない。今目一杯というか、給付と負担が均衡する形で保険料を頂いているから、そういう余地はない

と、全否定されています。

医療は医療、年金は年金に使う、それぞれ目的と負担の関係で制度を作っている。子ども政策の財源に持っていく余地はない。今でも医療などは保険料を上げて行かざるを得ない

 

また、天引きされる社会保険料を財源に充てるというのは、取りやすいところから取るという「楽な政治に逃げている」という橋本徹氏の意見や、さらに社会保険料を上げることは、企業の負担を増やし、非正規雇用を増やし、逆に少子化が進むのではないかという意見もありました。

 

赤字が深刻な健康保険

 

取りやすいところから取ると言っても、主に大企業が加入する、健康保険組合の赤字は深刻です。

2023年度の予算集計によると、赤字を見込む健保組合は、全体の8割近くに達するということで、赤字幅も過去最大となっています。

 

日本の医療保険制度は、現役世代が高齢者医療費の一部を賄う仕組みとなっており、健保組合は高齢者医療を支えるために、多額の納付金を負担しています

その額は、保険料収入のおよそ44%に当たり、保険料の多くが高齢者の医療費に使われているのが現状です

収支悪化のために、保険料率を引き上げる組合も増えていて、前述したように、今年度の健康保険組合の平均保険料率は9.27%。社会保険料率は過去最高を記録しています。

 

2025年度にかけて、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になっていきます。

その結果、さらに高齢者の医療費はかさみ、拠出金が今後も増え続け、料率を押し上げることが予想されます。

 

給付の見直しが急務

 

そんな状況の中、少子化対策の財源として、社会保険料を充てることは、果たして現実的な方策なのでしょうか。

その前に、まず、社会保険料本来の使われ方を見直す方が先決であることは、疑問の余地がありません。

高齢者医療費削減のために、ジェネリック医薬品を利用したり、過剰な薬の処方を見直す、介護保険に関しては、競争原理に基づいた業者による過剰なサービスの見直しなど、給付費の無駄遣いがないか、などの検討をすべきではないのでしょうか。

 

また、例えば、現役世代の社会保険料を追加徴収するなどによって、現役世代の負担をこれ以上増やすことは、先に触れたように、逆に、少子化を進める要因にもなりかねません。

 

現役世代と高齢者の給付と負担の格差を

再度見直す必要も

 

現行の制度では、高齢者に比べて現役世代の負担が多くなる構造となっています。

また、今の現役世代の負担率は、高齢者が現役世代だった30年前より大きいという指摘もされています。

 

確かに、一部の後期高齢者の窓口医療負担が2割となるなど、高齢者の負担も徐々に増しています。

ですが、これからも現役世代と高齢者の負担と受益のバランスを取るために、負担に耐えうる高齢者をターゲットとした負担増の対策が欠かせないと思います。

増え続ける高齢者の医療費や、介護給付は、まず受益者である高齢者が、率先して負担していく方向にシフトしていかなければ、「次元の異なる少子化対策」は実現できないのではないでしょうか。

 

少子化対策の財源に関して、まだまだ検討が必要ですが、現役世代の社会保険料を更に上げるというような、現役世代に過度の負担を強いるような少子化対策以外に、有効な方策がないか、さらに議論を進める必要がありそうです。

 

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