なかなかブログが更新できないまま、今年も、残りわずかになってしまいました。

今回は、これまでの日経新聞の中から、気になる記事を取り上げたいと思います。

まずは、

 

「年金、3年ぶり増額改定へ」

(11月22日)

 

公的年金は、年金額の価値を維持するために、毎年度、物価や賃金の増減によって、見直されています。

来年4月からの年金額がどうなるか、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏の試算が掲載されました。

また、ニッセイ基礎研究所のホームページにも、詳しい内容が記載されているので、合わせて引用します。

 

それによると、注目ポイントは、

2023年度の公的年金の額面上の支給額は、67歳までは2.1%増、68歳からは1.8%増と、足元の物価上昇を踏まえ、3年ぶりの引き上げ改定となる見通し。しかしながら、給付を抑制する「マクロ経済スライド」が発動し、実質では目減りする可能性が高い

ということです。

来年度は、年金を貰い始めたばかりの67歳までと、68歳以上の場合で、改定率が異なることになるそうです。

 

年金額の改定率は、

物価変動率と賃金変動率から導かれる「本来の改定率」と

年金財政を健全化するための調整率「マクロ経済スライド

さらに、マクロ経済スライドの繰り越し分「キャリーオーバー

の合わせ技で決定されます。

 

また、本来、67歳までと68歳以上では、改定率のルールが異なります。

〇67歳になるまでの改定率

=賃金上昇率(名目手取り賃金変動率)

=前年の物価上昇率+実質賃金変動率(2~4年度前の平均)

〇68歳以上の改定率

=前年の物価上昇率(消費者物価指数の上昇率)または

 上記の名目手取り賃金変動率のいずれか低い方

 

正式な数字は、来年1月を待たなければなりません。

物価変動率については、2022年11月~12月は、いまだ確定されていませんし、改定率に影響する賃金変動率や、公的年金加入者の変動率についても、仮定値とされており、あくまでも「粗い見通し」という前提で、試算が行われています。

 

67歳までは2.1%増、

68歳からは1.8%増の見込み

 

本来の改定率

試算の前提となる物価上昇率は、これまでの統計をもとに、+2.5%と設定されました。

2021年度(2年度前)の実質賃金変動率は+1.4%と仮定されています。

(4年度前+0.1%、3年度前-0.5%のため、3年平均は+0.3%

これらの数字から、本来の改定率を求めると

 

〇67歳になるまでの改定率

賃金上昇率(名目手取り賃金変動率)

=前年の物価上昇率+実質賃金変動率(2~4年度前の平均)

=+2.5%+0.3%=+2.8%の増額改定

〇68歳以上の改定率

前年の物価上昇率=+2.5%

名目手取り賃金変動率(+2.8%)>物価上昇率(+2.5%)

のため、物価上昇率が採用されて+2.5%の増額改定

となります。

 

これまでも何度か登場した「年金額改定のルール」の図をご覧ください。

(「新裁」は年金を受け始めて間もない67歳までの人、「既裁」は68歳以上の人です)

賃金、物価ともにプラスで、賃金>物価のパターン①に当てはまります。

 

 

マクロ経済スライドおよび、繰り越し分による調整

 

上で求めた改定率に、マクロ経済スライドによる調整と、過去に調整されなかった繰り越し分(キャリーオーバー分)の調整を行います。

仕組みは、図を見てください。

 

●スライド率が適用されず、未調整分が発生

 賃金・物価の上昇時に、未調整分が繰り越されて適用される

マクロ経済スライドの調整率は、公的年金加入者数の変動と、平均余命の伸びに基づいて設定されます。

 

2021年度の公的年金加入者変動率は-0.4%と仮定されています。

(4年度前+0.3%、3年度前-0.1%のため、3年平均は-0.1%

平均余命の伸びは固定値で-0.3%

→ マクロ経済スライド調整率=-0.1%-0.3%=-0.4%

キャリーオーバー分-0.3%

合わせて-0.7%、増額分から減らされるため

 

〇67歳になるまでの改定率

+2.8%-0.7%=+2.1%

〇68歳以上の改定率

+2.5%-0.7%=+1.8%

という計算になります。

 

増額改定ですが、物価上昇率には追いつかず、実質の目減りとなる見通しとなりました。

 

実質目減りの影響

 

たとえば月に22万円の年金を受けている68歳以上の場合、2.5%増では月々5,500円の増加になりますが、-0.7%減額で、月々1,540円ほど年金が減る計算になります。

2.5%のインフレを補うことができないため、高齢者の負担感が強まり、景気回復の足かせとなる恐れがあると新聞は警告しています。

 

2022年度の年金額は0.4%減額された上、この1年の物価高で年金は大きく目減りしています。

非課税世帯に対しては、「電気・ガス・食料品等価格高騰緊急支援給付金」が支給されましたが、公的年金収入が頼りの生活者にとっては、相変わらず厳しい状況が続いています。

 

さらに、来年度は、マクロ経済スライドに加えて、溜まったツケを一気に払う事態となり、年金の実質的な価値が維持できない見通しとなってしまいました。

 

日経新聞は、

年金財政の持続性を高めるためには、支給を抑えるルールが必要と述べた上で、

このように物価高の局面で、目減りが大きくなるのは、

物価や賃金が下がる局面で減額を先送りしたこと

それによって、実質的な増額を繰り返してきたこと

このような仕組みに、問題の根源がある

と主張しています。

 

健全な年金財政のために、これまでも様々な改定が行われ、試行錯誤されてきました。

今後は、よりいっそう有効な手段が検討され、実施されていくことを期待したいと思います。

 

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