「老後2000万円問題」は、さまざまな波紋を呼びました。

もともとは、平均値に基づいて、老後30年の不足分を割り出した数字ですが、数字だけが独り歩きをして、年金批判、政府批判に発展し、いたずらに人々の不安をあおった結果になってしまいました。

 

ただ、これをきっかけに、老後の資産に注目が集まったとも言えます。

すでにリタイア目前の人はもちろん、老後のことなど、まだまだ先のことだと思っていた若い人も、老後に向けた人生設計の必要性を、再認識するきっかけとなったのではないでしょうか。

 

自分の状況や将来が見通せないのは、不安なものです。

もちろん、すべてを見通すことはできません。

長い人生、何があるかわかりませんし、状況は変化していきます。

予想外のことも起きるでしょう。

でも、自分自身の状況を「見える化」し、将来を少しでも見通しの良いものにしておく姿勢が、今後の生活やお金に対する不安を取り除く大きな支えとなるのです。

 

状況の「見える化」のためには、

1.家計収支の確認をする

2.ライフプラン表を作成する

3.キャッシュフロー表を作成する

といった手順が必要です。

 

1.家計収支の確認をする

 

まず、現在の家計の収支を確認しましょう。

入ってくるお金と出ていくお金を把握しておかないと、赤字なのか、今後、貯蓄が増えていくのかもわかりません。

「なんだか預金残高が減ってきた」

「なんとなく、足りているような気がする」

といった、漠然としたした感覚ではなく、きちんと数字として収支を意識することが必要です。

 

始めに収入の確認です。

収入は、給与所得者の場合、銀行に振り込まれる金額だけを見て、収入としがちです。

使えるお金(可処分所得)を把握する意味では、それでもかまいません。

ですが、給与明細に記載されている「所得税」「住民税」「社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料)」についても確認し、

 

年間収入-(税金+社会保険料)=年間可処分所得   ………A

 

という捉え方に慣れておくと、リタイア後の収入を把握する際にも役に立ちます。

年金生活では、税金や社会保険料のウェイトが増すからです。

給与収入以外に、児童手当や配当金も、収入に含めます。

 

次に支出の確認です。

まず誰しも、家計簿をつけようと考えるでしょう。

始めのうちは、細々したレシートの内容を逐一記入したり、残金が合わない、等にこだわり、長続きせずに終わってしまうことが多いです。

多少の漏れは気にしないで、長く続けていくことが大切です。

日々の支出よりも、月単位、年単位での支出を確認することが主目的、と割り切りましょう。

 

支出の項目は、好みで分類すれば良いと思います。

ただ、大項目として

・基本生活費

 (食費、水道光熱費、通信費、日用雑貨費、被服費、理美容費など)

・医療介護費

 (医療費、薬代、介護にかかる費用など)

・住居費

 (家賃、住宅ローン、管理費、積立金、固定資産税、家具家電、火災保険料など)

・教育費

 (学校教育費、塾代、習い事の費用など)

・車関連費

 (車両費、車検代、駐車場、自動車税、自動車保険料など)

・娯楽費

 (旅行費用、レジャー費用など)

・保険料

 (生命保険、医療保険)

・その他の支出

という感じに分けて把握しておくと、次のライフプランに結び付きやすく、キャッシュフローの作成にも役立ちます。

 

住居費や、車関連費の中に、それぞれの税金・保険料が入っているところがポイントです。

大物家具や家電など、大きな出費になるものは、住居費の中に含めて捉え、基本生活費とは分けて把握します。

生命保険等は、掛け捨て型と貯蓄型があります。

分けて記録しておくと、貯蓄額として把握できるので便利です。

 

まずは一月分、それから一年分、まとめて支出を記録してみましょう。

毎月支出するものと、年に数回しか支出しないものがあるので、年間を通して記録しないと、年間支出はわかりません。

 

様々な家計簿アプリもあり、クレジットカードに紐づけて、支出を記録してくれるなど、便利なものもありますが、自分流にカスタマイズしにくい難点があります。

集計表だけでも、わかりやすいように、Excelで作成するのもシンプルです。

 

年間支出表の例

 

各大項目ごとにグループ化しておくと、下のように大項目の計だけ表示することができ、わかりやすい表になります。

 

項目ごとにグループ化

 

A(年間可処分所得)-年間支出の総計+貯蓄型保険=1年に貯蓄できる金額

となります。

このようにして、年間収支を確認しておきましょう。

 

2.ライフプラン表を作成する

 

現在の年間収支が確認できたら、次は、将来のイベントについて考えましょう。

結婚、出産、教育、住宅購入、旅行など、人生には様々なイベントがあります。

特に、まだ小さな子どもがいらっしゃるご家庭では、今後確実に、教育という大きなイベントが待っています。

子どもの入学などを考慮して、住宅購入時期を考える必要もあるかもしれません。

車の購入・買い替えや海外旅行など、やりたいこともプランに入れておくと良いでしょう。

 

今わかる範囲でかまいません。

必要経費は、あくまでも目安なので、平均値を調べて記入します。

今後の予定や目標、必要経費を記入したライフプラン表を作ってみると、いつごろ、どのぐらいお金が必要になるのか、将来のイメージがつかみやすくなります。

 

ライフプラン表の例

 

3.キャッシュフロー表を作成する

 

次は、年間収支表とライフプラン表に基づいて、この先数十年分のキャッシュフロー表を作成してみましょう。

キャッシュフローとは、「お金の流れ」のことです。

主にビジネスの場で使いますが、キャッシュフロー表は、家計の将来を予測できるツールとして、位置づけられるようになりました。

 

ただこれは、簡単に言ってしまえば、毎年の収支のプラスマイナスを計算して、貯蓄残高の増減を表にしたものに過ぎません。

数十年に渡り、収支に基づいて、貯蓄残高を予想するものですから、予想期間が長ければ長いほど、誤差が大きくなります

たとえば、この先の物価上昇をどう見るかで、基本生活費も変わってきます。

 

●30代、40代の場合

現在30代のご夫婦が、試しに100歳までのキャッシュフロー表を作っても、100歳時点の貯蓄残高を正確に割り出すのは、正直難しいです。

不確定要素が多すぎて、この年齢では、老後が安泰だとか、心配だとか判断することはできません。

老後よりもまずは、教育費、住宅購入費の準備を、メインに考える必要があります。

ライフプラン表に基づいて、計画を立てましょう。

特に、住宅購入でローンを組む際、将来設計はとても重要になります。

死亡保険や奨学金の検討も必要です。

老後資金については、iDeCoや個人年金を、できる範囲で積み立てておくと、リタイア後にいくらぐらい溜まるのかを把握できる程度で良いでしょう。

100歳までのキャッシュフローは、あくまでも参考程度と捉えてください。

 

●50代以降の場合

教育にかかる費用は終了し、退職金、年金の受け取り額なども、ほぼ確定しますので、本格的に老後資金について、考えることができる時期です。

平均余命は、思いのほか長いです。

100歳までのフローを作りましょう。

キャッシュフロー上では、住宅のリフォームや車を手放す時期、介護施設に入居した場合の必要経費など、より具体的にシミュレーションしてみましょう。

 

●ライフプランソフトについて

キャッシュフロー表は、ネット上で様々なライフプランソフが出回っています。

簡単なシミュレーションしかできなかったり、自分用にカスタマイズできない、などの難点はありますが、収入や支出の平均を提示してくれたり、税金や社会保険料の計算をしてくれるものもありますので、試してみるのもお勧めです。

 

●自分で作成する

自分で作成する場合は、使いやすいようにカスタマイズできます。

税金や社会保険料、物価上昇率をも自分で設定したり、細かな設定ができる反面、調べて入力しなければならないで、内容を理解しなければ作成できません。

 

年間支出で作成した表をキャッシュフロー表用に拡大すると、支出項目とキャッシュフローが連携し、わかりやすいシミュレーションが自分で作れます。

忘れやすいのが、家電の買い替えです。

10~15年に一度、50~100万程度、支出項目の住居費に入れておきましょう。

 

30代夫婦、まずは60歳までのキャッシュフローの枠組み

 

前年の貯蓄残高+今年度年間収支=今年度貯蓄残高

です。

 

収入や生活費は、上昇率を決め、計算式を入れておきます。

収入は、給与収入の間は、可処分所得(手取り)で良いでしょう。

iDeCo等、資産運用や、会社の財形などについては、積立内訳に記録します。

その扱いについては考え方にもよりますが、年間収支の計算式には含めない方が、わかりやすいと思います。

その場合は、運用益ゼロとして、自然に貯蓄残高に残ります。

計算式を入れておくと、積立内訳の中で、運用成績をシミュレーションすることができます。

 

リタイア後のフローも、この枠組みで続けられます。

年金額の見込みは、そこから税や社会保険料が控除されるので、注意が必要です。

免許返上、家のリフォーム、介護費用なども加味して、シミュレーションしましょう。

 

 

さて、以上のような、状況の「見える化」は、ある時点で一度行えば良いわけではありません。

継続して行うことが大切です。

毎年、年間収支の確認を続けていると、状況の変化がよくわかります。

それに合わせて、ライフプラン表・キャッシュフロー表も毎年見直せば、より現実的な将来予測が実現できるはずです。

 

 

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