65歳未満で、まだ老齢年金も受けていない働き盛りの配偶者を亡くしたら、これからの暮らしのこと、お金のこと、不安ですね。
まだ成人前のお子さんがいる場合は、さらに深刻です。
どんな場合に、どれぐらいの遺族年金が受け取れるのでしょうか。
遺族年金は、死亡者のそれまでの年金加入状況や、遺族の年齢によって異なります。
この回では、
在職中、
または退職後に在職中の病気やけがが原因で亡くなった場合
に受け取ることができる遺族年金について、見ていきましょう。
※在職中の病気やけがが原因で死亡
=在職中に初診日がある傷病が原因で、初診日から5年以内に死亡
在職中(厚生年金に加入していなければなりません)の配偶者が、まだ65歳にもならず、年金を受ける前に亡くなった場合、死亡者の記録を見て、遺族年金の要件に当てはまるかどうか、判断されます。
老齢年金受給中の方が亡くなった場合は、保険料納付済み期間、保険料免除期間、および合算対象期間を合計して25年以上なければ、遺族年金の受給資格期間を満たしていることになりませんでした。
ですが、このケースでは、上記期間が25年に足りなくても、保険料納付要件を満たしていれば、遺族年金が受給可能です。
25年の条件も満たしている場合は、有利な方で、遺族年金が受けられます。
遺族は、死亡者に生計を維持されていた方でなければなりません。
生計維持関係については、前回の記事を参考にしてください。
生計同一、年収850万円未満が、基本的条件です。
保険料納付要件とは?
死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの被保険者期間のうち、
納付済み+免除期間>被保険者期間の2/3以上
または
死亡日が含まれる月の前々月までの1年間に未納なし
(死亡者が65歳未満の場合)
死亡日の前日での納付状況を見るのは、亡くなってから保険料を納めてもダメだということです。2/3が微妙な場合は、納付日や被保険者期間などの、詳しい記録の確認が必要とされます。ただ、厚生年金加入の場合は、保険料はお給料から天引きされているので、死亡日以前、1年以上お勤めしていた場合は、1年間未納なしの条件で、クリアできるはずです。
それでは、具体的な年金の種類と金額について、以下の順番で説明して行きましょう。
1. 子がいる場合
a. 遺族基礎年金の金額
b. 遺族厚生年金の金額
c. 子が全員、18歳年度末に達したら?
遺族が妻の時と夫の時の違い
2. 子がいない場合
遺族が妻の時と夫の時の違い
1. 子がいる場合
子とは、18歳になる年度の3月31日までの子です。
つまり高校卒業までの子ということですね。
(障害のある子であれば20歳未満)
受け取れる年金は、遺族基礎年金+遺族厚生年金です。
※遺族が夫で、妻死亡時55歳未満の場合は、遺族厚生年金の受給権者は子です。
55歳未満の夫は、遺族厚生年金を受けられません。
a. 遺族基礎年金の金額
遺族基礎年金の金額は、老齢基礎年金の満額+子の加算額です。
令和3年度の老齢基礎年金の満額は、780,900円
子の加算は、子が2人までは、各224,700円 3人目以降は各74,900円です。
たとえば、子が1人であれば、1,005,600円、2人であれば、1,230,300円です。
上の子が18歳年度末を迎えるたびに、1人ずつ子の人数が減っていきます。
b. 遺族厚生年金の金額
亡くなるまでの記録に基づいて計算された老齢厚生年金の、報酬比例部分の3/4です。
報酬比例部分は、報酬額と被保険者期間によって決まりますので、死亡者の報酬が低かったり、期間が短ければ、年金額も低くなってしまいます。
今回のケースでは、被保険者期間が300月に満たない場合は、300月とみなして計算されることになっているので、期間が短くても安心です。
具体的な金額を知りたければ、どうすれば良いのでしょう。
定額の遺族基礎年金に比べて、遺族厚生年金の金額は、報酬や加入期間によって決まるので個人差があり、わかりにくいですね。
老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4ということですが、まだ受け取っていない老齢年金の金額は、何を調べればわかるのでしょうか。
ねんきん定期便の活用
毎年誕生月に、ご自分の年金記録が記載された「ねんきん定期便」が、日本年金機構から送られてきます。
ここには、直近1年間の年金加入状況や標準報酬月額、見込み額などが記載されています。
また、35歳、45歳、59歳の節目には、封筒で書類が送られてきて、全期間の加入状況など、より詳しい記録が確認できます。
日本年金機構のねんきん定期便の説明は
こちらから
↓
ねんきん定期便の見込み額は、50歳未満と50歳以上60歳未満で、異なった視点で計算されています。
50歳未満は「これまでの加入実績に応じた年金見込み額」
50歳以上は「今現在の報酬で60歳まで働いたと仮定した場合の年金見込み額」
です。
50歳未満の場合は、これまでの加入実績に応じた老齢厚生年金の額が記載されているので、これを3/4してみましょう。
厚生年金の月数が300月に満たなければ、「300月/厚生年金加入月数」を掛けることで、300月みなしの年金額が求められます。
50歳以上の場合は、60歳まで今の報酬で働くという仮定の見込み額です。
定期便には、報酬比例部分の金額が記載されていますが、これを3/4しても、60歳前に亡くなった場合のシミュレーションとは言えないでしょう。
参考までに、最後に遺族厚生年金の計算方法を記載しておきましたが、かなり複雑で、しかも、平均標準報酬額がわかっている場合しか計算できません。
日本年金機構のホームページには、ねんきんネットというツールが出ています。
この年金額の見込みを求める機能を使って、退職日を仮定してシミュレーションしてみると、より正確な見込み額が求められるはずです。
ねんきん定期便には、ねんきんネットのアクセスキーが記載されています。
誕生月にねんきん定期便が来たら、ぜひ確認してみてください。
日本年金機構のねんきんネットの説明は
こちらから
↓
さて、遺族年金は、ずっと同じ金額が貰えるわけではありません。
子の年齢、配偶者の年齢によって、変わっていきます。
c. 子が全員、18歳の年度末に達したら?
遺族基礎年金は失権となり、終了します。
(子の婚姻や養子縁組等で、配偶者の遺族基礎年金が失権した場合も同様です)
子の加算を含めると100万以上の遺族基礎年金が無くなり、年金額は大きく減額します。
その後、遺族が受け取る年金はどうなるのでしょう。
夫か妻かで、また年齢によって、だいぶ異なります。
遺された配偶者が妻の時
・40歳時に遺族基礎年金を受け取っていた妻の、遺族基礎年金が終了した場合
遺族厚生年金+中高齢寡婦加算(65歳まで)が受け取れます。
中高齢寡婦加算は、老齢基礎年金の3/4 令和3年度は585,700円です。
65歳になると、自分の老齢基礎年金が始まります。
老齢厚生年金の分、遺族厚生年金が減額します。
(下図参照)
・遺族基礎年金終了時、妻が30歳未満
5年経つと、遺族厚生年金は失権します。
遺された配偶者が夫の時
・妻の死亡時に、夫55歳未満
遺族基礎年金の終了とともに、遺族厚生年金も終了します。
遺族厚生年金を受給していたのは、夫ではなく、子だったからです。
・妻の死亡時に、夫55歳以上
遺族基礎年金とともに、いったん遺族厚生年金も停止します。
→夫が、60歳になった時点で遺族厚生年金が復活します。
もともと夫には、たとえ子どもがいても、遺族基礎年金の権利がありませでした。
また、妻死亡時夫55歳以上の場合に、遺族厚生年金が発生し、受給は60歳からでした。
平成26年(2014年)4月以降、遺族基礎年金を受けられる遺族が「子のある妻」から「子のある配偶者」に変わり、遺族基礎年金の男女格差が解消されました。
ですが、妻死亡時に55歳未満の夫は、相変わらず遺族厚生年金の権利がありません。
55歳以上の夫も、遺族基礎年金を受けている間だけは60歳未満でも遺族厚生年金が受けられますが、遺族基礎年金が終了すると、60歳まで夫の遺族厚生年金が停止します。
2. 子がいない場合
→遺族基礎年金は発生しません。遺族厚生年金のみです。
遺された配偶者が妻の時
・妻が30歳未満
遺族厚生年金は5年間で失権します。
・妻が40歳以上65歳未満
遺族厚生年金+中高齢寡婦加算(65歳まで)
遺された配偶者が夫の時
・夫55歳未満
遺族厚生年金の権利は発生しません。
・夫55歳以上
遺族厚生年金の権利はありますが、受給開始は60歳からです。
60歳~65歳になると、遺族ご自身も、老齢年金を受けられる年齢となります。
その場合は、65歳未満は、遺族年金との選択、65歳以上は自分の老齢厚生年金を優先して受ける、といったように、遺族年金との調整が始まります。
参考
遺族厚生年金の計算方法
1.報酬比例部分の年金額(本来水準)
2.報酬比例部分の年金額(従前額保障)
(従前額保障とは、平成6年の水準で標準報酬を再評価し、年金額を計算したものです。)
本来水準<従前額保障の場合は、2の計算式で求められた金額となります。
平均標準報酬月額とは、平成15年3月までの被保険者期間の計算の基礎となる各月の標準報酬月額の総額を、平成15年3月までの被保険者期間の月数で除して得た額です。
平均標準報酬額とは、平成15年4月以後の被保険者期間の計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15年4月以後の被保険者期間の月数で除して得た額(賞与を含めた平均月収)です。
これらの計算にあたり、過去の標準報酬月額と標準賞与額には、最近の賃金水準や物価水準で再評価するために「再評価率」を乗じます。
※厚生年金保険加入中の死亡、または加入中の傷病がもとで、5年以内に死亡した場合の、遺族厚生年金では、被保険者期間が、300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算します。
※老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある時の遺族厚生年金の場合、計算式の1000分の7.125及び1000分の5.481については、死亡した方の生年月日に応じて(昭和21年4月1日以前生まれ)、1000分の9.5~1000分の7.230、および1000分の7.308~1000分の5.562となる経過措置があります。
今回のまとめ
●今回は、まだ成人前の子がいて、在職中の配偶者が亡くなった場合を中心に、受け取ることができる遺族年金について考えてみました。
●在職中の死亡の場合は、300月みなしや、中高齢の寡婦加算が、被保険者期間の長さにかかわらず加算されるなどの、メリットがあります。
●現役の方が亡くなった時の遺族厚生年金、金額を予測したくても、計算式が複雑です。
ねんきん定期便やねんきんネットを手がかりに、概算を予想することは可能です。
ご夫婦で年金事務所などに相談に行けば、その時点の見込みを出してもらえます。
●在職中に初診日のある傷病が原因で、5年以内に亡くなるというケースは、初診日の証明や、死因についての因果関係等が証明される必要があります。
在職中、身体に不調を覚えたら、退職前にお医者さんに診てもらいましょう。
障害年金も同様のことがありますが、初診日が大切です。
是非、心がけておきたいことです。
次回は、死亡時に厚生年金に加入していなかった場合について、見ていく予定です。