医療保険のおかげで、私たちが病院や薬局の窓口で支払うお金は、1割~3割の負担で済んでいます。

 

とはいえ、治療が長くなると、どこまで医療費が嵩むか、とても不安になりますね。そのような時に備えて、民間の医療保険に加入している人も多いでしょう。

こういった保険には、入院・通院すると一日いくらか保険金が貰えるとか、特定の疾病と診断されたら一時金が出るとか、色々なバリエーションがあります。

いざという時に安心かもしれませんが、保険料の負担も大きいので、かけ過ぎは禁物です。

 

そのような話題の時に、必ず引き合いに出されるのが、公的医療保険の

高額療養費制度」   です。

 

これは、医療機関や薬局で支払った額(保険診療分)が、ひと月(月の始めから終わりまで)で上限額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です

 

この制度によって、意外に医療費は低く抑えられるから、あまり民間の医療保険に入る必要はない、というアドバイスは、よく耳にしますね。

 

確かに、とてもありがたい制度ではあるのですが、医療費の負担割合が、所得に応じて増えてきたのと同様に、高額療養費制度も見直され、自己負担額は徐々に高くなっています。

 

2025年に、団塊の世代が全員75歳以上となり、ますます医療費の増大が見込まれる中、年齢に関係なく、負担能力に応じた負担をしてもらう必要があります。

 

この「全世代型の社会保障」が、この先、どこまで進んでいくのか。10年先、20年先を考えると、残念ながら、ちょっと予測がつきません。

 

それでも、ご自分の収入がどのぐらいであれば、どの程度の支払いで済むのか、だいたいのイメージを持っていると、これからの医療費を、具体的に予測しやすくなります。

 

●自己負担限度額

毎月の自己負担上限額は、年齢や所得によって、次のように決まっています。

                                    (厚生労働省HPより)

70歳未満の場合(平成27年(2015年)1月から)

適用区分 自己負担限度額
 年収約1,160万円~
 健康保険組合等加入者:標準報酬月額83万円以上
 国民健康保険加入者:旧ただし書き所得901万円超
 252,600円+
(医療費-842,000)×1%
 年収約770~約1,160万円
 健康保険組合等加入者:標準報酬月額53万~79万円
 国民健康保険加入者:旧ただし書き所得600万~901万円
 167,400円+
(医療費-558,000)×1%
 年収約370~約770万円
 健康保険組合等加入者:標準報酬月額28万~50万円
 国民健康保険加入者:旧ただし書き所得210万~600万円
 80,100円+
(医療費-267,000)×1%
 年収~約370万円
 健康保険組合等加入者:標準報酬月額26万円以下
 国民健康保険加入者:旧ただし書き所得210万円以下
  57,600円
 住民税非課税者   35,400円

 

※旧ただし書き所得とは?
前年の収入総額から必要経費や給与所得控除、公的年金等控除及び住民税の基礎控除等を差し引いた額のこと

 

※住民税の基礎控除は33万円です(令和3年度からは43万円)

 

70歳以上の場合(平成30年(2018年)8月から)

適用区分 自己負担限度額
外来
(個人ごと)
外来・入院
(世帯)
現役並み  年収約1,160万円~
 標準報酬月額83万円以上/
 課税所得690万円以上
 252,600円+
(医療費-842,000)×1%
 年収約770万円~約1,160万円
 標準報酬月額53万円以上/
 課税所得380万円以上
 167,400円+
(医療費-558,000)×1%
 年収約370万円~約770万円
 標準報酬月額28万円以上/
 課税所得145万円以上 
 80,100円+
(医療費-267,000)×1%
一般  年収156万~約370万円
 標準報酬月額26万円以下/
 課税所得145万円未満等
 18,000円
(年間上限14.4万円)
 57,600円
低所得者  低所得者II(※1)  8,000円  24,600円
 低所得者I(※2)  15,000円

 

※1 被保険者が市区町村民税の非課税者の場合


※2 被保険者とその扶養家族全ての方の収入から必要経費など(公的年金については控除額80万円)を差し引いた後の所得がない場合

 

簡単な例で、具体的な計算をしてみましょう。

 

〇70歳以上で、年収370万円~770万円

 現役並み所得者で負担割合は3割です。

 

 ひと月の間で、医療費が100万円かかったとすると、自己負担額は3割の30万円。

 

 自己負担限度額は、

 80,100円+(100万円-267,000円)×1% = 87,430円

 

 高額療養費として、30万円-87,430円 = 212,570円が支給され、

 

 その月に負担する医療費は87,430円のみ

   となります。

 

●自己負担限度額の見直し

70歳以上の高額療養費は、医療負担の公平を図るため、平成29年(2017年)8月と平成30年(2018年)8月の2回に分けて、段階的に引き上げられています。

 

参考:平成29年8月の引き上げ  70歳以上(平成29年(2017年)7月まで)

 

区分 高額療養費の自己負担限度額(月額)
外来(個人ごと) 外来・入院(世帯ごと)
現役並み所得者
(標準報酬月額28万円以上)
 44,400円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
《多数該当:44,400円》
一般  12,000円  44,400円
市町村民税
非課税世帯
低所得者Ⅱ  8,000円  24,600円
低所得者Ⅰ  15,000円

参考:平成30年8月の引き上げ  70歳以上(平成29年8月から平成30年7月まで)

区分 高額療養費の自己負担限度額(月額)
外来(個人ごと) 外来・入院(世帯ごと)
現役並み所得者
(標準報酬月額28万円以上)
 57,600円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
《多数該当:44,400円》
一般 14,000円
(年間144,000円上限)
 57,600円
《多数該当:44,400円》
市町村民税
非課税世帯
低所得者Ⅱ  8,000円  24,600円
低所得者Ⅰ  15,000円

 

市町村民税非課税世帯は、据え置きのままでしたが、一般区分と現役並み所得者の自己負担限度額が、引き上げられました。

特に現役並み所得者は、さらに3段階に区分され、外来のみの上限も廃止されました。

70歳未満と、足並みが揃えられたことになります。

 

70歳以上になると、お勤めを退職し、収入が年金のみというケースが増えます。

年収156万円から370万円の一般区分に当てはまる方も多いのではないでしょうか。

 

この段階の負担額は、今のところ、まだ70歳未満より優遇されていると言えますが、この先、病院にかかることが多くなる年代ですので、外来(個人ごと)年間144,000円の上限は、この先も維持してもらいたいものです。

 

また、ボーダーラインにいる方は、段階が上がると、一気に自己負担限度額も上がりますので、注意が必要です。

 

70歳未満については、平成27年(2015年)1月に見直しがありました。

 

改正前(平成26年12月診療分まで)
区分 所得要件 限度額(円)
   A
 (上位所得者)
標準報酬月額53万円以上
旧ただし書所得600万円超
150,000+(総医療費-500,000)×1%
<多数回該当 83,400>
  B
 (一般所得者)
旧ただし書所得600万円以下
 A、C区分以外の方
80,100+(総医療費-267,000)×1%
<多数回該当 44,400>
  C
 (非課税世帯)
住民税非課税 35,400<多数回該当 24,600>

 
 現行区分 改正後(平成27年1月診療分から)

区分 所得要件 限度額(円)
   ア 標準報酬月額83万円以上
旧ただし書所得901万円超
252,600+(総医療費-842,000)×1%
<多数回該当 140,100>
   イ 標準報酬月額53万~79万
旧ただし書所得600万円から901万円以下
167,400+(総医療費-558,000)×1%
<多数回該当 93,000>
   ウ
 
標準報酬月額28万~50万
旧ただし書所得210万円から600万円以下
80,100+(総医療費-267,000)×1%
<多数回該当 44,400>
   エ 標準報酬月額26万円以下
旧ただし書所得210万円以下
57,600<多数回該当 44,400>
   オ 住民税非課税 35,400<多数回該当 24,600>

 

所得区分が、3段階から5段階に細区分され、所得が高い人の限度額が引き上げられました。

 

近年の、70歳以上の限度額は、これに足並みを揃える形で、段階的に見直しされてきたのです。

 

これから先は、年齢に関係なく、負担能力に応じて、負担を担うという仕組みが、当たり前になっていくでしょう。

 

今回のまとめ

高額療養費制度は、医療費の負担に限度を設ける、ありがたい制度です

 

●高所得者を中心に、限度額を引き上げる見直しが、どんどん進んでいます。

 

●所得によって限度額が違いますが、平均的には70歳未満の場合は、ひと月に8万円超、年金生活の70歳以上の人の場合は、外来だけなら年間14万4,000円、入院した場合や世帯単位では、ひと月57,600円を、上限額の目安にできます。