テスラ低価格EVの詳細判明。「モデルY」小型化、4工場で400万台生産
米EV(電気自動車)大手テスラが、新たな低価格モデルの投入に向け、生産能力の拡大を計画しているという。低価格モデルはSUV「モデルY」の小型版になるといい、年間最大400万台の生産体制を敷く。複数の業界関係者が明らかにした。テスラはこの生産戦略を産業チェーンに通知しているところだ。400万台の生産能力は世界の工場に分散させることになっており、北米の工場で200万台、ドイツ・ベルリン工場と上海工場でそれぞれ100万台を生産する。北米の工場のうち、メキシコのモンテレイ工場がこの新モデル生産の主力を担う。
36Krはこの件についてテスラの中国法人にコメントを求めたが、本稿執筆までに回答は得られなかった。
この生産能力の拡大計画は、テスラの最近の動向からもいくらか予測できた。今年の投資家向け説明会では、メキシコのモンテレイに新たな工場を建設することが発表された。その後、同工場の面積は約4200エーカーで、テキサス工場より68%大きく、上海工場の約20倍の規模になるとメディアが報じている。さらにベルリン工場についても、複数のメディアが公的機関の文書を引用し、テスラが工場の生産能力を年間50万台から100万台に引き上げる変更申請を行ったことを報じた。
テスラが低価格モデルを発表するという情報はかなり前から流れていた。最初にその話が持ち上がったのは、2020年の「バッテリー・デー」のことだ。テスラはバッテリーの自社生産計画を発表、生産規模が拡大すれば2023年までに2万5000ドル(約330万円)の自動運転EVを実現できると、イーロン・マスクCEOは語った。その後、この2万5000ドルの低価格モデルは「モデルQ」「モデル2」という名称で発表されるとのうわさが流れるも、テスラに動きは見られなかった。しかし今年3月の投資家向け説明会で、テスラのチーフエンジニアであるラース・モラビー氏が、現行のモデル3やモデルYの半分のコストで「次世代」の自動車を製造する考えを改めて示したのだ。
テスラがこれまでの半分のコストで自動車を生産するとなれば、販売価格は15万元(約290万円)かそれ以下にまで下げられることになる。
値下げは市場を刺激する強力な武器だ。テスラは今年1月に中国市場向けモデルを大幅に値下げし、販売台数を急速に伸ばした。2023年1~3月期の世界納車台数は、前年同期比36%増の42万2875台となり、過去最高を記録した。仮にテスラ車が15万元で買えるようになれば、また一気に販売台数が伸びるだろう。
とはいえ、実現するための条件はいまだ整っていない。
大手自動車メーカーのエンジニアの話では、そのメーカーでも過去に15万元のスマートEVを開発する計画が持ち上がったが、コストを詳細に計算した結果、とても15万元以下では販売できないという結論に至ったという。結局、同社の10万元台のスマートEV開発は棚上げされ、製品ラインの最低価格は20万元(約380万円)に引き上げられた。中国新興EVメーカー理想汽車(Li Auto)の李想CEOも、現在の同社の規模では、20万元以下の市場に参入しても利益を確保することは難しいと語ったことがある。
それでもテスラは突き進むしかない。これまで技術革新によりコスト削減を実現してきたテスラだけに、シンプルなE/Eアーキテクチャや一体成型、自社製チップなど使える武器は十分にある。新しく建設されるメキシコ工場も生産効率アップに貢献すると期待されている。マスクCEOによると、同工場では自動車を6つのブロックに分けてそれぞれに組み立てた後、全てを一度に組み合わせて完成させる方式を採る。これにより作業密度や空間効率が大幅に高まり、モデルYと比べて生産コストを50%削減することができるという。現在の工場建設の進展具合からして、15万元モデルの量産はすぐには実現しないとの見方を示す関係者もいる。一方で、テスラがもしEVの価格を10万元余りにまで下げることができればEV業界は激変すると、業界関係者は分析している。
テスラは常に野心に満ちた販売計画を打ち出してきた。マスクCEOは昨年、生産量を増やすために10~12カ所の工場を新設し、2030年までにEV年間販売台数2000万台を達成できるだろうと語った。低価格モデルを巡る今の動きから見るに、テスラは実現に向けてすでに行動し始めている。
(翻訳・畠中裕子)
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