憧れの藤枝さんの声が、TSUTAYAで聞こえる


誰かと話してるのだろうが、相手の声や、何を話しているかは聞き取れない。

オレは胸をドキドキさせながら、徐々に藤枝さんの声がする方へと近づいていく。


藤枝さんは、漫画の新刊のコーナーに居た。

オレが藤枝さんの存在をこの目で確認しても、藤枝さんはまだオレの存在にはまだ気づいていない。

で、藤枝さん


男と手を繋いでる



一瞬相手が誰かわからなかったけど、藤枝さんと手を繋いでる男は、クラスで一番オレをいじめてくる桑田だった。

チビのくせに、女への立ち振る舞い方がうまくて、結構モテる。桑田。


オレは思わず呆然と立ち尽くしてしまった。怒りと悲しみに襲われ、逃げたかったり破壊したかったり、こみ上げるものがありすぎて、結果的に体が動かなかった。


桑田は、ワンピースの新刊を手にとって、藤枝さんに「今回のワンピースやばかったよ!」と言った。
「そうなんだ!まだ読んでないなぁー」と、藤枝さんは陽気に返す。

「マジかよ!ワンピース読んでないとか、お前人生の3分の1損してるって!」

と、桑田。

「えーそんなにー!?それは大変だww読まなきゃ」

ふたたび陽気に返す藤枝さん。

その時オレは思った。

桑田てめーバカヤロウ。
藤枝さんがワンピースなんて楽しく読む筈がねぇだろ。死ねよ糞。オレを苦しめる偽善者であるお前がワンピースで流した涙なんて、イカくせーペニスのニオイしかしねーんだろうよ。そんなに海賊王になりにてぇんだったら、オレがてめーに麦わら帽子持たせて東京湾に沈めてやろうか?お?!てめーはいつも自分に自身持ってるもんな?!
だからそれくれーされても、君なら平気で海賊王になれると思うから大丈夫だよ!
しかも、人生の3分の1をワンピースで満たしてしまってるお前は、良くても3分の2しか藤枝さんのためには生きれないと言ってるようなもんじゃねーか。最低。
このヤリチン野郎が!ワンピースじゃなくてマンピース(同人誌)でも読んで一生シコってろ!



そしてオレは違う!

1分の1を彼女に注げる!その時点でお前に勝ってんだよ

糞糞糞

糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞



「あれ?鈴木じゃん」


その声で我に返る。

先にオレの存在に気づいたのは、藤枝さんではなく桑田だった。








まずい。




「あれ!鈴木くんだ!♪」

と、無邪気な笑顔の藤枝さん。

オレの体は相変わらず固まっている。


「何やってんの?またプリキュアのDVD借りに来たの?w」と、桑田。

出た出た。いつもの、証拠ない意地汚いジョーク。

言っておくが、オレは、プリキュアとか別に好きじゃない。

人を小馬鹿にする代表として、プリキュアを出してくるあたり、性格の悪さが滲み出てる。

別に中三の男子がプリキュア好きでも別にいいのにね。


こいつはなんて次元の低い人間なんだろうか。


なんて思いつつ、オレの口から出た言葉は

「そんなんじゃねーよ!オレがいつそんな事言ったんだよw」

という、苦笑まじりの、道化師全開の冴えないツッコミだった。

「Kornの新作借りに来たんだよ。藤枝さんはもう聴いた?」と言えたら、どんなに良かったろうか。
いや、良くはないか。もうわからない。結局また、自分よがりな理想や妄想の世界でしか物事を考えていないのかもしれない。オレは。勝手に彼女の事を好きになって、勝手に頭の中で彼女の事をどんどん神格化してるだけに過ぎないのかもしれない。
それでも、それこそが、オレが信じてる世界の全てだし、それはこれからも変わる気がしない。

オレがやりたかった事。最も憎んでる奴に叶えられるなんて。

藤枝さん、桑田の事が好きなの?幸せなんだろうな。手を繋いでるもんね。
桑田の立ち振る舞いは、とても巧みだもんね。

藤枝さんとTSUTAYAに来ることの重みについて、奴は考えた事があるだろうか。

オレの叶えたかったそれとは、物理的には同じなのに、質も湿度も違うんだよ。




どん底。







頭の中で、何かがブチ切れて、線香花火のようにパチパチ弾けて、堕ちた。



オレはどうしようもなくなり、その場を逃げ出した。



逃げ出したといっても、いきなり走り去ったわけではない。

いきなり走り去って逃げれたなら、漫画みたいで

いくらか絵になったんだろうけどな。



「じゃあまた、、」となるべく冷静を装って、歩いてその場から逃げ去ったのであった。


こんな時でも、オレは無難な判断しかできない。


校舎の傀儡を演じるしかない。桑田にも怯えてる。



背後から藤枝さんの声が聞こえる


「あ、もう行くの?鈴木くん」

その言葉はスルーして、とりあえず最短距離でTSUTAYAの出口へ向かう。振り向かずに、歩いて向かう。










TSUTAYAを出ると、空は誰そ彼で、ピンクと水色が入り乱れ、灰色の雲が太陽を隠して輝いていた。



とても綺麗だった。


テンジクまでもう少しみたいに。



藤枝さん

オレが、君を好きで居るこの世界は、いつだって、こんなにも美しいんだよ



ただ


それが



陰性の残酷か、陽性の残酷かの


違いなんだ。









側に居て欲しかったなぁ








































さよなら







































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〈第4話へつづく〉