第15回卓上奇術の会 | マジックと奇術と手品と・・ほか少し★

マジックと奇術と手品と・・ほか少し★

手品は6歳から始めた。人生の最初の6年間が惜しい。なんてね。

おとといの話。

下北沢の駅には早めに着いたので、軽くデランチの場所を探す。
あ、「デランチ」というのは、ブレクファストとランチを合わせてブランチ、というのと同様のかばん語。
ランチとディナーを合わせて作ってみた言葉だ。
今思いついて書いただけなので、前例があるかは分からない。
いや、まず存在しない言葉。


複数の路線が交差する駅にありがちだが、下北沢駅の周囲は単純に「表」と「裏」といった形では認識しづらい。
交差しているのは、小田急小田原線と、京王井の頭線の2路線。
どちらも大きく見れば東西に走る路線なのだが、どちらも地図上で見ると、少し斜めに傾斜している。
したがって、大枠での「駅北口」と「駅南口」以外に、東と西にもそれぞれ、線路に挟まれた狭いエリアがあるのである。
さらに、付近の道路はあまり大通りといった規模の道ではなく、基本的に線路とは平行に走っていない。

ざっと以上のような理由で、道慣れぬ者には、駅周辺の位置関係が掴みにくいのだ。
しかし同時に、方向感覚を狂わされるような雑多でヒューマンスケールな町並みが、緩く広がっている点こそが、下北沢という街の大きな魅力でもある。

さらに言うならば、交通の要衝にはありがちなように、駅周辺だけが際立って過密であるということもない。
駅に明確な街並みの焦点が結ばれているわけでもなく、色々な個性をまとった店舗や、住宅や公共施設などが、タペストリーのように折り重なっている。
あるところは疎に、またあるところは密に、ゆらぎながらどこまでも続いてゆく街は、そぞろ歩きにぴったりだ。




これまで何度か歩いたことのある街路から、少し外れた、いまだ歩いたことの無いエリアに足を踏み入れてみる。
小さな冒険、とまで言うのは言いすぎであろうが。

そこで出会った、いかにもこの地で歴史を刻んで居そうな、新雪園という中華料理屋に入る。
まだ夕方と呼ぶには少し早い時間とて、店内には他に客は居ない。
典型的な中華屋といった風合いの、漢字で書かれたメニューをしばらく眺め、私は天津麺と、腰果鶏丁を注文した。

天津麺は、天津飯のラーメン版。蟹玉をラーメンの上に載せた料理だ。
私はこのメニューが好きで、初めて行く中華屋でこのメニューがあれば、大抵はそれを注文することにしている。
ここの麺は、少し平らな形状の、細いきしめんのような麺。カップラーメンの麺のようだ、とも言えるかもしれない。
もちろん味はカップラーメンではなく、中華屋の麺だ。



腰果鶏丁は、鶏肉のカシューナッツ炒めのこと。これも中華の中ではお気に入りだ。
ここのそれは、鶏肉、ナッツ、そしてピーマンとタマネギと長ネギの取り合わせで、比較的あっさりしたものだった。




そうこうしているうちに今日の目的の時刻となる。
「第15回卓上奇術の会」だ。
これはカズ・カタヤマ氏が毎回同じカフェを借り切って、定期的に開催されているクロースアップマジックショーで、私は過去何度か参加している。

会場となるカフェは、「カフェ・マル・ディ・グラ」と言い、表の通りから数歩入った、裏路地のようなところにある隠れ家のような店だ。
先に述べた通り、下北沢の周辺は全体的に路地のような細かい道が走っている街並みだが、そこからさらに裏に入ったような場所だ。

店はベージュとブラウン基調でまとめられたインテリアで、渋い光沢を持つ木材の調度をベースにして、アンティークな感じの人形や食器などが並んでいる。
カフェで鑑賞する奇術、バーで観るマジック、それぞれ異なる体験があり、一概には比べられない。
しかし、ここのアンティークな空間は、カタヤマ氏の演じる古典的テイストのクロースアップマジックを観るには、うってつけの雰囲気であると、私は思う。


ここのショーは、カタヤマ氏の主催なので、カタヤマ氏がメインで出演されることは毎回変わらない。
それ以外の演者は、毎回変わる。
今回の共演者は、私と同年代のマジシャン、MASAO氏だ。
演技者が2人だけというのは、いつになく少ない構成。

演技構成は、カタヤマ氏とMASAO氏が交互に、それぞれ2回ずつ出演という形。
間に休憩時間があって、手作りケーキとお茶をいただける。

まず最初にカタヤマ氏が挨拶がてらにワンダラーコインを用いた手順を演じられたが、これがなかなかテクニカルな内容。
現象はバラエティに富んでいて楽しませていただいた。
ただ、少し聞こえてはいけないところで空耳が聞こえたりした箇所もあって、そこは惜しかった。

MASAO氏にもたくさんのマジックで楽しませていただいた。
中でひとつ、アリ・ボンゴのごちゃまぜ予言のような内容で、予言を紙ではなくiPadの画面を用いて見せるという演技があった。
これについては、個人的には若干の疑問を感じてしまう。
iPadというのは、指でタッチする位置や角度によって、いくらでも条件分岐を恣意的にコントロールできるのではないか、と想像してしまうのだ。
iPadやスマートフォンは一般的によく知られているガジェットなので、このような感覚は決してマニアならではの杞憂である、とも言い切れないと思う。

またマックス・メイビンのメンタル作品、クロツケを、紙袋とダルマの人形のようなものを用いて演じられた。
あれはカジュアルな感じが出ていてとても良かったと思う。

会場の前列に、とても可愛らしくて反応の良い、小さな女の子が居て、新聞紙の切り絵を使ったクイーンのカードの予言が彼女を対象に演じられた。
あの図は、今回のMASAO氏の演技の中でもハイライトだった。

カタヤマ氏による最後の締めは、高木重朗氏による往年の名作、「Do as I do Rope Routine」。
カタヤマ氏によるこの作品の演技は、過去にも数度拝見したことがあるが、観るたびに面白く、異なる味わいがある。
ロープで表現できる、最高のエンターテイメントのひとつではないかな。


ところで、前回のこのショーでは、数人居る出演者の誰もがクロースアップマットを持参していなかったとのことで、私が偶然持っていた小さなマットをお貸しするハメになった。
今回はまさかとも思い、私はマットを持ってはいなかったのだが、後で聞いたところでは、今回もマットを使うつもりだったのに忘れてしまったとのこと。
確かに、ショーの全体を通じて、マットが使用されていなかったのには気づいていたが。

もちろんお二人とも実力あるマジシャンで、その程度のアクシデントには簡単に対処されることは、私が言うまでもない。
しかし、マットなしの状況にその場で対応しようとすると、どうしても演目が若干サロン寄りになることは否めない。
私としては、「卓上奇術の会」なのだから、出来ればこういう恵まれた環境でしか観られない、しっかりしたクロースアップマジックが観たいのである。
できれば、そのようなアクシデントが無いように準備していただきたいものだ。


とはいえ、今回もマジックのみならず、お店の内装や茶菓子、さらにはマジシャン自身や観客さえもひっくるめた全ての要素を、相対的な「空気」として、しっかりと堪能させていただいた。
マジックを楽しむための要素は、マジックだけではないのだと、ここに来るたびに強く思う。


そんな形で会が終わり、今回は出演者がカタヤマさんとMASAOさんのお二人だけということで、私も打ち上げにご一緒させていただくこととなった。
出演者が多いと、打ち上げは内輪での反省会を兼ねることになるので、私のような部外者の入る幕ではないのだが、カタヤマさんとMASAOさんのお二人とは、以前よりそれなりに懇意にさせていただいているので。
このメンバーに、Yuji村上さんを加えれば、つい先日の飲み会と同じ面子である。
利用したお店も、そのときと同じ「大庄水産」という海鮮居酒屋。

前回の同じ場所での飲み会では、最終電車の時刻を、勘だけで適当に予想していたら、乗り遅れてしまった。
今回はその反省もあり、ある程度の余裕をもって、お先に失礼させていただいた。