日本でデング熱(中国語で登革热 Dēnggérè)による死亡者が出ました。フィリピンで感染して日本に帰国後お亡くなりになられたようです。
以下はNHKのニュースサイトから引用。
デング熱に感染 新潟の30代女性が死亡 (7月22日 21時33分)
> フィリピンに滞在していた新潟県内の30代の女性が、帰国後に蚊が媒介するデング熱に感染していたことが分かり、21日、医療機関で死亡しました。
> 死亡したのは新潟県に住む30代の日本人の女性です。厚生労働省などによりますと、この女性は今月15日までおよそ2週間、フィリピンに滞在し、滞在中から頭痛や発熱の症状があったため、帰国後、新潟市内の医療機関に入院していました。
> 検査の結果、今月19日にデング熱に感染していることが確認され、21日、死亡したということです。女性は国内では蚊に刺されておらず、フィリピンで感染したとみられるということです。ことしに入って、国内でデング熱への感染が確認された人は、今月10日までに173人で、死亡した例は平成17年に1人が確認されて以来です。
広東省など中国南部はもともとデング熱が存在する地域です。2016年6月13日までに、デング熱患者は中国で154人報告されています。過去4年間(2012-2015)の同時期と比べると、この患者数は高い数字です。
世界中でデング熱感染者は増えており、推定で年間3億人が感染し、うち1億人程度が症状が出ていると考えられています(無症状の感染者もいます)。
デング熱の流行地域。色が濃いほど危険。ウイルスを持つ蚊が存在して病気が流行する(誰でもかかりうる)地域と、ウイルスを持った蚊が普段は存在しない地域がある。日本や上海は流行地域ではないが、感染者がいると蚊によって周囲に病気が拡散することはある。地球温暖化で媒介蚊の生息域が広がり、流行地域は拡大傾向にある。こちらのHPから引用。
2014年の中国のデング熱患者分布。赤丸がその地域で(=流行している)での感染。黄色と青は住んでいるところ以外(=出かせぎや旅行など)で感染したと考えられる患者。Lai S, et al. BMC Medicine2015;13:100から引用。
上海にはデング熱の流行はありません。しかし、国外や中国南方で感染して上海で発症する例はあります。2015年は1年で27人、2016年は6月までで4名が当局に報告されています(未報告がもっとあるかもしれませんが)。
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デング熱はデングウイルスを持った蚊に刺されることで発症します。またデング熱にかかった患者さんの血を吸った蚊が、また別の人を刺すことで病気が広がることもあります。人から人へ直接感染はしません。
発症すると突然の高熱、頭痛、眼の奥の痛み、結膜の充血(インフルエンザに似ている)がでて、熱は2-7日間ほど続きます。さらに全身の筋肉痛、骨や関節の痛み、全身のだるさがあります。特徴的なのは発症後3-4日後に胸やおなかから始まる発疹で、四肢、顔面に広がります。症状は1週間くらいで改善します。
デング熱の皮疹。かゆいこともある。こちらのHPから引用。
多くの場合、デング熱は自然に軽快します。私が以前カンボジアではじめてみた患者さんは非常に元気で、ちょっと拍子抜けしたのを覚えています。
しかし、数%の人は重症化して最悪の場合皮下出血や消化管出血、血圧低下などをきたして死亡します(デング出血熱やデングショック症候群とよばれます)。
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デング熱だけではなく、ジカ熱も黄熱も日本脳炎も蚊に刺されることで発症します。
普段から蚊に刺されないように注意しておいたほうがいいですね。
[追記1] 日本では1942から1945年に、神戸・大阪・広島・長崎などで約20万人に上るデング熱の大流行がありました。これは温帯での最大のデング熱流行でした(デング熱は基本的に熱帯の病気)。この時のウイルスは戦地で感染した人が日本に持ち帰ったものと考えられています。
[追記2] 最近デング熱のワクチンが開発されました。今年からはじめて、まずフィリピンで予防接種が始まりました。まだ世界中どこでも使われている状況ではありません。
写真はデング熱ワクチン(Dengvaxia)、サノフィパスツール社製。こちらから引用。