有名なA型・B型・C型肝炎と別に、E型肝炎(中国語で戊型肝炎Wù xíng gānyán)が最近注目されています。
下記は昨日の日本の報道から。TBSのHPから。
E型肝炎患者が過去最多に、豚やジビエ肉・内臓「生で食べないで」
> 生の肉を食べることなどで感染するE型肝炎の患者数が今年すでに227人に上り、過去最多となったことがわかりました。厚生労働省は、「豚や、イノシシ・シカなどジビエの肉や内臓は生で食べず、よく火を通してほしい」と呼びかけています。
E型肝炎は、汚染された食物を介して口から肝炎ウイルスが消化管に入って起こります。私の勤めるクリニックでもこの病気の疑いのあるかたが、たまに受診されます。
症状は、倦怠感、 食欲不振、発熱、悪心・腹痛などの消化器症状、肝腫大、肝機能の悪化、黄疸などです。潜伏期は平均6週間です。自然に回復することが多く、まれに重症化します。妊婦が感染すると重症化しやすいこともわかっています。
A、B、C型肝炎とちがって、ウイルスの抗体検査がちょっと大変であるのと、感染しても症状が出ない人がいて、この病気の診断や感染源の同定は少し難しいです。
◆
さて、中国はE型肝炎が多い地域です(下図黄土色の地域)。
アメリカCDCのHPから引用。
中国では全国的な対策でB型肝炎患者は減っていますが(それでも世界的には多い国)、E型は漸増傾向です。
古いデータですが、緑が中国のB型肝炎診断数、赤がE型肝炎。E型肝炎は増えています。おそらく以前からもっと存在していたのでしょうが、診断技術の進歩で正確に診断される患者さんが増えたのでしょう。未診断の患者さんも多いと思われます。こちらから引用。
また、E型肝炎ウイルスは遺伝子のタイプ(genitype)が1から4まであり、中国で見られるウイルスは4が主体です(下図)。
日本も4型がみられますが、3型も検出されています(上図は古く、日本は4のみになっています)。遺伝子のタイプによって、不潔な飲み水で感染するパターン(1,2型)、動物から感染するパターン(3.4型)といった特徴があります。Scobie L, Dalton HR. Journal of Viral Hepatitis 20(1):1-11から引用。
◆
E型肝炎ウイルス感染を予防するために、豚レバーをはじめとする豚肉については、生で食べないようにしましょう。ただし十分に加熱調理を行えば感染の危険性はありません。また、ハム・ソーセージなどの加熱済み食品は感染の心配はありません。
同様に、シカやイノシシなど野生動物の肉などもE型肝炎ウイルス感染の危険性があり、生では食べないようにしましょう。
[追記1] 牛のレバーは腸管出血性大腸菌、鳥の生肉はキャンピロバクターが存在する可能性があります。両者ともに加熱せずに食べるのは危険で、生で食べることはお勧めできません。日本では食品衛生法で生の牛レバーも豚レバーも提供は禁止されています。中国でも同様の規制があるかはわかりません。中国人スタッフも規制があるどうか知らないといってました。
[追記2] E型肝炎ウイルスワクチンは、世界に先駆けて中国で開発されました(商品名はHecolin、下写真)。しかしまだ予防にどのように使っていくか研究途上であり、標準的な予防策にはなっていません。中国在住の外国人に打つことも、いまはお勧めしていません。
写真はこちらのHPから引用。
[追記3] 中国産の貝にE型肝炎ウイルス(遺伝子型4)が見つかるとの報告もあります。渤海でとれたS. subcrenata (サルボウ、赤貝の仲間)の28.2%,、A. granosa(ハイガイ)の14.3%、R. philippinarum (アサリ)の11.5%にみられたそうです。貝も加熱して食べるのが賢明ですね。Gao S, et al. Int. J. Environ. Res. Public Health 2015;12:2026のデータ。