あまり一般になじみのないリステリア菌によって冷凍食品が汚染されている可能性があり、日本で回収の騒動になっています。下は朝日新聞から。
イオン、冷凍野菜2商品を自主回収 食中毒菌混入の恐れ
2016年5月14日00時53分
> 小売り大手のイオンは13日、プライベートブランド「トップバリュ」の冷凍野菜2商品で、食中毒の原因となるリステリア菌が混入している疑いのある原料を使用していたと発表した。加熱調理すれば、食べても問題はないとしているが、系列の約1800店舗で自主回収を始めた。(以下略)
リステリア菌。写真は電子顕微鏡で撮影したものに色をつけて表現。こちらのサイトから引用(英文)。
この問題はイオンのせいというより、アメリカから調達された原材料がリステリア菌に汚染されていたためのようです。
アメリカでこの野菜を加工したのはCRF Frozen Foods社という会社ですが、当然アメリカでも同社製品は回収対象になっています。報道はこちら(英文)。
リステリア菌は1929年に病原性があることはわかっていました。しかし以前はあまり注目されせんでした。
この菌は1981年になってはじめて食中毒の原因として認識されました(カナダでのコールスローの汚染での集団食中毒)。
近年、死亡例を含む食中毒の原因菌として注目されています。また以前、日本ではリステリア感染が少ないといわれていたのですが、どうやらそれは間違いだったようです。
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リステリア症は、リステリア菌に高濃度に汚染された食品を食べることが原因で発症します。
リステリア菌は環境中にも存在します。少量であれば摂取しても健康人にはあまり問題がありません。全く症状がでないことも珍しくありません。
しかし、特に妊娠中の人は重症化したり胎児死亡がおこったりします。乳幼児、高齢者、免疫不全者、基礎疾患のある人も発病しやすいです。
発病初期には発熱や頭痛などインフルエンザ様の症状を示します。吐き気、嘔吐、そして下痢も生じます。症状はたいてい5~10日で治まります。
食中毒といえ、胃腸炎よりもインフルエンザのような症状に注意です。重症化すると髄膜炎や敗血症を起こし、重症化した場合の致死率は 20から30 %にもなります。
2011年にアメリカでリステリア菌の感染源となったカンタロープ(マスクメロンの一種)。こちらから引用。4時間以上室温で放置したメロンは食べないほうがいい。
感染予防には下記に注意します(横浜市衛生研究所のHPを参考にしています)。
- 動物性の生の食物(例えば、牛肉、豚肉、鳥の肉等)はよく加熱する。
- 生野菜は食前によく洗う。
- 加熱していない肉は、野菜や調理済みの食物、食べる用意ができている食物から離しておく。加熱していない肉を盛っていた皿をそのまま食事に使わないこと。[焼き肉店で注意]
- 加熱していない生の食物を扱った後は、手、包丁、まな板をよく洗うこと[これは基本]。
さらに、リステリア症になりやすい人たち(例えば、妊婦や免疫不全者)は、次のようなことにも注意した方が良いでしょう。
- ソフトチーズ(例えば、フェタチーズ、ブリーチーズ、カマンベールチーズ、ロクフォーチーズ、メキシカンスタイルチーズ等)は、避ける。プロセスチーズ、クリームチーズ、コッテイジチーズやヨーグルトは、避ける必要はない。
- 残り物の食物や食べる用意ができている食物(例えば、ホットドッグ)は、食べる前に強く熱を加えること。 食物の内部も摂氏74度以上に達するよう加熱する。
リステリアは、一般的な食中毒菌が増殖できない4℃以下の低温でも増殖できる点が特徴です。冷蔵庫を過信できませんね。また12%の食塩濃度(塩蔵)でも増殖します。
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中国でもリステリア感染はおこります。
今年2月に発表された報告では、そのまま食べられる加工食品(味付けされた冷蔵カット野菜、ローストチキン、ローストポーク、牛乳)からリステリア菌が検出されたとあります(Wu S, et al. Front Microbiol. 2016; 7: 168)。ただしこの報告は菌の生物学的性質を調べたもので、詳しい食品の状況などは書かれていません。
また中国国内での1964年から2010年の147件のリステリア症の集計では、重症化例で26%が死亡し、特に子供が危ないと報告されています。また下記のグラフのように、発症する季節は春と秋に多いです(Feng Y, et al. Trop Med Int Health. 2013;18:1248)。
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妊婦さん、子供、抵抗力の低い人では、ナチュラルチーズ、食肉加工品、野菜サラダはできるだけ新鮮なものを食べましょう。また加熱できる加工食品は食前に再加熱しましょう。古くなった果物は食べるのを避けましょう。
健康な人ではリステリア菌を過度に恐れる必要はあませんが、発病して重症化すると死亡率が一気に上がります。長引くインフルエンザ様の症状がある場合、我慢せずに医療機関を受診してください。