最近、花粉症の薬で悪夢を見るという話題が出てますね。
例えば、ネットでは花粉症の治療薬の1つである「アレグラ」と悪夢の記事が出ています(記事はこちら)。
アレグラで悪夢が出現する頻度は製薬会社の添付文書では0.1%以下と少ないですが、確かに悪夢をみる人はいるようです。基本的にアレグラ自体はいい薬です。かつて自分でも鼻炎症状で飲んでいました
医療用アレグラ60mg。サノフィ社のサイトから引用。アレグラの一般名はフェキソフェナジン塩酸塩。
薬を飲まなくても悪夢を見る人は珍しくないので、薬と悪夢の因果関係は簡単には明らかにできません。そもそも悪夢をみるメカニズムそのものも、まだしっかり解明されていません。また同じ内容の夢でも、人によって悪夢と思ったり、悪夢ではないと感じたりするでしょう。精神科的に悪夢にはどんな夢か定義がありますが、ここでは深入りしません。
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悪夢を見る可能性がある薬として昔からベータ遮断薬が有名です。降圧剤などとしてよく用います。高齢者の場合、薬剤性悪夢が認知症と誤診されることもあります。
このほかにも悪夢をきたす可能性(報告)のある薬は山ほどあります。たとえば以下のタイプの薬。このような薬をのんで、その一部の人が悪夢をみるということですから、全員に悪夢が起こるわけではありません。興味のあるかたのために、一番下に悪夢を起こす可能性が指摘されている薬を列挙します。それでもまだ一部ですが。
- ベンゾジアゼピン系薬・類似薬
- 抗うつ剤
- 抗パーキンソン病薬
- 抗精神薬
- 抗アレルギー薬(アレグラはここに含まれる)
- 抗HIV薬
- 麻薬性鎮痛剤
- 抗真菌薬
- 高脂血症治療薬
脳内のセロトニンレセプターに直接または間接的に作用する可能性のある薬は悪夢を起こしやすいようです。
写真は薬と悪夢に関する記事から。
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薬の添付文書(説明文書)を見たことがあるますか。最近は一般の方でもネットでみることもできます。
そこには事細かに、起こりうる副作用が書いてあります。繰り返しますが常に起こるのではなく、起こりうるです。
この記載がなかなかのクセ者です。
私は日本で製薬会社の依頼で薬の効き目や副作用の調査をしたことが何度もあります。
副作用調査の原則として、因果関係が否定されなければ、患者さんに起こった不利益な現象は副作用として考慮する(記録する)、ということがあります。
ですから、薬の薬理作用とは関係なく、患者さんにおこったよくないことはなんでも副作用として記載される可能性があります。特に複数の患者さんで発生した現象はそう扱われます。
これは未知の薬理作用を探し、患者さんの利益を守るためにはいい姿勢です。また製薬会社の社会的責任として細かな情報開示は大事です(副作用が出た時の責任問題回避にもつながります)。
ただし、困ったことは、治療中に起きた不都合な事象を「なんでも薬のせい」としてしまう医師や患者さんがまれにいることです。探せば自分におきた不快な事象が副作用一覧に書いてある確率は高いですから。
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薬を使用中に患者さんに不利益な症状が出た場合、それを副作用と判断するかは非常に難しい。医師でも判断に悩むことがあります。
医師がすべき対応は、患者さんからよく状況を聞くことと、副作用と断定できてもできなくても患者さんが納得できる説明をすることです。そしてその薬を継続すべきか中止すべきかを適切に判断すること、中止するなら替わりになる薬を検討できることもできなければなりません。
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アレグラの話に戻ると、鼻水が楽になるなら悪夢をみてもいいと思う患者さんがいる一方、悪夢を見るなら花粉症が良くならなくてもいいと思う人がいるでしょう。後者の患者さんに何ができるかが主治医の力量の見せどころです。
多くの場合、内服時間や内服量を変える、半減期の短い他の薬にする、内服ではない治療薬や手段を提案する、といった代替案を出すことが可能です。
例えば私の外来では、アレグラのような花粉症薬で悪夢ではありませんが眠気がひどい方に半減期の異なる薬に変えて副作用を減らすようにできることがあります。ただしうまく対処できないことも残念ですがありますが…。
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症状についてよく相談できる主治医をみつけましょう。また副作用一覧にあるからといって単純に副作用と自分で決めたり、過度に恐れたりすることも避けましょう。
[悪夢を起こす可能性があると添付文書に記載のあるくすりの例。一般名で記載。(この他にもあります)]
アテノール、オクスプレノロール、カルテオロール、ピンドロール、プロプラノロール、ベタキソロール、ペンブトロール、メトプロロール、メチルドパ、レセルピン、レシナミン、クアゼパム、ゾルピデム、トリアゾラム、ハロキサゾラム、フルジアゼパム、メキサゾラム、メダゼパム、ロルメタゼパム、クロミプラミン、ダンドスピロン、トラゾドン、マプロチリン、アマンタジン、セレギリン、タリペキソール、ドロキシドパ、プラミペキソール、クエチアピン、エピナスチン、フェキソフェナジン[これはアレグラ]、モンテルカストナトリウム、アタザナビル、エファビレンツ、デラビルジン、サキナビル、テノホビルジソプロキシル、ネビラピン、ロピナビル、リトナビル、オキシコドン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、バレニクリン、プラバスタチン、アトルバスタチン。