上海で1988年にA型肝炎の大発生

がありました。日本ではリクルート事件があった年ですね(知らない人多いか!)。となりのトトロが公開された年でもあります。

 

1988年1月に上海市内で発熱、嘔吐、頭痛、黄疸などを訴える患者が急増しました。A型肝炎の集団発生です。その年の3月まで発生は続き、最終的に310,746名もの患者が発生し、31人の死者が出ました(この数字は資料により異なるがほぼ一定)。

 

病院に患者を収容しきれず、工場なども臨時に使われたそうです。いま一緒の職場の看護師さんのお母さんも入院したとか。下記は当時の報道写真です。

 

写真はこちらから引用

 

原因は海の貝。A型肝炎ウイルスで汚染された海水にすむサルボウガイ(毛蚶)と呼ばれる貝(下記写真)を生で食べたことでした。この貝は赤貝に似ていて、日本でも採れます。中国ではほぼ生に近い状態で食べる習慣があり、便などで汚染された海水中の貝についていたA型肝炎ウイルスが、多くの人の口から入って発病しました。

 

写真はこちらから引用

 

A型肝炎ウイルスは口から侵入し、便中に排泄されます(B型肝炎との違いです)。海水の汚染は、急激な都市化により不潔な排水が海に大量に流れ込んだことが原因と考えられています。

 

A型肝炎の予防のためには、手をよく洗うこと(トイレの後、食事の前、調理前、オムツ替えの後など)が大事。また、料理はよく加熱することが重要です。

 

生活環境の改善や衛生観念の向上もあり、中国では下記グラフのようにA型肝炎(中国語で甲型肝炎)は発生が減少しています。

 

グラフはこちらから引用。緑がA型肝炎、赤は最近注目のE型肝炎です。

 

いまではA型肝炎ウイルス保有者はインドアフリカの方が中国より多い状況です。

 

A型肝炎ウイルスの保有率。こちらから引用。元データは[1]。

 

しかし、今でも小規模な集団発生は起きています。

 

2013年に江西省新絳Xinjian県でA型肝炎の集団発生がありました。この事案を調査したところ、煮沸しない水(生水)を飲む習慣や食べ物の影響よりも、患者さんへの密接な接触の有無と手洗いの習慣があるかが感染に大きく関連していたそうです。手洗いは多いほど感染予防にいいそうです(日に5回以上)[2]。

 

一時的な海外滞在なら安全というわけではありません。

 

肝炎ウイルス感染は、ドイツの調査では、短期旅行も長期滞在も感染の危険に変わりはなかったそうです[3]。また、癌で免疫力が低下しているかどうかによっても危険性は変わらないと報告されています[4]。

 

ワクチンは肝炎予防に重要です。(長くなったので次回につづく)

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[1] Jacobsen KH, et al. Hepatitis A virus seroprevalence by age and world region, 1990 and 2005. Vaccine 2010; 28:6653.

[2] Yu P, et al. Epidemiological investigation of an outbreak of hepatitis A in rural China. Int J Infect Dis. 2015;33:191.

[3] Heudorf U, et al. Travel medicine and vaccination as a task of infection prevention—data of the special consultation hours of the public health department Frankfurt on the Main, Germany, 2002–2004. Gesundheitswesen 2006;68:316,

[4] Mikati T, et al. International travel patterns and travel risks of patients diagnosed with cancer. J Travel Med 2013;20:71.