狂犬病についての最終回です。普段よくきかれる質問をまとめました。

10個ありますので、興味のあるかたはご覧ください。

なお用語などは以前の記事も参考にしてください。以下では動物に打つワクチンのことでなく、人間に打つワクチンについてのみ書いてあります。

 

これは中国でよく使われる狂犬病ワクチンのパッケージ。製薬会社のHPから。

1.狂犬病ワクチンに副作用はありますか?

現在用いられている狂犬病ワクチンは、非常に安全性が高いです。

 

他のワクチンと同じように、全員にではありませんが、ワクチンを打った場所の一過性のはれや赤み、痛みが出ることがあります。また一過性の発熱もおこります。これらは普通治療の必要がありません。


なお製造時ゼラチンを使うワクチンもあり、その場合ゼラチンにアレルギーがある方は使用できません。


過去に用いられていたワクチンは動物のを原料としてウイルスを培養してワクチンを製造していたため、脳由来の神経組織成分の混入で麻痺や死亡などの強い副反応が発症する場合がありました。発展途上国をのぞき、現在流通しているワクチンは動物の脳を使わないので、麻痺など起こることは基本的にありません。まれに血小板減少症などが起こるようですが、頻度はとても少ないです。


また狂犬病ワクチンは不活化ワクチンに分類され、妊娠中にも原則接種可能です。ただし、多くの妊婦さんを対象にした安全性の検討がないので(というより、できないので)、接種は医師とよく相談してからにしましょう。

2.どこで狂犬病ワクチンは打てますか?

ワクチン接種を希望される場合、日本国内についてはFORTHのホームページから実施医療機関を探すことができます。

 

上海では、多くの日系クリニック、外資系クリニックで接種が可能です。中国語が堪能なかたは、ローカルクリニックでも接種してもらえると思います。
 

注意することは以下です。

①在庫がない場合もあるので、事前に電話などで確認する

②曝露前ワクチンは海外旅行保険でカバーできない

③価格は医療機関により異なる

④実施したら、かならず文書で記録をもらい、なくさないようにする(ワクチン記録カードなど)

3.曝露前ワクチンを2回まで日本で実施し、そのあと3回目を打たずに海外に滞在しています。3回目はどうしたらいいですか?

ワクチンは基本的に同じ製品でその予定を完了したほうがいいのです。しかし、時間的にそうできない場合もありますね。

考えられる対応法は下記の4つ。それぞれの医療機関によって方針があるので、よく相談して納得いく方法をとってください。


①感染のリスクが少ない場合や、滞在が短い場合、日本での2回だけにして、あとはそのままにする。日本製ワクチンを2回(1日目、28日目)だけ打つと、はじめは全員に十分な抗体ができますが、6か月経過時には有効な抗体を持つ人が40%くらいに減ることが分かっています。

図は日本ワクチン産業協会、2014予防接種に関するQ&A集から。


②外国製ワクチンを3回目として1回打つ。ただし、これでいいかのデータはありません
③外国製ワクチンで1回目から打ちなおす。確実な抗体獲得にはこれが一番いいでしょう。

④3回目のワクチン予定期間に日本に一時帰国して予定通り接種する(難しい?)


4.時間がないので日本製ワクチン外国製ワクチンの方式で打てないのですか?


日本製ワクチンの曝露前接種完了には最短で6か月かかります。これでは実際的でないので、日本製ワクチンを外国製ワクチンのスケジュール(1、7、28日目)で打って有効かがかつて調べられました。結果、そのやり方で接種しても有効であることがわかっています。ただ、さまざまな医学的でない理由があり、日本製ワクチンを外国製ワクチンのスケジュールで打ってくれる医療機関はほとんどありません。

Yanagisawa N, et al. Pre-exposure immunization against rabies using Japanese rabies vaccine following the WHO recommended schedule. J Infect Chemother. 2010;16:38

5.杭州で犬にかまれました。曝露後ワクチンは2回現地で接種しました。そのあと日本に帰国します。その後日本でどうしたらいいでしょうか?

考えられる対応は2つです。

 

①同じワクチンが、日本で輸入品として手に入る場合は、それを使って予定の接種スケジュールを終了するのが一番いいです。
日本製ワクチンしかない場合、日本製ワクチンを打ちましょう。同じ製品で予定をこなす原則から外れますが、命にかかわるので、そうは言っていられません。トータル5回の接種ができていれば、ワクチンの種類が途中で変わっても発病をおさえられえるという論文があります。

高山直秀、他.外国製狂犬病ワクチンに引き続き国産狂犬病ワクチンで狂犬病曝露後発病予防を受けた人々における抗狂犬病抗体価. 感染症学誌 2002;76:882.

 

6.どうして曝露前ワクチンをしているのに、動物にかまれたあとにまたワクチンが要るのですか?

曝露前ワクチンをしていても、犬にかまれて曝露後ワクチンをしなかった場合に狂犬病を発症する例があるからです。


また、曝露後ワクチンをする前に、その場での傷の十分な洗浄を決して忘れないでください。ワクチン実施より大事です。

 

同じ日に同一の犬にかまれた人が2名いて、傷を洗浄してワクチンをした患者さんの方は生存し、傷を洗浄しないでワクチンだけした患者さんの方は死亡したという報告があります(生存例では免疫グロブリンも使っている)。

Gadekar RD, et al. Same Dog Bite and Different Outcome in Two Cases – Case Report. Clin Diagn Res. 2014;8:JD01

 

台湾衛生部の狂犬病啓発ポスター。おしゃれです。

7.上海で隣人の飼犬にかまれました。どうしたらいいでしょうか。

その犬がしっかり犬用の狂犬病ワクチンを打っていれば、ふつう狂犬病曝露後ワクチンはいりません(医療機関での傷口の消毒や破傷風の対策は必要)。


その犬が狂犬病ワクチンを打たれていない、または実施がはっきりしないときは、かまれた人は曝露後ワクチン接種を開始しましょう。同時に並行して犬の観察をします。10日たって犬が狂犬病症状を発症しなければ、その時点で犬に狂犬病ウイルスはないと判断し、曝露後ワクチンはそこで中止できます(心配であれば最後までワクチンを実施してもいい)。

 

10日後、犬が発症しているか判断がつかない場合は、残念ですが犬を安楽死させて犬の神経中のウイルス存在を調べることも考慮します。

8.犬にかまれなくても感染しますか?

まれながら、可能性はあります。たとえば、2014年に杭州であった感染では、患者さんが自分でカッターナイフで切ってできた傷口に、狂犬病ウイルスを持った野犬にかまれた知人の血液がついたため、そこからウイルスが侵入して狂犬病を発症してその方は亡くなりました。

 

こういったことの予防のため、狂犬病の危険地域では曝露前ワクチンを実施したほうがいいと思われます。

Zhu JY, et al. A case report on indirect transmission of human rabies. J Zhejiang Univ Sci B. 2015;16:969.

 

9.曝露ワクチンの追加接種はいりますか?

ワクチンで作られた体内の抗体は、時間とともに減少します。このため、抗体を長期間保持するのには追加のワクチン接種が望ましいです。その期間はワクチンにより様々ですので(3-5年に1回など)、そのワクチンを接種した医療機関に問い合わせてください。

 

なお感染リスクの少ない場所での居住や職業にある場合、追加接種は必ずしも必要ではありません。

台湾の狂犬病啓発ポスター。かわいい。


10.狂犬病の免疫グロブリンとはなんですか?

大まかないいかたをすると、ワクチンは体内で抗体を自分で作る助けをする薬です。免疫グロブリンは、抗体そのものを体に入れる薬です。

 

免疫グロブリンは曝露に、たとえば傷が大きい時(感染の危険性がとても高いとき)などに使います。また曝露ワクチンがされていれば通常打つ必要はありません。


狂犬病免疫グロブリンは高価で、入手が容易ではありません。日本では製造されていません。中国では製造されていますが、やはり入手は簡単ではありません。

 

ではみなさん、犬や猫にはくれぐれもかまれないようにご注意ください。

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関連記事もご参照ください。
マジメな狂犬病の話(1)-どのくらい発生しているのか

マジメな狂犬病の話(2)-発症したらどうなるのか

マジメな狂犬病の話(3)-知っておくべきウイルスの特徴

マジメな狂犬病の話(4)-ワクチンの基本的考え方