日本で昨日、野生のイノシシに住人がかまれるニュースがありました。

 

【注意】以下にはかまれた傷の写真、療養中の方の写真があり、敏感な方は閲覧注意です。

 

> 【埼玉の住宅街でイノシシ大暴れ 3人かまれ負傷】

> 埼玉県神川町の御嶽山付近の住宅街で13日、住民がイノシシに相次いで襲われ、3人が負傷した。

> 埼玉県警児玉署によると、同日午前11時40分ごろ、同町の民家の庭で、住人の女性(64)がイノシシに腕や足をかまれて軽傷を負った。北東方向に約420メートル離れた別の民家でも同日午後1時45分ごろ、玄関先で住人の女性(50)がイノシシに襲われ、をかまれて軽傷。さらにイノシシは路上で近隣に住む男性(82)に飛びつき、口や足にかみついてけがを負わせた。3人はいずれも病院に搬送された。

> イノシシは体長約1.5メートルで、警察や地元の猟友会が行方を追っている。

引用は産経新聞のニュース2016年2月13日

 

イノシシの牙。上あご(黒矢印)と下あご(白矢印)に大きなものがある。日本のイノシシも同じ牙をもつかはわかりません。写真はKose O, et al. Wilderness Environ Med 2011;22:242の論文(トルコ)から引用。上記記事のイノシシではない。


かまれた方々は大変でしたね。早くお元気にならられることをお祈りします。

 

日本ではかまれた傷の手当の際に、破傷風や動物の持つその他の細菌感染をまず心配する必要があります。狂犬病の可能性は通常ゼロです。

 

しかし、これが外国だと狂犬病対策(発症予防)が大切です。狂犬病は発症するとほぼ100%死亡しますので。

 

狂犬病を人にうつす可能性のある動物の代表は犬、猫、猿、コウモリ、キツネ、オオカミ、アライグマ、スカンク、マングースなどです。基本的にイノシシを含め哺乳類なら何でも伝播させる可能性があります。しつこいようですが日本国内ではこれらにかまれても通常心配ありません

 

ちなみに狂犬病ウイルスを持つイノシシが一番見つかっているのはロシアのようです(WHOデータ)。

 

イノシシにかまれた傷。上記論文から引用。

 


では実際に狂犬病を発症するとその動物や人はどんな症状になるのでしょうか。ほとんどの日本人はみたことがないと思います。

 

イヌが狂犬病を発症すると、興奮し、攻撃的になります。よだれもたくさん出すようになりますが、この唾液中に破傷風ウイルスが存在するのです。このイヌが人をかむと狂犬病がうつります。逆にイヌの体が麻痺してしまう場合もあります。いずれの場合も感染したイヌは死亡します。

 

が狂犬病を発症すると精神の不安、興奮、幻覚がおこります。水を見ると首の筋肉がけいれんする恐水症、風が当たることで不快になったりけいれんする恐風症がおこります。このほかに高熱、麻痺、運動失調、全身けいれんが起こります。その後、呼吸障害等の症状を示し、死亡します。興奮がなく、麻痺症状が前面にでる場合も2割くらいあります。

 

中国(西安)で発症した麻痺型の狂犬病患者の写真。発熱、嚥下困難で入院。入院3日後に意識がなくなった。自分の唾液を嚥下できず、大量に口からあふれる状態である。この患者さんは16歳で、発症10年前に飼い犬にかまれたが、受傷後の発症予防ワクチンは受けていなかった。呼吸不全で永眠。2012年のWang Wらの論文から写真はオリジナルを当方でトリミングの上、さらに目の覆いを拡大しました。

 

<2006年に日本人(69歳男性)がフィリピンで感染し日本で発症した例の経過>

この患者さんの経過は家族の方々の了解を得て、個人情報を消して厚生労働省の研究班から公開されています。

8月ごろ フィリピンで飼い犬(自分か他人の所有かはわからない)に左手をかまれたが、かまれた後の狂犬病ワクチンは接種されなかった。事前のワクチン接種歴もなかった。その後日本に帰国。
11月6日 
発熱、咳、鼻水、左手のしびれがあり、近くの病院を受診し風邪の治療を受けたが改善はなかった。
11月12日 
水が飲みにくくなった。歩行はできていた。
11月13日 いない虫が見える
幻覚発症。このために入院。恐水症でコップが持てず、手が洗えなくなった。同時にエアコンの風に不快感が出現(恐風症)。また、アルコール依存症のようなふるえ、発汗、幻覚が悪化。さらには看護師に唾を吐くなど興奮が出現。
11月14日 全身の
けいれんから心肺停止となり、集中治療室に入る。
11月17日 治療の甲斐なく
死亡。唾液、神経組織から狂犬病ウイルスが確認された。

 

 

狂犬病ウイルスは脳や脊髄の神経に沿って広がり、神経の機能をおかします。幻覚も脳の異常、恐水症は知覚神経と脳の異常の結果起きています。呼吸障害も脳の障害によります。

 

このウイルスは血液にのって全身に一気に広がるのでなく、ウイルスがかまれた場所から神経を通じて1日数cmくらいの速さでゆっくり脳まで広がります。

 

狂犬病ウイルスは、かまれた場所から四肢の神経、脊髄と伝わって脳に移動する。その後、唾液腺に伝わっていきウイルスが唾液に分泌される。図はこちらから引用。

 

ですから、動物にかまれてから発症までの潜伏期も普通は1~3か月程度で、長い場合は2年からそれ以上かかることもあります。

 

お亡くなりになったかたがたは実にお気の毒ですが、この病気にはかかりたくないという気持ちが普通だと思います。(つづく)

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マジメな狂犬病の話(3)-知っておくべきウイルスの特徴

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