今日のニュースで、ペルーの狂犬病集団発生が報じられました。
> 【サンパウロ時事】南米ペルーのアンデス地方にある先住民地区で、吸血コウモリにかまれて死亡する子どもが相次いでいる。保健省は2月上旬、「この4カ月で少なくとも12人の死亡を確認した」と発表。公衆衛生上の緊急事態を宣言し、対策に乗り出した。
> 死亡したのは、エクアドル国境のロレト州に多く住む先住民アチュアル族の子どもたち。調査を急いでいた保健省は「コウモリにかまれた際に狂犬病のウイルスに感染した」と原因を特定した。ワクチンを現地に大量に輸送し、先住民に予防接種を受けるように働きかける。
> AFP通信によると、子どもたちが次々と死亡する理由が分からず、当初、地元では「魔術のせいだ」と信じ込まれていた。この混乱で行政への届け出が遅れ、被害の拡大につながった。
> 狂犬病は、犬以外でもウイルスを保有するコウモリやキツネなどにかまれても感染する。ワクチン接種で予防できるが、発症後の有効な治療法はない。
いい機会ですので狂犬病の現状、特に中国ではどうなっているかまとめてみます。
念のため確認ですが、動物にかまれて必ず感染がおきるのではありません。その動物がウイルスを体に保有しているかは簡単にはわからないのです。もし感染しても、そのあと潜伏期を経て、症状がでて初めて発症(発生)となります。かまれる≠感染≠発症です。
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日本では1956年以降、国内で動物から狂犬病ウイルスに感染した患者さんは一人もいません。かつては江戸時代に大流行したこともあったのですが。
なお海外で感染して日本で死亡した症例は3例あります。1970年に旅行先のネパールで犬にかまれた患者さん1名と、2006年にフィリピンで動物にかまれた2名の患者さんです。
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全世界では年間約6万人もの発症があり、うち3万1千人はアジアで発症しています。それらの患者さんはほとんどすべて死亡しています(感染≠発症ですが発症=ほぼ死亡)。
また、動物にかまれた後に、発症を予防するワクチン治療を受けている人は年間2,000万人もいます。国内発症のない日本は特別な国です。
動物はアジア、アフリカでは犬や猫によることが多いですが、そのほかの地域ではアライグマ、キツネ、コウモリ、サルでも感染がおきています。
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中国全体ではいままで3回の狂犬病発生の増加の波がありました。1980年ころには年に7,000人以上発病していました。
Tao XY, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2013;7:e2294と2001年以降は当方で政府発表データをつないで作成。Dog cullingとは野犬の捕獲のことです。
中国全体での発生数は2007年から連続して減少しており、政府発表で2014年の発症者が924人でした(その年の死亡者は854人とされていますが、実際はほぼ全員死亡しているものと思われます)。
発症は中国北部よりも南部で多い傾向にあります。貴州省,広西チワン族自治区,湖南省,広東省,湖北省に多いようです。
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上海市では発症者数のみを公式発表しています。最近は下記のように推移しています。思ったよりはるかに少ないですよ。
2011年 7人
2012年 4人
2013年 1人
2014年 3人
2015年 0人(最終報告がまだないので、当方で月報告を数えたらゼロでした)
上海市は以前から発症が少ない都市でした。最近はさらに減少しているようです。上海はペットの飼育ルール(登録制度)に厳しい市ですから。
しかし未登録犬や放し飼いの犬はなくなったわけではありません。リードをつけずに自由に散歩させている犬をみるのは日常茶飯事です。
結果的に、犬その他の動物にかまれる事案はなんと年間10万件以上あるようです。かまれた場合、市内29か所に犬傷外来(犬伤门诊)があり、そこを受診します。リストはこちら。24時間やってます。日本人ならはじめに日系クリニックで対応してもらってもいいでしょう。
こちら長寧区の天山中医医院のポスター。2016年春節も犬傷外来(犬伤门诊)はやっている。矢印は当方で追加。
では上海では狂犬病の心配はないのか?とか、かまれる前の予防の狂犬病ワクチンは意味がないのか?という疑問がおきますね。
そのあたりを含め、狂犬病の恐ろしい症状やウイルスの性質、発症予防のワクチンが必要かどうかについて、今後数回に分けてブログに掲載します。
関連記事もご参照ください。
マジメな狂犬病の話(2)-発症したらどうなるのか