ピロリ菌が胃にいるとよくないという認識はかなり浸透しています。
この菌は、いてもいいことがないので、除菌が基本です。


上記図は、ピロリ菌が毒素を全身に送る方法の模式図。JSTのHPから


わたしの勤めるクリニックでも、ピロリ菌がいるかの検査、あるいは菌を消失させる除菌治療を希望されて受診する方が多いです。

なんと世界の総人口の約半数はピロリ菌に感染しているといわれ、その多くは子供のころに感染を受けています。

◆ピロリ菌とは
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は強い酸性環境である胃の中でも生き続けます。この菌の感染は胃・十二指腸潰瘍、ある種のリンパ腫、胃がん、萎縮性胃炎、胃食道逆流症などを発症・
悪化させることがあります。この菌がいてもいいことがないので、除菌治療が望まれるのです。

さらにはある種の血小板減少症、心疾患、神経疾患といった、胃腸以外の病気まで起こすことが知られていました。慢性じんましんの一部も、この菌が原因のことがあります。

ところで、この菌は胃にしかいないのに、なんで胃以外に影響を及ぼすのかは、今までよくわかっていませんでした。

◆京都大学の発見=巧妙な菌の手口
今月初めに、京都大学のグループが、胃以外にこの菌が障害を起こす原因の1つをつきとめ発表しました

それによると、ピロリ菌が産生する"CagA"という毒素が、エクソソームという微細な袋に入れられて、血液に乗って全身に運ばれることがわかりました。エクソソームはからだのほぼ全ての細胞が作ることができる、30-200ナノメートルの小さい袋状の構造で、血液、尿に入って流れています。上記の模式図を参照してください。

この図は左(感染者)は右(非感染者)との血中のエクソゾームの解析結果。感染者で毒素の存在を示す4つのピーク(山)が見られるが、非感染者では認められないそうです。

図は上記発表論文より引用。

やっぱりこの菌は悪玉ですね。

以下は参考までに、検査と除菌治療法のまとめです。

◆感染の有無の検査
いろいろな検査がありますが、呼気で検査する方法が楽で感度もよくお勧めです。上海でも検査可能です。

  *内視鏡による検査(迅速ウレアーゼ試験など)
  *採血による
血中抗体測定
  *尿による尿中抗体測定法
  *呼気(吐き出す息)による尿素呼気試験

◆日本のガイドラインによる除菌治療
<一次除菌>プロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+クラリスロマイシンによる7日間の3剤併用療法。80~90%の除菌率が報告されていたが、耐性菌が増え、70%程度と思われる。

二次除菌>一次除菌がうまくいかないとき、プロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+メトロニダゾールが最も推奨される。除菌成功率81~96%。

ただし、ガイドラインの治療では不十分とする研究もあり(中国からも2015年にイギリスの学術誌に出ています)、新しい情報がしょっちゅう発表されています。

必ずしも容易に治療ができるわけではありません。
除菌治療は経験が十分ある医療施設で受けましょう。


写真は凍結ミイラのアイスマンの手。ピロリ菌に感染していたそうです。下記から引用。

ヨーロッパでみつかった5300年前の凍結ミイラであるアイスマンの胃袋からも、ピロリ菌は見つかっています。アイスマンは生前におなかが痛かったでしょう。詳細はこちらを参照。

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