本日(12/25)のアジアの大気汚染状況。データはここを参照。
今日も空気の悪い上海です。いまは昼休みですが、朝から咳が止まらない、鼻水がよくならないといった患者さんが受診されました。
前回PM2.5濃度とAQI(空気の質の指標)について書きましたが、今回はPMについて書きます。
内容を先にまとめると;
1. PM2.5のみならずPM10にも注意する
2. PM1.0についてはまだよくわかっていないし、測定値も発表されていない
◆PM2.5とかPM10とかPM1.0とかの用語
PMはParticulate matter(粒子状物質)の略です。数字は粒子の直径です。たとえば2.5は2.5マイクロメートル[ミクロン]のこと。1マイクロメートルは1ミリメートルの千分の1の大きさですからとても小さいわけです。毛細血管の直径は5マイクロメートル程度、赤血球の長径が7マイクロメートル程度ですから、かなり小さい。
PM2.5の「濃度」とは空気中の直径2.5マイクロメートル以下を「主体」とする粒子の濃度のことです。「主体」というのは、技術的な問題によるのですが、2.5マイクロメートル以下の粒子のみを正確に分別捕捉できないために、2.5マイクロメートルより大きいものも多少は実際の計測に含まれてしまうからです。
◆PMはどこからくるのか
これら粒子状物質は、工場の煙、車の排気ガス、暖房用燃料の煙、車輪で削られた道路の舗装材やタイヤのゴムなどが主な産生元です。さらに黄砂、ある種の花粉など自然環境で発生する粒子もあります。ですから、さまざまな物質が含まれているのです。中身が同じでないものを濃度だけで比較していいかという議論は以前からあります。
これらの物質は風で運ばれてきて、気圧により停滞する時間が異なります。なお、雨ではなかなかPMの濃度は減りません。
同じ上海市内で同じ時間でも、測定場所によって濃度の測定結果やAQIはかなり異なります。たぶん測定機械のメンテナンスも場所によっては十分でないと思われます(つまり誤差が発生するわけです)。
◆PM2.5のPM10の違い
PM2.5はPM10よりも粒子が細かく、体のより奥に吸い込まれ、肺から血液にのって全身に広がると考えられます。長期間の人体への悪影響はPM10よりも大きいかもしれません。また最近は大気を汚染している主たる物質がPM2.5ですから、これに注目するのは当然です。
一方PM10は粒子が大きめのため、肺より手前の空気の通り道、つまり鼻や気管、気管支に影響を及ぼしやすいです。喘息発作にはPM2.5よりもPM10の影響が大きいかもしれません。
PM2.5のみに着目するだけでなくPM10も重要です。
下のグラフの左(A)は成都市で同時測定されたPM2.5とPM10の濃度の相関をあらわしたものです(Li らのデータ。Atmosphere 2015, 6, 150-163に掲載)。2つが同じように濃度変化を起こすと直線上に結果が並ぶのですが、ばらつくこともあり、必ずしも同じように濃度が変化するわけではありませんね。
AQIはPM2.5、PM10を含む6種類の物質について、その時一番問題になる(濃度レベルが危険な)物質の濃度で決まりますので、空気の質を直感的に理解するにはいい指標です。
↑こういう画面では全体の代表値(大きく書かれた数値)だけでなくPM2.5のAQI、PM10のAQIもみましょう(矢印)。
◆PM1.0について
最近2.5より小さいPM1.0が注目されています。おそらく人体に悪影響があると思われますが、実は研究はまだ途中です。また、ルーチンで測定もされていません。先ほどのグラフの右(B)をみると、PM2.5とPM1.0の濃度が大変よく相関しているので、PM1.0の増減は2.5の数値で推定できそうです。今すぐ怖がる必要はあまりないようです。

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