仕事をしていた時、ある上司が大嫌いだった。仕事はできない、助けを求めてもサポートしてくれない、自分はこんなことをやり遂げたんだ、と聞いてもいないのに自慢する。

馬鹿じゃないの?といつも思ってたし、同僚女性たちにも、彼がどんなにひどい上司かと愚痴を言って、けなしたり嗤っていたりしたこともしばしば、彼にもそんな態度をとっていたから、彼も私を避けるようになった。 そのうち私の上司が変わり、ほとんど接触することがなくなった。

そうすると不思議なもので、その人の良いところが見えるようになったのだ。よくよく冷静に考えると、ある程度は上司の役割もこなしていたし、人を注意する時も嫌味や恫喝などもなく、女性を馬鹿にもしないひとりの従業員として扱う人だった。

今までさんざん失礼な態度をとっていたので、今更にこやかに声をかけたりも出来ず時が過ぎていったが、私が会社を辞める時、彼が私に「ゆたさんは能力のある人だと思っています。 僕もいたらないところはあったと思うけれど、長い間お疲れ様でした」と言ってくれた。 去りゆく人に対するリップサービスも入っているんだろうけれど、嬉しさと申し訳なさと、色々複雑な感情が湧き上がって、「こちらこそありがとうございました、私も感謝をしています」と言葉を返し、彼に今までの非礼を詫びたいと言葉を考えていたら、タイミング悪く上司に呼ばれてしまいできなかった。

嫌な態度をとってきた以前の部下に対して、感謝の言葉が言えるのは、彼の素晴らしいところなんだと思う。彼は私よりずっとできた人間だった。彼を馬鹿にした私が幼稚だった。