軍鶏(35)小説<全13話>

軍鶏(35)小説<全13話>

変わらねえな…結局うちらはこうなっちまうわけだ…
こうなるしか生きられない。
いつまでも、変わろうとしてもな…


――お前もそう思うだろ?菅原。

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(……)















(…ん…?)












(……)












(…なんだ?)










(……)











(…俺はどうなった?)










(……)









(…真っ暗じゃねえか…)









(……死んだのか?)








(………)









(…それともこれが?)








(…いや…)
























(……フンッ…)











(…ふざけやがって…)


















口に呼吸器がつけられている。





点滴が打たれていた。









リョウ(……)









リョウの目が薄っすらとだが開いて



天井を見つめる。









リョウ(……)





ぼやけている視界。



意識がもうろうとしていた。







リョウ(………)





医者か看護婦なのか病室に入ってくる。



リョウの耳元に向かって何かを叫んできた。









リョウ(…なんだよ?こいつ…)





医者が人差し指を



リョウの顔に向かって伸ばしてくる。



左右に動かしてきた。









リョウ(…なにしてんだよ…)






リョウは目で追う事をしない。



今度はペンライトか何かで目を照らしてきた。



リョウはムカついたのか



片腕を上げようとする。







それを見た医者が驚いた。






医者「患者さん!お名前わかりますか!?」









リョウ(…は?…)












医者「自分のお名前!…わかりますか!?」








リョウは思い出す。







リョウ(…自分の名前?…)
















リョウ(…ああ…)




















リョウ(…そうか…)





















リョウ(…そうだった…)




















リョウ(そうだったな…)























医者「…分かりますか?自分のお名前?」







医者がリョウを見つめる。







リョウが力いっぱい手を上げた。










ゆっくりと上がっていくリョウの手を見て





医者は驚いた顔をする。






口が空いたままの看護婦。










リョウは呼吸器をひっぺがした。












リョウ「ナルシマリョウだ」




















病室の窓に"蝶"がとまっている。







ベッドの背もたれが少し上がり





うつろな表情のリョウの横に




医者が立つ。









医者「…ナルシマさん、これは"奇跡"と言っていい…」









リョウは虚ろな目で聞いている。







医者「…あなたはあの山中にて、偶然作物を採取しに山を散策していた地元の方の発見により助かりました。出血が激しく…もしもあと少しでも発見が遅れていたら命に保証はなかったと思われます。」






リョウの目が少し開く。







リョウ(…助かった?)







山の中




力尽きた時の自分を思い出す。








リョウ(…あの時…)





















リョウ「"あの野郎"か…」







リョウが虚ろに喋る。






リョウ「…余計な事しやがって…」








医者「え…?」







リョウが医者を睨んだ。








リョウ「…で?俺の身体はどうなんだドクター?」







リョウが既に悟っているような口調で医者に問いかける。








リョウ「元に戻るのかって聞いてんだよ?」










医者「そ、それは…」







医師が何かを喋ろうとした。







藤吉「…リョォオウ!!リョオオウ!」








聞き覚えのある声がした。






リョウ「…藤吉?」







ガラガラガンッ!







病室の扉が叩き開く様に


思い切り開いた。








藤吉「リョ…リョォォオウ!!!!だいじょうぶかあああ!?」」









リョウのベッドに向かって走り込んでくる藤吉。






藤吉は泣き叫びながらリョウに近づく。



しかし身体を労わったのか触れずに叫んだ。







藤吉「うおおおおお…生きてる!お化けじゃねえよなぁ!?生きてるよなぁ??…リョオオオ!…」





リョウが目を合わさず、うつむいてつぶやく。





リョウ「…ああ、大丈夫だ…」






泣きながら藤吉が喋る。




藤吉「…リョウ…リョウ…おまえなぁ…しぬほど心配したんだぞ…
一週間も連絡とれなくて…もしも…もしもお前が死んだら…どうしようかと……」






リョウ「…すまなかったな…。」







腕で涙をぬぐう藤吉。







藤吉「…いいぜリョウ…俺とお前の仲だもんな…
今回が初めてじゃねえしな…これで"おあいこだ"。とにかく無事でよかったぜリョウ…」





リョウが藤吉を見た。





リョウ「…藤吉、サキコとナツミはどうした?」







藤吉「…ああ!…ナツミちゃんは車に居るぜ!ペロも一緒だから大丈夫だ。サキコちゃんは…」






ガラガラとゆう音と共に




病室の扉が開いた。




走る藤吉に遅れをとったのか




白いフードを被ったサキコが



胸を押さえながら病室に駆け込んできた。






サキコ「…ハァ…ハァ…リョ、リョウちゃん…?」







リョウが少しポカンとした顔をする






リョウ「サキコ…」






サキコ「…リョウちゃん!」





ヨタヨタと息を切らしながらゆっくりとリョウのベッドに踏み寄り




涙ぐんだ表情でリョウに話しかけるサキコ。






サキコ「…リョ…リョウちゃん!リョウちゃん…ごめんね…私の…私のせいで…」





サキコはリョウのベッドの横に付くなり泣き始めた。






リョウが少し面倒くさそうな顔に変わってそっぽを向く。






リョウ「なんで泣いてんだよ…」







サキコ「だ、だって…私のせいで…」





リョウがそっぽを向いたまま喋る。





リョウ「もうあいつら…ドブ組の奴等も、あの父親も…お前に手は出してこない。
"それなり"に手は打っておいたからな…
だから安心しろ…」






サキコ「…でも…リョウちゃん…」






サキコの目線がリョウの身体に移る。






サキコ「…私のせいで…身体が…」







掛け布団の中に隠れたリョウの体。






リョウ「…フンッ」






リョウが起き上がろうとした。







リョウ「…だからお前のせいじゃねえっつの…」







プルプルと腕を震わせて



リョウは上半身だけの力で身体を起こそうとする。







藤吉「…お、おい!リョウ!!」






医者「ナルシマさん!今は安静に!!」








藤吉と医者が急いでリョウを支えようとした。







サキコも驚いて手を出そうとするが







ガシャァン!






リョウがベッドから点滴ごとズリ落ちる。







リョウ「…くっ!?…」








藤吉「リョウ!!!!」




サキコ「リョウちゃん!!!」





急いで駆け寄る藤吉とドクター。






藤吉「…おい…無理すんなよリョウ…!?」








藤吉はリョウの身体を見て絶句した。



左腕と左足太股



深い傷があった。









医者「…ナルシマさん!」








リョウは自分の腕と足の"違和感"に気づく。






リョウ(…な…なんだ?………)








体の片側が重く


床が"沼"の様に変わり


左側の半身が溶けて下に向かって引きづり込まれる様なイメージがした。







リョウ(…手と足に…"鉛"が入ってるのか?…)







眉を歪め



歯を噛み締めるリョウ









リョウ「……ふざけやがってぇ…」










以前よりも細くなった様にも思える


リョウの右腕がベットの手すりを掴む。




リョウ「…ぐ、ぐぅぅうう!………」





必死に立ち上がろうとするリョウ。



顔が全力で歪む。





医者「…ナルシマさん!ダメです…今は身体を動かさないでください!」






藤吉「…リョウよせ!…まだ"一人じゃ"立てねえって!…」





サキコが涙ぐむ。






サキコ「…リョウちゃん…」





息を切らすリョウ。




リョウ「…ハァハァ…うるせえ…どうって事ねえよ…」







しびれを切らすリョウ。




しかし立てない。





リョウ「…おいドクター…聞きたい事がある…」







リョウが睨みつけるように医者に問いただす。







リョウ「…俺の身体は…どうなってる……?」






医者がうつむいた顔で喋り出す。







医者「…ナ…ナルシマさん…あなたの左腕と左足は、刃物か何かでの損傷によって神経が傷ついたのか…
半分以上がマヒした状態にあります…」





口を空けて驚いた表情を見せるリョウ。





リョウ「…なっ!?」








バカ兄弟の弟に

左足の太股を刺された時を思い出す。








リョウ「なんだと!?…」







医者「…腕はなんとか動かせます…しかし、競技における激しい運動や…
歩行については…"完全に元に戻る"のは…難しいかと…」







藤吉が唇を噛みしめる。







藤吉「リョウ…」







サキコがまた泣きだした。






リョウ「………俺が…動けないだと?…」






医者「…リ、リハビリをこなせば…もしくわ…」






リョウ「…て、てめぇ…」






リョウが震えながら右足をつけて



立ちあがろうとした。





リョウ「…ふざけんなよテメェ!!」







リョウは医者に食ってかかろうと足にふんばりを効かせた。






しかし膝からゆるりと崩れ落ちる。







床に右手をつけるリョウ。











リョウ(…なんなんだよ…)







リョウは床に頭をつけた。







リョウ(…生き返ったってゆうのに…)








床にうずくまる。

















リョウ「…死んでんじゃねえか」