軍鶏(35)小説<全13話> -2ページ目

軍鶏(35)小説<全13話>

変わらねえな…結局うちらはこうなっちまうわけだ…
こうなるしか生きられない。
いつまでも、変わろうとしてもな…


――お前もそう思うだろ?菅原。






藤吉が車のドアを開く。






ナツミより先にペロが勢いよく飛び出してきた。






ワンワン!ワンワン!






車椅子のリョウに飛びつくペロ。






リョウ「ペロ……」






ペロがリョウの膝の上に乗ろうとする。






リョウ「…すまなかったな、今戻ったぞ…」






ペロの頭を撫でるリョウ。







嬉しそうにペロが尻尾を振る。









リョウは前を向いた。











リョウ「…ナツミ?」









ナツミが車から降りてきた。











リョウ「…ナツミ、心配かけ…」






ナツミがリョウに近寄る。








リョウ(!?)





ナツミがリョウの顔を



両手で持った。



後ろにいるサキコと藤吉が驚いた顔をしている。








ナツミ「お兄ちゃん?」







ナツミが言う。








ナツミ「…お兄ちゃん、大丈夫?」








リョウが固まる。








ナツミ「…こんなに痩せちゃって」







リョウが答えた。








リョウ「ああ…」








リョウは自分の頬にあるナツミの手を握る。







リョウ「…大丈夫」










リョウ「…お兄ちゃんは大丈夫だ。」






















病院の庭。





藤吉がリョウの車椅子を押している。





周囲にはリハビリをやるために散歩をしている患者達。












藤吉「なぁ、リョウ…前に話した事なんだけど…」






車椅子に肘をかけながら


虚ろな目で外の景色を見るリョウ。









藤吉「…リョウが戦わないで済むやり方を皆で考えようって話したじゃないか……あれなんだけどさ…」






リョウ「…」





藤吉「…戦う以外にもっと別の道があると思うんだ…リョウにも…」






何も言わずにリョウは景色を見続ける。








藤吉「俺なぁ、リョウ…」







車椅子が止まる。








藤吉「"店"をやろうと思うんだ。」







リョウが首だけで藤吉を見た。








リョウ「…店?」









藤吉「ああ。サキコちゃんにも話したんだ…中華料理屋なんだけど…」








リョウ「…でも藤吉…お前…」







リョウが少し心配そうな顔をする。








藤吉「…なんだよリョウ?俺の黄金の炒飯の美味さを疑ってるのか?」








藤吉がリョウの前に回り込んでくる。








リョウがため息をついたような表情で言う。








リョウ「…ちげえよ…"腕"だよ…腕…」









リョウがうつむく。








藤吉「あっああ、…」






片腕のない藤吉の長そでが風でなびく。




藤吉「心配するなリョウ!…今の今まで片腕でナツミちゃんを養ってきたんだ。自信だけはあるから大丈夫だって!」







藤吉は自信ありげに話す。







藤吉「…これからはもうリョウにだけに頼っていくわけにはいかねえからさ…
色々あってお互い五体満足じゃないだろ?俺達は一緒だぜリョウ…」






自らの足を見つめるリョウ。







リョウ「…」






藤吉「これからは俺がリョウとナツミちゃんを食わす!後サキコちゃんとペロもな!」






藤吉が片目をつむってウインクした。





リョウは少し驚いた表情を見せてから再び下を向く。







リョウ「…すまない。」







藤吉はしゃがみ込んで車椅子のリョウの肩に手をかけた。







藤吉「…いいって。リョウ…」







リョウは俯いたままだった。







藤吉「…ただな…一緒に働けたりするアシスタントがいれば嬉しいんだけど…
リョウ、誰か知り合いに料理の上手い奴とかいるか?」






リョウの顔が上がる。






リョウ「…"料理"か…」







リョウの頭の中で"ヒロシ"がウインクした。








コミカルな表情を見せるリョウ。






リョウ「……いるにはいるが…」






藤吉「本当かリョウ!?」








藤吉が嬉しそうに笑う。




庭の噴水から水が出ていた。
















日が暮れて病室のベッドに横になっているリョウ。







藤吉「…じゃあなリョウ…明日またくる。退院までゆっくり寝てろよ?」








リョウ「…ああ。」





藤吉が少しサキコをチラッと見て



病室から出て行った。



病室にはリョウとサキコだけになる。







サキコ「リョウちゃん…」







サキコが虚ろな表情で話しかけた。







リョウ「…なんだよ?」






リョウが目を合わさずに答える。







サキコ「あのね…」







リョウ「…」






沈黙が走る。







サキコ「リョウちゃん…」







サキコ「看護婦さん…ナンパとかした?…」









リョウ「…はぁ!?」






リョウが叫ぶ。






サキコ「…だ…だって!リョウちゃん病院で一人だし…さっきお医者さんとか看護婦さんが…
"リョウちゃんの事"を話していたから…寂しいと思うし…もしかしたらって、その…」





眉間に皺を寄せるリョウ。






リョウ「…テメェなぁ…人の身体が動かねえっつうのに、頭の中どうなってんだ本当…」








リョウがため息をついて



頭をかきながら喋る。







リョウ「…待ってろ」







サキコ「…え?」








リョウ「今度はちゃんと帰るから待ってろ」







リョウがサキコを見ながら




ハッキリと言った。







サキコ「…うん。」





サキコが少し笑って踵を返す







ドア越しにサキコが言った。






サキコ「ちゃんとご飯食べてね、リョウちゃん。」







リョウがそっぽを向いた。







リョウ「…うるせえ。早く出ていけ。」








ガラガラ



ガチャン





病室の扉が閉まった。










リョウ「…」






ベッドに横たわったリョウが


ため息のような深い呼吸をする。


独り言でつぶやいた。





リョウ「…"終わり"か…」






天井を見る。






リョウ(…フンッ……あっけないもんだな…)















リョウ(…まぁ…一度死んだようなもんだしな…)














リョウ(…この程度で済んで…ついてる方か…)








リョウは目を閉じた。























天井が黒ずむ。











(哀れだなナルシマリョウ)









リョウの目が開いた。








リョウ(…!?)








またかといわんばかりに
リョウが身体を起こした。










ベッドの足元には黒川が立っていた。






かつて関わった者達もベッドの周囲を占拠している。








リョウが睨みをきかせて中央の黒川に向かって喋る。






リョウ「…テメェら…また性懲りもなく懲りずに出てきやがったか…
いい加減マジでしつけえぞ…?」







黒川がニヤリと笑う。






黒川「…言ったはずだ。我々は貴様がこちら側に来るのを待っていると…」








リョウが黒川を睨みつける。






リョウ「…よほど成仏したくねえらしいなオッサン…歳考えろよ。」






黒川が喋る。






黒川「…森の精霊に命を救われたと勘違いしているようだが…それはおおいな間違いだ…」







リョウ「…んだと…」






眉間に皺を寄せるリョウ。






黒川が淡々とつぶやく。





黒川「…貴様の"償い"はこれから始まる…
もう片方の腕、もう片方の足…首…胴体…
全てもぎ取られ、失いながら尚も"生"にしがみ付き…苦しみを味わいながら朽ち果てて行く。
それが我々から貴様への"引導"だナルシマリョウ…」






ベッドを囲む亡者達が喋る。






ランガ―「あれれ?動けないの…?動かないナルシマリョウなんて…なんの価値も魅力もないじゃんか。」





猿「うぬは死に値する価値さえも無き、生きた屍…」







リョウの手が横にある点滴を掴む。






リョウ「…出てくる出てくるわで…好き勝手にぬかしやがって…」





片方の腕で点滴を持ち上げた。



腕から針が抜けて血が滴り落ちる。






リョウ「…いい加減にしろよぉ!この亡霊の分在がぁあ!!!!」





ガシャァアンッ!!






足元の黒川に向かい点滴を投げつけるが




通り抜ける。










黒川「ウハハハハハハハハ!!」








リョウは歯を食いしばり



黒川を睨み続ける。








黒川「それが貴様の"終わり"だ、ナルシマリョウ…」





消えていく亡者達。









「早く楽になれ…」

































リョウ「……ガハッ!」













リョウが目を覚ました。





体中から汗が噴き出している。




点滴は自分の横の置かれる場所に置かれていた。





外は深夜なのか



窓の向こうは暗闇に包まれていた。









リョウ「……ハァハァ…ハァ…」












片腕でリョウは枕元のライトをつけようとした。







リョウ「…う…ぐぅ……」







しかし暗くてスイッチがどこにあるのか分からない。







リョウ「ハァ…ハァ…ぬぅう…」







スイッチを掴み





ライトをつけた。










リョウ「ハァハァ…」







辺りを見渡す。




リョウは喉に渇きを覚える。







リョウ「…み、水…」






部屋に水がない事に気づいた。



片腕を伸ばし、車椅子に手をかける。



しかし病室から出るまでの"扉"が



今のリョウの視界には果てしなく




遠くに感じた。








リョウ「…くぅッ!!……」








めまいがする。



視界が歪む。





顔から汗が噴き出す。




リョウは方手で枕元をさぐり




ナースコールを押そうとした。










リョウ「…」





しばらくコールボタンを見つめ







しかしそれをやめた。










リョウ(…)













天井を見つめるリョウ。




自分の病室は静けさに包まれている。






リョウ(…これじゃトイレにも一人で行けるかわかんねえな…)











横目で窓際を見つめる。





閉じ込められて外に出られなくなったのか




弱っている蝶を見つけた。







リョウ(…そういやいつも病院だな…)







東京ドームを思い出す。



そして



グランドクロス。






リョウ(あいつも…)










病院のベッドに寝ている菅原を思い出す。












リョウ("終わり"か…)









リョウの目が閉じる。










リョウ(…フンッ…)