抗体依存性感染増強(Antibody dependent enhancement:ADE)
ADEについては
ご存知の方も多いと思いますが
今一度、その機序について
確認をしておきたいと思います。
大阪大学 荒瀬 尚 教授
cell誌に掲載された論文の日本語解説です↓
http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/upload_img/Commentary_20210525.pdf
(一部抜粋)
抗体による感染増強には、ある種の免疫細胞が発現している Fc 受容体が関与していると考えられてきた。
(まず、Fc受容体について、確認しておきましょう。
*Fcとは、抗体 Y の形の下方部分です。
マクロファージなどの免疫細胞は、表面にFcとくっつく
Fc受容体を発現させています。
そして、病原体が入ってくると、病原体を捕まえた抗体がFc受容体に結合し
Fc受容体を橋渡しとして、
免疫細胞に病原体を取り込んで、処理(貪食)してもらいます。
しかし、SARSやデング熱ウイルスは、そうはいかない時がある、これがADEです。
抗体を逆手に利用して、マクロファージを
ウイルスの処理工場ではなく、産生工場にすることができ、
増殖してADEを引き起こす
というわけです。)
論文に戻ります
↓
ウイルス粒子に結合 した抗体が細胞の Fc 受容体に結合すると、
Fc 受容体を介してウイルス感染が引き起こされる。
しかし、これらの Fc 受容体を介した感染は、Fc 受容体を発現した特定の免疫細胞に限定されるため、
体の中の多くの細胞の感染にはあまり関与していないと考えられてきた。
前述の通り抗体はウイルス感染防御に重要な機能を担う一方で、
ウイルスに対する抗体によって感染が増悪する現象が知られて おり、
その現象は抗体依存性感染増強(ADE)と言われている。
ADE はデングウイルス等で知られており、一度デングウイルスに 感染した後、
異なる型のデングウイルスに感染すると、最初の感染によって産生された抗体によって
重症化する場合がある。
また、コロナウイルスの一つである猫伝染性腹膜炎ウイルスにおいても
ウイルスに対する抗体が増悪因子になることが報告されている。
(ただし、SARS-CoV2に関しては、
なぜかデングやSARSのようにマクロファージで増えない・・・
これはウイルス学者が頭をかしげる点ですが、
マクロファージで増えないから
激烈なADEがあまり起こっていないと推測されています。
但し、ADEのメカニズムは多岐に渡っており、
Fc受容体が関与しないADEの経路を
荒瀬教授のグループが発見したことになります。)
コロナのトゲトゲの部分=スパイク蛋白は、
私達の身体に発現しているACE受容体という受容体に
くっ付いて細胞内に侵入してきます。
S蛋白はS1S2領域に分かれ
S1領域に、Recepter Binding Domain(受容体結合ドメイン:RBD)
N terminal Domain (N末端ドメイン:NTD)
があります。
上にヒトの細胞、
下にコロナウイルス
が描かれています。
さて、RBDに対する抗体ができれば
ACE受容体との結合がブロックされ、ウイルスの侵入もブロックされます。
しかし
NTDに対する抗体ができると
架橋という現象が生じ、トゲトゲS蛋白の構造に変化が起こります。
図のように、RBDがヒトの細胞に向かって開く形になり
RBDはACE受容体に
くっつきやすくなり、
ウイルスは、まんまとヒトの細胞内に侵入しやすくなるというわけです。
荒瀬教授の研究は、ADEを理解するうえでの大発見です。
また記事内で書かれていて驚いたことは
コロナに罹った既往がなくても、
元々感染増強抗体を有している人がいるということ
おそらく、過去に武漢株などに無症候感染した際に
ひそかに感染増強抗体を産生している個体があるということでしょう。
そういった方が
新たにコロナに罹患したり、
ワクチンを接種すると、感染増強抗体を大量に産生する可能性がある
と論文では記載されています。
そのため、ワクチンは、NTDに対する抗体を作らないような
RBDだけに抗体を作る設計に変える必要がある
と結論付けられています。
時々、まったくリスク因子のない方が重症化したという報道がありますが
もし本当に見落としなく因子がゼロであれば
すでに感染増強抗体を産生していたヒトではないかという
憶測がされているわけです。
但し、現在のところ、あまりSARS-CoV2はマクロファージで増えないために
激烈なADEは起きにくいはずで
そういった例は非常に稀だと推測されます。
現在のところ当院や、聞けた限りの機関では、
まったくリスク因子のない方が重症化・死亡した事例はなく、
過度に心配する必要はないでしょう。
同じ荒瀬尚教授のグループから、別の論文が提出されています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.08.22.457114v1.full.pdf
ワクチンにより3種類の抗体ができる。
①RBD中和抗体
②NTD中和抗体
③NTD感染増強抗体
*中和抗体=善玉抗体
感染増強抗体=悪玉抗体
デルタ株に対して実験すると
①低下
②ゼロ
③著変なし
となる。
ちなみに、③の悪玉抗体は、
ワクチン接種者全員に生成されている。
論文作成時の変異株は、RBDの部分に3つの変異があるそうですが
さらに一歩変異が進んだデルタ4+株
なるものを人工的に作ると
①<③
となる。
つまり今後
デルタ4+株が出現したら、現行ワクチンの設計のままでは
①中和抗体<③ADE抗体となる。
=未接種の状態よりも、感染が増強してしまう可能性がある。
ADE を引き起こさないためには、
RBDのみをターゲットにしたワクチン開発をして、
NTD は含まれないものが望ましい
と結論づけられています。
もう一つ、フランスマルセイユ大学
から同様の結論を出した論文が出されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34384810/
武漢株スパイク蛋白に対する抗体は、
デルタ株に対しては、感染増強抗体となる。
(*この論文では、ウイルスの侵入経路が、
ACE2受容体だけではなく、
糖受容体(GM1)を介する経路があることが示されています。)
NTDは糖受容体を介して細胞内に侵入する。
感染増強抗体(図D 緑のかたまり)が
NTDに結合すると、GM1という糖鎖を介して
ウイルスが
より細胞内に引っ張られて侵入しやすくなる。
デルタ株において、現行ワクチンは、中和抗体より感染増強抗体を優位に誘導している。
(武漢株では中和抗体>感染増強抗体なのでOK)
↓
ADEはNTDに対する抗体ができると生じる。
いくらS蛋白に変異を起こした株用にワクチンを造り変えても、
N末端を認識させる抗体を作る限りはADEを生じ得るだろう。
結局、いずれの研究も
現行ワクチンのように、
スパイク”全長”を抗原にしていては
NTD抗体ができて、
株が変異すればするほど、
感染増強抗体ばかり産生することになる
→
改良するのであれば
武漢株→αないしデルタ株用に変えるだけではなく
NTDを認識しないようなワクチンの設計に変えるべきである
という理論になります。
さて、この研究
全て試験管内の話であり、
現実はどうか?
ということになります。
3回目を実施したイスラエル・セルビア(8月~)、シンガポール(9月~)
どのような状況になっているでしょうか。
このブログを訪れて下さる方々は、ご存知の方も多いと思いますが
感染が拡大しています。
イスラエルはピークを迎えたので、収束しています。
ピークを迎えると自然に減少する(罹患者が最強の自然免疫を獲得するから)
『自然減』という現象があること、ウイルスの世界では従来から当然であることを
ウイルス学者は皆に知って欲しいと言っています。
インフルエンザもRSも同じです。必ずピークを迎えたら一気に収束する。
なお、3回目接種については、FDAは否決しましたが、
米国では医療従事者を除外し
高齢者または基礎疾患には推奨する方針です。
3回目については長くなるので、別のブログで
検討していきましょう。
論文の世界も
風潮が変わってきました。
現場に立つ医師達の
風潮も確実に変わってきています。
真実は
必ず
最後に残る。
日々の生活を楽しみながら
真実が
多くの人々に届く過程を
見守って行きましょう。
本日も最後まで読んで下さり、どうもありがとうございました。