全国社会保険労務士会連合会, 愛知県社会保険労務士会
職場のトラブル相談ハンドブック
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この本が届いたので、一通り目を通してみました。
その中で、3年後に正社員にする、ということで頑張ってきた契約社員が1年半で契約を切られた相談に対し、雇用側の方が正しい、ということで負けてしまった例がありました。
それは、雇用契約書に3年後に正社員として雇用する、という内容が書かれていなかったからです。
他にも就業規則の記載など、いろいろあったわけですが・・・。

この事例の会社には契約社員用の就業規則がなかったそうで、代わりに正社員の就業規則を参考にしたらしいのですが、この項に「人員の余剰が生じたときは解雇していい」とあったそうです。
つまり、人員が余ったら契約社員だけではなく、正社員も解雇できる、とした企業だったのです。
そこに勤務している以上、正社員でも安定して長く働けるとは限らないものです。

倫理的にどのようなものであれ、書面に書かれたことが有効になってしまうので、契約書を交わすときにはじっくり内容を見て下さい。
面接や採用時に「3年後に正社員にする」と言われても、口頭上のことですと、有効にならないのです。

また、この本の中での雇用側がなぜ口頭でそのようなことを言った理由も書かれていました。
「業務に遂行してもらうためにそのように言ったわけで、雇用を約束したものではない」ということ。
つまり、「正社員にする」と言えば真面目に働いてくれるからそう言っていただけで、最初から正社員にするつもりはなかったのです。
非正規社員ですと、待遇が良くないのでそんなに真面目に働きたくないという気持ちも出てしまいます。
給料が少ないから正社員より軽易な仕事がしたいというのは、仕方ないと思うのですが。
ですが、ここの事業主は「真面目に一生懸命働いてもらいたいから正社員雇用の話を出しただけで、結局契約社員なんだから、業務量に合わせて調整するだけだ」と主張するのです。

今、さかんに契約社員やアルバイトの募集に「正社員登用あり」とうたっていたり、派遣会社からも「正社員紹介予定」ということで仕事情報が出ていますが、これは必ずなれるものではない、ということを認識しておくことです。
「頑張れば正社員になれる」というより、「頑張れば正社員になれるかもしれない」くらいにとどめておくといいでしょう。

なぜなら、本当に正社員として人が欲しいなら、企業は最初から正社員を募集するはずです。
採用のノウハウもしっかりあるはずですので、採用側も正社員として使える人材を面接のときに見極められているはずです。
小さな企業で社長さんと数人、で採用のノウハウがまだわからない企業(中小企業様には大変失礼な表現、申し訳ありません)であれば、最初契約社員で雇用し、どんな人物か働きながら見てもらい、正社員として雇用できる、と判断したところで正社員になれる可能性もありますが、採用ノウハウのしっかりしている大手企業は正規雇用にそのような時間のかかることをするのでしょうか?
採用時に、正社員として充分雇用できる、と判断し、採用。
正社員としては使えないが、人手は足りないので契約社員として採用。
そして、契約社員にはモチベーションを上げるために「3年後に正社員登用」と伝える。
そして、3年後に正社員にせず、契約を終了させて解雇する。
そのような形が大手の契約社員の使い方です。

そのようなことで、この本はとてもためになりました。
他にも先代から引き継いだ会社で残っている60歳以上の社員の解雇の仕方や、部下を殴った上司について、部下から上司への解雇を訴えられたが、上司は辞めさせたくないのでその解決の仕方、など。
どちらかと言えば雇用側に都合のいいトラブル相談ブックでした。

正社員を目指している人は、最初から正社員で募集しているところに応募することを勧めます。
生活費の問題もあるので、アルバイトや契約社員でつなぐことはあると思いますが、その中で「数年後に正社員にするから」という言葉に甘えてそこで頑張らないことです。
契約社員で頑張った数年がムダになりますよ。

不採用が続くと確かに気分は落ち込むと思います。
しかし、そこを乗り越えて就職活動していきましょう。

正社員の応募を何件もして採用されるまでの時間と、契約社員で頑張る3年間。
どちらが早く正社員の位置をつかめるか、想像できますか?




最後にこの件と似たニュース記事を見つけたので、掲載しておきます。
参考:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070617-00000026-mailo-l11
職場のトラブル相談ハンドブック

 「そりゃ正社員になりたかったですよ。結婚して家族を持ちたかった」。春日部市内の実家で両親と暮らす男性(34)は悔しさに声を荒らげた。
 28歳でトヨタ自動車高岡工場(愛知県豊田市)の期間従業員(契約社員)となり、バンパー塗装をした。月収23万~24万円。同じ仕事でも同年代の正社員より数万円は給料が低く、賞与はない。
 半年契約を2回と1年契約を2回。3年以上勤めたが正社員になれなかった。
 安定した身分を求めて、年1回の正社員採用試験を3回受けたが不合格。期間従業員の9割は突破できず、合格はいつも20歳そこそこの若手だった。「3年勤めた自分がなぜ正社員採用されないのか」。人事担当者にかみつくと「もうあなたは必要ない」。あっさり契約は打ち切られた。
 その後、06年9月から騎西町の物流会社倉庫で派遣社員として働いたが、厚生年金、雇用保険、健康保険に未加入であることに将来的な不安を感じ、会社に団交を申し入れたとたん、たった半年で解雇となった。今はクビにならない公務員になるため勉強中だ。
 総務省の調査では、07年(1~3月平均)の正規労働者は全国3393万人でパート、アルバイト、派遣社員など非正規労働者は1726万人。労働者の3人に1人が非正規で働いている計算だ。一方で埼玉労働局によると、近年、求職者の70%以上が正規の就職を望みながら、企業の50%以上は非正規の採用を望むミスマッチが存在しているという。
 背景にはバブル後の不景気で多くの企業が人件費削減を迫られたことがある。働く貧困層の問題に詳しいエコノミストの門倉貴史氏は「規制緩和で競争原理が導入されパイの奪い合いが生じた。低所得層は子供の教育などに十分な投資ができず階層が固定化してしまう。企業は人件費を抑えないと国際競争に勝ち残るのは難しく、人件費の安い非正規社員を増やす方向性は(景気回復後も)変わらない」とみる。
 非正規労働者の増加は雇用の拡大ともとらえられる一方、賃金の低さから消費低下や税収不足を誘引し、保険の未加入や長期雇用が保障されない不安定さから晩婚化や少子化に拍車をかける要因として懸念されている。
 政府は06年12月に「再チャレンジ支援総合プラン」を策定、新卒一括採用システムの見直し、パート労働者への保険適用拡大などの対策を進めている。与党は同プランに沿った雇用対策をアピールする。これに対し、野党側は「政府の行き過ぎた規制緩和が格差の拡大と固定化をもたらした」と批判。全国一律の最低賃金を設定し時給1000円を目指すことや、労働契約の公正、透明なルールを定めた法整備を提唱している。
 樋口美雄・慶大教授(労働経済学)は、「財政支援で全国一律に雇用をつくる手法は効果がない。地域の実情に応じた総合的な政策パッケージを作成、展開することが必要だ」と指摘している。