「…寝た男が送ってくれたんだと思う。でも俺、彼になにも言ってない。名前はまだしも、住所なんて言う訳ないでしょ。
…なんで彼はうちに郵便物を届けられたの…?」



勢いで言った?

いや、そんな訳。


流石にそこまで口が軽い男じゃない。

記憶飛ぶまでヤってもいない。


思わずゾッとする。

元々顔見知りでもなかった。


「え???」

「やば、」

「え、どゆこと、」

「…まってもしかして結構ヤバくない?」

「住所知られてるってこと?????」

「怖い怖い。」


「ごっ、ごめん!今日はこれで終わり。じゃあね!」


早口で急いで言った後、男はプツリとカメラの電源を切った。


「、、、なんで、」


思わずへなへなと床に座り込む。

住所を教えていない自信しかない男は、ただ先日の彼への恐怖ばかりが募っていった。


眼鏡を握り締めたまま、その場から動くことが出来ない。





ーーー


さて、"モモ"は一旦置いておいて、今度は声を掛けた彼にフォーカスを当ててみよう。

時は数週間前に遡る。






…彼の名前は櫻井翔という。

手に決まった職はなく、バイトを日々繰り返して生活していた。


中学高校とサッカー部で日々サッカーに励み(励みとは言いつつも数多くの部員がいる中でいつもベンチ入りメンバー、またはそれ以下だった)、大学進学はせずに就職を選んだが、就職活動も上手くいかず断念…そしてバイト生活の今に至る。


そんな彼が生理的欲求を満たそうと思ってテキトーにネットをうろうろと歩き回っていたところ、とある配信に辿り着いた。


とある部屋で行われている撮影。

画面に映るのは黒マスクをつけた裸の男である。


「…なにこれ、」


配信者に相手はおらず、コメントを読みながら全て1人で行っている模様。

…女性でそういう配信をしているのならまだ分かるが、男性でもあるんだと1人感心した。


黒マスクで隠されていてもなお綺麗な造りだと分かる顔と、男にしては白い上半身、響く喘ぎ声。

ドキドキと心拍が早まって、今日はこれでいいやと画面を観ながらテーブルの箱ティッシュに手を伸ばした瞬間、男はあることに気がついた。


「…え、、、?」


白い首筋と胸の粒のすぐ横にある黒子。

まるで意図的に配置されているなその黒子は、そこにあるせいで人の目をより一層引き寄せる。


…似ている…いや似ているどころではない、同じなのだ。

画面の向こう側で1人気持ちよくなっている男と、高校時代に自分が片思いしていた先輩が。




………好きな相手を見つめてしまう。遠くから眺めてしまう。

これは当たり前のことだと思う。


サッカー部に所属していた頃、好きな先輩が同じ更衣室で着替えをしていたら、そりゃ見てしまうだろう。


だって"恋愛対象"として見てしまっているのだ。

そういうことをしたいと考えるのも仕方のないこと。


…男同士だから。

自分が良くても相手が良くない…そう思って結局思いを伝えることもなく、彼の片思いはその先輩が卒業したと同時に潰えた。


だがしかし、今、画面の向こう側にいるのは紛れもなくいつも目で追いかけ続けてきた先輩。

忘れかけていたあの頃の気持ちが、勢いよく心の底から溢れ出した。