古くからの呪術や慣習が根づく大地で、黙々と畑を耕し、獰猛に戦い、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ。しかし彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。「アフリカ文学の父」の最高傑作。
内容「BOOK」データベースより
チヌア・アチュベは英語のアフリカ文学の父と呼ばれる、ナイジェリア出身イボ人の作家。1958年に発表された本書「崩れゆく絆」は全世界で1千万部売れ、各国で翻訳本が出されている。アチュベの名を世に知らしめたのは、ジョゼフ・コンラッド著「闇の奥」に隠された人種差別への批判である、帝国主義を描く上で原住民の背景や人物像を歪め非人間化しているとそれまでの「闇の奥」の評価を覆す視点を世間に与える事になった。
植民地政策にその昔の奴隷制度とアフリカには遠い日本では想像もつかない暗く重たい過去がある。1960年の独立前に生み出された「崩れゆく絆」はまさにナイジェリアが国家としてそして文化の独立を果たした証だったのではないだろうか?アチュベはコンラッド「闇の奥」の再評価に一役買ったとの事から世界的に有名になったとの事ですが・・・これは作品自体が優劣がある訳では無いと思います・・・なぜなら「闇の奥」は1902年に発表された作品、当時の世界ではこの作品がスタンダードでそれに疑問や異議を唱える風潮が無かったに過ぎないのではないだるか。それは物凄く哀しい現実なんだろうけども、それに気がつくまでに人間は半世紀も時間が掛かった、その声を上げるのにどれだけの世代交代があったのかという歴史を二つの作品から感じてしまいます。ペンは剣よりも強し!まさに国家が独立という胎動期に発表された作品は有史に残る名作といえるでしょう。
さて、アフリカ文学の祖である本作品、植民地アフリカの実情を顕し現地民に表情を生んだ作品として評価される事が多いのですが・・・それ以外のところにもスポットライトを当ててみたいと思います。本書は人間の信仰心について描かれた作品。それは人間性を顕す1つの要素でもあります。
原住民が信仰していた大地や世界の神々、そこに万物の創造主という一神教が持ち込まれます。生贄を含めた様々な活動はすべて蛮行とみなされ教化されていく原住民といった構図にはなっているのですが、一方的に改宗や教化が描かれているだけでない所が優れた作品だといえる。物語の大半を使って原住民の風習や伝統を描いており、そこには原住民ならではの牧歌的な空気があり、そして現代からは考えもつかない異常な風習があったりと実情が描かれている。例えば、義理の息子(それも戦争回避の捕虜なのだが・・・)を御神託によって殺めることになった事へ登場人物は苦悩し葛藤を見せているのである。 アフリカ原住民を一方的な蛮族として描いている「闇の奥」などに比べると明らかに表情のある原住民が描かれているのは確かである。植民地政策の是非とか宗教の優劣といった事が主軸ではなく、その当時生きていた人々の表情を描いている。いわばドキュメンタリー作品なのだ。 対人間として相手が何を信じて何を考えているのかを知る事がどれほど大事か、そしてそこから生まれる愛こそが本当の信仰ではないのかと問われているかのような作品である。ほんとうに素晴らしいの一言。
光文社 (2013-12-05)
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