ステマネ=ステージマネージャーの略称です。よく「捨て真似」って誤変換されます。コンサートの舞台袖にいて、演奏者や裏方さんたちに指示を出す司令塔役で、お客さんの目に触れることが無い「縁の下の力持ち」ですが、この人が演奏会の成功失敗を左右するといっても過言ではありません。

プロのコンサートには、プロのステマネがつきますが、我々アマチュアのコンサートでは、友達にお願いしたり、最悪ステマネ不在ということも・・・。ちょっと待った、結局ステマネって何する人なのよ。ステマネがいなかったら、実際どういう不都合があるの?ってことを説明する必要があるよな。

 

コンサートには進行台本ていうのがあって、まず開演ブザーが鳴って、演奏者が入場して、客席が暗くなって、舞台上が明るくなって、指揮者が入場して、それでやっと曲が始まるわけです。この、ブザー鳴らす人と照明いじる人と演奏する人と指揮者が、すべて同一人物ならばステマネは要りません。音楽に限らず、複数の人間が存在する場合のすべてに当てはまりますが、各自が勝手な判断で動き出したらメチャクチャになるし、慎重な人が多くてお互い牽制し合えばグダグダになります。全員の動きを統括する立場の人は絶対に必要で、コンサートの進行を取り仕切るのが捨て真似じゃないステマネなわけだ。私が昨日参加したコンサートでは、ステマネさんにとってもお世話になったので、本日は、皆さんにも舞台裏を知っていただこうと思います。

 

いや~、緊張したな~。演奏面じゃなくて、突如仰せつかった「ソリストへの花束贈呈係」(笑)。花束贈呈って、きれいな女の人がやるようなイメージがあって、なんで私みたいなアブラギッシュなオッサンなのかというと、実は「リストのピアノ協奏曲第一番」でソリストを務められたのは、私が師事するお師匠さんだったのです。指揮者の粋な計らいで、そんな美味しい役をいただけたと思い込んでたのですが、一説によれば、私が演奏する席が2ndバイオリンの最後列、前頭15枚目くらいの位置で、最も舞台袖に近い位置だったという点が決め手だったらしい(汗)。まあ何でもいいけど(笑)、とにかく、どうやって花束を渡すかの手はずについて、朝のリハーサル開始前に打合せが行われました。

 

私の席の所に、指揮者とステマネの二人がやってきて協議開始。最も大きな問題は、私が演奏者としてステージ上にいるため、いつどうやって舞台袖に用意された花束を取りに行くかという点だ。ヘタをすれば、お客さんの注目が退席する私の方に向いてしまいかねないよな。お二人が出した結論は、コンチェルト終了直後の、最も拍手喝采が盛り上がった瞬間を狙って退席、カーテンコールで再登場したソリストに花束贈呈という流れ。こういうの細々したことでさえも、指揮者の意向も伺いながら決めてゆくのがステマネさんなのです。

 

ううう、緊張MAX。1曲目の「こうもり序曲」を弾いてる時なんて、その流れを頭の中でシュミレーションする方が忙しかった(笑)。だって考えてみると、目立たないように舞台袖に引っ込むって難しいよな。コソコソ動けば逆に目立つから、こういうのはむしろ堂々とやっちゃう方がいいような気もする。でも、いきなりダーッと引っ込めば、「あの人、トイレ我慢できなくなったのかな」って思われそうだから、楽器持ったまま退席する?それだったら「弦が切れちゃったのかな」って感じだな。でもその後、花束係だったことは判明しちゃうから、「なんで花束取りに行くのに楽器持ってったんだ?」って不思議がられる。むむっ、待てよ。人間の眼の網膜には、盲点と呼ばれる部分があるよな。視線がソリストに集中してる時、私の位置は見えてない可能性もある。いや、そんな都合よく、私が盲点に入るわけないか。ううう、どうしたらいいんだ?・・・って考えてるうちに1曲目が終わる(笑)。

 

 2曲目のコンチェルトが始まったら、もうそんな余計な心配は吹き飛んで、ひたすら師匠のピアノに感動しながら演奏に集中。そしていよいよ4楽章のラスト・・・退席の瞬間がやってきた!結局、楽器を席に置いて、「えいや!」って感じで引っ込みました。

 引っ込んですぐ右手のテーブル上に、師匠に渡す花束が用意されてます。ああ、これだこれだ、と手に取ろうとしたとき、うわ!師匠が舞台袖に引っ込んで来る!まずい!師匠に花束を見られてしまう!私は花束をガードするように、常に師匠とテーブルの中間に位置取りする。ゾーンディフェンスだ!いや違うか。私と師匠しかいないから、マンツーマンディフェンスだ。どうだ!最近解るようになってきたバスケ用語だぜ。ん?待てよ。師匠は別に花束を奪いに来てるわけじゃないから、ディフェンスではないか・・・。

 

まあいいや。ここからステマネさんが大活躍。師匠に再度ステージに向かうタイミングを指示。そしていよいよ私が花束を手にする。たぶん今日のコンサートで最高潮の瞬間だ。失敗は許されぬ。チャンスは一度きり、一撃で決めるしかない。さあ行くぜ!そこでステマネから「待って!」とストップがかかる。私にはステージ上の様子が見えなくて、はやる気持ちを抑えるのが大変だけど、ステマネさんだけが冷静に状況を見守っていて、そわそわする私を左手で制していたが、今だ!という瞬間を見極めて「GO!」。私は言われるがままに満面の笑みでステージ中央に向かい、無事に大役を果たしました。この一連の流れが数秒ずれただけでも、グダグダな印象を残してしまうものなので、ステマネはコンサート全体の演出家みたいな役割を担っているのです。本当にお世話になりました。

 

 最後に・・・コンサートから一夜明けた今日、ピアノのレッスンがあって師匠とお会いしました。師匠は「昨日だったんですよね~。凄く昔のことのように感じます」とおっしゃってました。ニュアンスは違うけど、私も非常に不思議な感覚を持ってます。最近、良い意味で運命に翻弄されてる自分を感じます(笑)。「なんでこーなるの」って事が次々と降りかかってるんだよな・・・良い意味で。このオーケストラに参加させてもらってバイオリン弾き始めて、そのバイオリンがキッカケとなってピアノの師匠に出会って、昨日はその師匠のコンチェルトで一緒にステージに乗るって、なんでこーなるの?(笑)。例えば今、いきなり目覚まし時計が鳴って、ここ数年の出来事は全部夢でした~ってなったとしても、私は普通に納得できるよな。ああ、そうだよな、やっぱり夢だったか~って(笑)。いろんな人から「直井さんの行動力とバイタリティが、夢を現実に変えてるんだよ」って持ち上げられてるけど、当の本人は、ただ単に運命に翻弄されて、まるで坂道を転がり落ちるんじゃなくて、転がり上がるように(?)、楽しいことが次々実現していってる感じなんだよな(笑)。まあ強いて言えば、やっぱり音楽は素晴らしいぜ、ってことかな。・・・ということで、カッコよく締められたので、本日は以上だ!