駿台予備学校、河合塾と並んで、三大予備校の1つである代々木ゼミナールは、浪人生を中心に多数の生徒を集め、全国展開してきたが、少子化に伴う受験生の減少などを受けて、29の校舎のうち7割以上に当たる22の校舎を閉鎖することが先週末報じられた。自校の全国模擬試験は来年度から廃止。大学入試センター試験の自己採点結果を集計・分析し、志望大学の合格判定などを示す「センターリサーチ」は2013年度、全国で約42万人が参加したが、これもとりやめる。講師を中心に数百人規模の希望退職も募るという。予備校事業は再編縮小する一方、大都市好立地にある自社ビル校舎などは不動産事業に活用し、経営多角化を図るようだ。
 大学の入学定員が微増を続ける中、志願倍率は2.15倍(1976年)、1.94倍(1992年)、1.16倍(2013年)と低下傾向にあり、代々木ゼミ全盛のころに比べて浪人生が激減した。他の予備校は現役生を対象にした事業を早くから行ない、東進ハイスクールでは映像授業を現役生向けのオンデマンドによる個別配信で急成長している。一方、大教室での名物講師による授業で私大文系に強かった代々木ゼミは、外部環境の変化への対応に立ち遅れたようだ。
 衛星でのライブ授業、オンデマンド個別配信、何度でも聞けるDVD講義、WEBでのEラーニングなど最近の受験生にはますます便利になってきている。受験産業の側も日進月歩で進化し、対応していかないと、かつての予備校界の巨人も競争力を一気に失ってしまうということか。
 私は、半世紀近く前、東京から遠く離れた和歌山で受験勉強をしていたが、代々木ゼミという予備校の名前は知っていた。受験雑誌の蛍雪時代に広告があったのかもしれないし、旺文社の大学受験ラジオ講座(ラ講)の数学の勝浦捨造先生の肩書が代々木ゼミだったからかもしれない。当時、Z会の通信添削、東京大学学生文化指導会の模擬テスト、駿台の夏期講習は、東大受験の三種の神器と言われ、自分も背伸びをして前2者は試みたことがあったが、難しくて身につかなかった。自分の受験勉強期間中、最も真面目に取り組んだのは、ラ講だった。ラ講は、東大・京大レベルに遠く及ばないが、易し過ぎるということではなく、基本的なことを分かりやすく教えてくれた。物理は東大の竹内均先生、数学ⅡBは慶大の田島一郎先生、英文法は早大の西尾孝先生など、東京の有名大学の先生の授業を、地方にいて聞くことができるのである。費用は、旺文社のラ講テキスト代(当時1冊(1か月)200円くらいか)のみだが、ラジオ放送が毎日深夜か早朝にあり、1年365日続けて聞くことに意義があった。1回聞き漏らすと、次回はテキストが次のところに飛んで行ってしまうので、必ずそれまでに遅れを取り戻しておかないとその科目が続かなくなってしまいがちなのです。自宅にオープンリール式のテープレコーダーはあったが、テープ代が高く、何時間も録音する余分なテープはなかった。録音してため込むと、遅れを取り戻すのがいかに苦しいかがわかり、ラジオ放送をその場で真剣に聞くことにして、1年間継続した。
 大学への数学とかチャート式○○とか難解な参考書、問題集は、手を付けては次々取り換え、最後までやったものはわずかだった。このため高校3年の時は、学校の実力テストの成績は低下の一途をたどり、旺文社の全国模試(今では殆ど見なくなったが、当時受験参考書は旺文社が圧倒的で、全国模試や子会社の英教で通信添削などもやっていた)では志望する阪大の合格率が~50%という成績だった。展望の見えない日々であったが、毎日聞くラ講だけは理解でき、それが1日1日蓄積されていくように感じられた。自分が現役でなんとか阪大に合格できたのは、ラ講のお蔭だと思っている。
 特に数学Ⅰの勝浦捨造先生の授業では、今からでも人の2倍、3倍頑張れば十分取り戻せると励まし続けていただき、心の支えになった。ご自身も三高(京大)受験に浪人された経験もあり、受験生への思いも人一倍だったのだと思う。YouTubeを検索すると、勝浦捨造先生の授業の貴重な録音がアップされていた。

https://www.youtube.com/watch?v=GAKDaPR3Bv4


https://www.youtube.com/watch?v=5cVjKbPz4_M

 中波や短波のラジオ放送では、混信して、先生の声が消えそうになり、たいへん聞き取りにくい。現在の受験生のオンデマンド授業とは雲泥の差だが、当時は聞き漏らすまいと必死だった。そうした真剣さを持って、現在の資格取得の勉強にも取り組まねばと、改めて感じたしだいである。