魔王の卵、いかがでしたでしょうか?
 主人公が傭兵なのだから、やはりアクションが似合うだろうという発想から、なぜかインディ・ジョーンズのような冒険活劇に行き着いた次第です。
 三人の苦手なものを描きたいというのも目的でした。こういった話では冒険の過程で、苦手なものを克服するシーンなどがおおいのですが、そのままにしておいた方が今後の話も書きやすく(w)、欠点があったほうがキャラに可愛げも出るだろうと考えそのままにしておきました。
 起伏や伏線の乏しさが露呈した感がありますが、皆様はどうご覧になりましたでしょうか?


 さてここで一つお知らせがございます。今まで私と不法氏で描いてきた傭兵少女のSSですが、皆様はどんなお話が読みたいのでしょうか?
 もしかしたら思いもよらないキャラが候補に挙がったり、皆様の感じている傭兵少女の魅力が垣間見えるかもしれません。
 そう、次のお話は、皆様からのリクエストを頂戴して書きたいと思います。
 応募はこの記事のコメント欄に直接書き込んでいただいて結構です。締め切りは特に設けません。寄せられたアイディアの中から、不法氏と相談の上執筆にかかりたいと思います。
 なお、あくまで二次創作物ですので、傭兵少女の基本的設定を変えてしまったり、その趣旨とは逸脱した内容はご遠慮ください。
 そのため誠に申し訳ありませんが、次回作が完成するまで更新はお休みさせていただきます。


 皆様からのアイディアを、心よりお待ちしております!

 と、残念ながら話はここで終わらない。AEGISの後始末をお伝えしなくてはならないからだ。
 帰還後、カイの部屋に呼ばれた三人は、かの鎧よろしく直立していた。
「アテナをはじめ、上は大騒ぎしてらぁ。安易に依頼人を信じ、ニセの身元も見抜けず、みすみすかわいい部下を危険に晒したってな。今かかってる作戦の洗い直しを含めて、しばらく後引くだろうなぁ。職制変更なんてこともあるかもな」
 書類の山に囲まれ、カイはふてくされたように言う。
「まーぁその辺のことは俺たち管理職に任せるとしてだ。お前ら、なんだこの報告書は?俺はコメディ映画の脚本を書けといった覚えはないぜ?客観的な事実のみを書いたものを寄越せと言ってるはずだがぁ?」
 キールがおずおず答える。
「そのォ…すべて客観的事実であります、はい」
「隊長様がパラシュート降下で気を失って、偶然行きがけに見つけたゲリラと交戦してこれを叩き潰し、調査団の一人を保護した後勝手に調査に随行し、お化けまがいのトラップに腰抜かすわ蛇に驚いて尻餅つくわ、挙句厄介なカビをみつけて無関係な隣国の手を煩わせたと。ぜーんぶコレ事実なのか??」
「はぃ…」
 カイはどでかいため息をついた。
「あのなぁ、これじゃ今すぐクビになってもおかしくねぇぞ?今回は分析室も騙されたし、責任は折半ってとこか。それを抜きにしてもこの体たらくは笑えんな。苦手な物のせいで命落としたなんて、笑い話にもならんだろう?たるんでるぞお前ら。鍛えなおせ。以上」
 三人は敬礼し、部屋を後にした。

「だぁぁ、クビは免れたかぁ」
 キールは部屋を出るなりため息をついた。
「でも輸送機の操縦士さんの件とかはどうなったのかな?」
 リクの疑問にソラが答える。
「多分内々にもみ消されている。ゲリラと同じ出所で武器を買っていたなんて、信用問題になる」
「ま、管理職が何人か飛ばされておしまいかな?」
「ぶー。そういうの嫌だなァ」
「若いねェりっくん。世の中そうやって動くもんだよ。それより来月の査定が心配だよ俺は…」
「お姉ちゃん!ぼく来月のごはんのおかず一品減らしていいからね!?」
「そんな心配は要らないよ。それより今回は、もっと問題が…」
「「あああああーーー……」」
 リクとキールが重々しい声を上げた。
「やっぱ克服訓練とかさせられるのかねぇ?」
「お姉ちゃん!お化け屋敷だけは嫌だよ!」
「私だって…何されるかわからない…」
「でもよー、誰でも苦手なものくらいあるよなぁ。傭兵長は何かないのか?」
 と、ソラとリクが足を止めた。
「ん?どした二人とも?」
 二人は顔を見合わせ、スローモーションのように表情をにやけさせた。
「帰ろうかお姉ちゃん?晩ごはんの支度しなきゃ!」
「そうだなリク。スーパーに寄っていかなきゃ」
 二人は手をつないで、廊下をスキップしながら進み出した。
「おやおや?なんだそのわざとらしいやり取り?カイさんもなんか苦手なものあんのねえ。あ!まさか食べ物系!?なになに!?ニンジン?セロリ?トマトとか?シカトは勘弁してよー。なぁお二人さんよー?」
 二人の後を追うキール。しかし直後、二人にまかれて見失ってしまった。
 その後ソラとリクはスーパーで、エビピラフの材料を買って帰った。三人分にしては、グリーンピースの量が多いようである。


(了)

 数日後、ロスフェラー卿の寝室のドアが叩かれた。
「…入りなさい」
 か細い声で主が答え、ドアが開き、リリィが部屋に入る。
「ただいま戻りました…」
 宮殿のような部屋のカーテンは閉め切られ、中央に鎮座する船のようなベッドには、毛糸人形のような老人が横たわっていた。
 顔は皺に覆われ、髪は白くやせ細り、さりとてその眼光は衰えず、世界の頂に立つ男の生命力を湛えている。
 傍らにいた医者が半歩下がり、リリィにお辞儀をした。
「おぉ、戻ったかリリィ…心配したよ?」
「申し訳ありませんでした。ご心配をおかけしまして…」
「いいんだよ。無事で何よりだ。ロジャーも不穏には感じていたが、なくすと惜しいものだね。彼らは気の毒だったが…」
 老人…ロスフェラー卿は自分の右手を眺める。
「あの調査団を私に紹介したのはロジャーだった。こんなに老いても、夢というやつは捨てられん。自ら追う事は叶わなくとも、手助けならと資金を出したが…こんな事になるとはな…。お前まで危険な目にあわせてしまうとは……。もう、年相応に大人しくしろという宣託なのかも知れんな……」
 一言話すごとに弱っていくようだった。
 と、リリィは部屋の隅で埃をかぶっていた車椅子を引っ張り出し、ベッドの横につけた。
「旦那様、来て頂きたいところがございます」
「なに?」
 医者が飛び上がるように止めた。
「おやめくださいリリィ様!卿はとてもそんな容態では…」
「あなたがここに来てから、旦那様の容態が快方に向かったことがあるの!?今日くらいアタシの言う通りにさせなさい!」
 噛み付くように言い返され、医者は後ずさった。

 リリィはロスフェラー卿を車椅子に乗せ、長い廊下を歩いた。
「どこへ行くんだね?」
「すぐそこです」
「そう願うよ。この歳になって遠出は酷だ。あぁ、こんな城の様な屋敷に住んでいながら、寝室から出ることも不自由するとは情けない…」
 ロスフェラー卿は自嘲するように言う。やがてリリィはある扉の前に着いた。
「ここです」
「ここって…この向こうは庭じゃあないか。よしておくれ、庭師に暇を出してから荒れ放題らしいじゃないか。気が滅入るだけだよリリィ」
「つべこべおっしゃらず、ご覧になって下さいましっ」
 リリィは突き飛ばすように扉を開けた。外の光に一瞬目がくらんだロスフェラー卿は、やがて目の前に見える光景に息を呑んだ。
 そこは花園だった。淡く優しく美しい色の花たちが、青い空に泳ぐように、広い庭に所狭しと咲き乱れていた。しかもどれも見たことのない花ばかりだった。
 その色はまるで自ら光を放っているかの如く眩く、その甘い香りは鼻を通って体の芯まで駆け抜けていくようだった。
 ロスフェラー卿は驚きと感動の余り、声も出せずにいた。
「いかがですか旦那様?」
「これは…一体どういう……?」
 いたずらが成功したような顔で、リリィがタネをあかす。
「ケマット山に咲く珍しい高山植物や、麓の町の花屋で売っていた花を取り寄せましたの。庭の手入れをする時間はなかったんですけど、こうして並べるだけでも見違えたでしょう?」
「見違えたなんてものじゃない、別世界にいるようだよ…!」
 両手を広げ、この場の空気を逃がすまいとするような卿のしぐさに、リリィは一層手ごたえを感じていた。
 リリィは車椅子を庭の中ほどに進めた。そこにはテーブルと椅子が置かれていた。テーブルの上にはティーセットと籐のバスケットが置かれている。
 リリィは車椅子をテーブルに着け、ティーセットで手際よく紅茶を煎れた。
「シャイーハでアタシを助けてくれた傭兵さんの同僚さんが、紅茶がご趣味なんですって。その方にお花に合う紅茶を頼んだら、これを下さいましたの」
 そういってリリィが差し出したミルクティーは、卿が手に持つ前から分かるほど芳しく、それでいて花の香りを邪魔しない軽やかな香りであった。
「あとこれも下さったの」
 リリィが開けたバスケットの中には、山ほどのレーズンロールが入っていた。
 卿はレーズンロールをちぎって口にし、ミルクティーを一口すする。スポンジのようなパンがミルクティーをじわっと含み、レーズンの甘みが紅茶の香りに花を添えるようだ。
「どう?旦那様」
「あぁ……こんなにうまいものが、この世にはあったのだな……」
 目を閉じて、ゆったりと香りに身を任せるように、卿はつぶやいた。
「そしてこんなにも美しい花が、この世にはあったのだな…」
「えぇ、お忘れでしたでしょう?長らく部屋にこもりきりで…」

 ソラの仮説。それはウェドリムが極端に繁殖力が低く、日当たりと風通しに極端に弱いカビだという事だ。
 それゆえ間近で大量に吸ったロジャーのみが死に、自分たちは助かった。少年王も多量に吸わないことで生きながらえたに違いないと。
 そう、特効薬とはほかでもない、日当たりがよく風通しのいい場所のことなのだ。
 ロスフェラー卿はきっと気持ちを病んでいると察したソラとリリィは、早速一計を案じ、花を買い集めたのである。

 ロスフェラー卿はもう一口、レーズンロールをかじり、ミルクティーを飲んだ。
「うん…うまい。とてもうまいよリリィ。よい友を見つけたようだね?ぜひ礼が言いたい。よかったら、今度連れてきておくれ」
「えぇ、是非」
「それとねリリィ」
「なんです?」
「ごちそうさま…ありがとう」
 卿は、今まで見せたことがない優しい顔で微笑んだ。それを見たリリィは大粒の涙を流し、卿に抱きついた。