今日は思ってたより遅くなった。

 

午後は、古くからのお客様が新しく入ったジュエリーのデザインを見に来てくれて、話が盛り上がってすっかり時間を忘れちゃった。お客様を見送ったあと、テーブルの上のサンプルや図面を片付けて、バッグを手にオフィスを出た。

 

まっすぐ帰らずに、いつもの路地裏のカフェに寄った。

 

 

ドアを開けると、おなじみの香りがふわっと広がる——挽きたてのコーヒー豆に、ほんのりミルクの甘さが混ざった匂い。マスターがこっちを見て、「いつもの?」って聞くから、「うん、いつので」って笑いながら答えた。

 

カウンターの隅っこに座って、バッグを足元に置いて、深く背もたれに寄りかかった。

 

 

今日は結構忙しかったんだよね。朝はブルゴーニュの新ヴィンテージが届いて、一本開けてみたんだけど、香りも華やかで、しっかりした厚みもあって、繊細な味わいが好きなお客様にぴったりだなって思ったんだ。午後は、リングのデザインを二つ修正して、そのうちの一つは私自身がすごく気に入ってるシリーズで、ピンクサファイアを使ったやつで、結構こだわったんだよね。

 

でも、こういう忙しさ、実は嫌いじゃないんだ。

 

ワインもジュエリーも、どっちも“素敵なもの”と向き合う仕事だから。それをちゃんと分かってくれる人に紹介するのも楽しいし、お客様がジュエリーを身につけたときに、思わずこぼれる笑顔を見ると、やっぱり頑張ってよかったなって思える。

 

コーヒーを何口か飲んで、ようやく頭が落ち着いてきた。

 

 

隣の席からはお客さんたちのひそひそ話が聞こえてきて、窓の外には夜の台北の車の流れとネオンが光ってる。カップを両手で包み込んで、窓ガラスに映る自分を見ながら、こんなにシンプルな一杯のコーヒーが、なんだかすごく贅沢なごちそうに感じられるんだなあって思った。

 

最後の一口を飲み干して、立ち上がってマスターに「お先に〜」って言った。

 

店を出ると、夜風が優しくて、ちょっとだけ秋の気配が混ざってた。

 

明日もまた新しいワインを試して、新しいデザインを直さなきゃ。でも、急がなくていいや。

 

おやすみ、台北