池から来る者 | 柳川淳二の怪談部屋

柳川淳二の怪談部屋

実話も織り交ぜたオリジナル創作怪談をメインとして、その他色々と記して行きます。
当ページの怪談は怪談朗読師のIsAM(136)殿にも朗読頂いておりますのでゼヒ、ソチラもお聞きになってみて下さい。
YouTubeの知的好奇心CLUBでは心霊部隊に所属。

こんばんは、柳川淳二です。


今夜のお噺はねぇ・・・アタシがまだ子供だった頃に体験した、恐ろしい出来事なんです。


当時は・・・そうですねぇ、小学校低学年で・・・確か2年生くらいの頃でしたかねぇ・・・。


アタシは東京といっても都下の生まれでしてねぇ、都内じゃないんだ。


なんでね、家の周りには公園やなんかが一杯あって、畑やら森やらがある自然が豊かな場所で育ったんですよ。


だからねぇ、遊び場に困る事は全く無かったんです。

今日はここ、明日はあそこってねぇ、毎日暗くなるまであちこち飛び回って遊んでいたもんですよ。


そんな遊び場の一つなんですがね、自転車でもって20分程走った所に大きな森があったんだ。

そこ、奥まで行きますとダム湖があるような場所なんですよ。


都下でダム湖って言ったらねぇ、分かる方は分かっちゃうと思うんですがね、まぁそんな場所なんだ。


その森の中にね、ひょうたん池っていう名前の通りひょうたんみたいな形をした池がありましてね・・・アタシら、そこでもってねぇ・・・ボラだのザリガニだのを釣ったり、おたまじゃくしを取ったりしてね、良く遊んでたわけだ。


でもね、そこ池とは言いますが水が緑色で濁ってましてね・・・底も見えないし流れが無いもんで、淀んでいるというかどちらかというと沼なんですよねぇ。


で、水深が結構深いんだ。

森の中なんで、人も居ないし・・・子供なんかがねぇ、溺れたりしたら大変なんですよ。


だから親からはねぇ、「危ないからひょうたん池では遊んでは駄目よ!」といつも言わていたんですがね。


まぁ、子供ですからそんなの聞かないんですよねぇ。

口ではね、はいはいと言いながらね、楽しいもんだから結局は遊びに行っちゃうんだな。


それでね、アタシにはそのひょうたん池にいつも一緒に遊びに行く友達がいたんです。


その子、仮にアキラ君としておきますが・・・彼、転校生でしてねぇ、なかなかクラスになじめなくていつも一人だったんですよ。


当時はというと世の中核家族化が進んでましてね・・・両親と1人っ子の3人家族でもって、両親は共働きですからねぇ、子供は鍵を持たされて学校が終わると一人っきりの家に帰ってゆく・・・。


そんな家庭が結構あったんだ。

アタシらの中ではそんな子を「鍵っ子」なんていってねぇ・・・どちらかというと羨ましがってましたよ。


だってねぇ・・・格好イイじゃあないですか、自分専用の鍵を持っているっていうのが、ねぇ。

しかも帰れば自分一人ですからなんでも自由だしねぇ。


アタシはってーと家に帰れば誰かしら居ますからねぇ、やれ手を洗えだの宿題しろだのうるさいったらないんだ。


でもねぇ、鍵っ子の現実はそんなに優雅なもんでもなくてね・・・まだ親が恋しい子供の時分ですから、家に帰って誰も居ないってのはねぇ、寂しくもあり・・・怖くもあったんじゃないかなぁ。


話が逸れましたがね、そのアキラ君も鍵っ子だったもんでね・・・やっぱり寂しかったんでしょう。


ちょいとしたきっかけでもってアタシと仲良くなってからはねぇ、学校が終わりますとね・・・。


「淳ちゃん、遊ぼうよ!」

「今日はどこ行こうか、淳ちゃん!」


ってね、毎日のように一緒に遊んでいたんですよ。

きっとアキラ君は一人寂しい家に帰りたくなかったんでしょうねぇ。


そんなある日のこと、夜寝ている時にね・・・アタシ夢を見たんだ。

どんな夢かってーと、アタシがね、ひょうたん池で遊んでるんですよ。


でね、なんかの拍子でもって足を滑らせて池に落ちちゃうんですがね、上がろうとしても上がれない。


上がりたくてもがくんですが、足が何かに絡まってどうしても岸に上がれないんですよねぇ。


見ると、池の底からたくさんの白い手が生えていてそれが一斉にアタシの足を掴んでいるんです。


どうやらその手、アタシを池の底に引きずり込もうとしているみたいなんですよ。


手を振り解こうと暴れるんですが、抵抗も空しくどんどんどんどん池の中に引っ張られて行く・・・。


顎が水に漬かり・・・口が・・・鼻が水の中に入ってしまうんだ。

アタシしこたま水、飲みましてね・・・苦しくて苦しくて・・・もう、ダメだ!


・・・と思ったところで目が覚めたんです。

布団、汗でびっしょり濡れてましたよ、怖かったなー。


そんな夢を見た日の放課後、いつものようにアキラ君がやって来ましてねぇ・・・


「淳ちゃん遊ぼう!今日はひょうたん池でザリガニ釣ろうよ!」


って誘ってきた。

いつもなら二つ返事で行くところなんですがね、あんな夢も見ていましたし、アタシ気が乗らなかったもんでね、断ったんですよ。


家の用事があるから・・・なんて嘘ついてね。

アキラ君、肩を落としてねぇ・・・とても残念そうでしたよ。


その翌日・・・アキラ君は学校に来なかった。

そしてその次の日、先生がアキラ君が亡くなったことを告げた。


どうやらアキラ君はあの日、アタシがひょうたん池に行くのを断ったあの日・・・一人で池に遊びに行ったらしい。


そして池に落ちて溺れたのか・・・池にアキラ君の靴だけが浮いていたそうです。

捜索隊が必死に捜索したものの、なぜか遺体は上がらなかったそうですよ。


アタシね、子供ながらにあの日誘いを断ったことへの罪悪感に苛まれましたよ。

あたしが一緒に行っていたらアキラ君は死ななかったのじゃないだろうか・・・とねぇ。


でもね、もし行っていたらアタシが死んでいたかもしれないという恐怖感も実はあったんです。

それはあの夢の出来事があったからなんでしょうがね。


で、しばらく日が立ちましてね・・・アキラ君の騒ぎも大分落ち着いて来たある日の夜、アタシまた夢を見たんです。


アタシ、夜中の真っ暗なひょうたん池のほとりに立ってるんだ・・・。

それでね、なぜか池、見つめてる。


するとやがてね、真っ暗な池の真ん中辺りがザワザワザワザワしだすんですよ。


そして、そこから顔や腹がパンパンに膨れ上がってねぇ・・・所々紫色に変色して腐敗した肉が溶け落ちた見るも無惨な子供の水死体が現れたんです。


アタシなぜかそれがアキラ君であると分かったんだ。

きっとあの夢で見た白い手に引き込まれて死んだアキラ君だと。


アキラ君は池の上に浮かび上がるとスゥーと滑るように移動しはじめたんです。


アタシはってーとそのアキラ君を後ろの少し高い所から見下ろしているんだ。

そしてアキラ君と同じ速度で移動している。・・・要するに追跡する形ですよねぇ。


アキラ君は見慣れた道をかなりの速度で滑るように移動している・・・。


やがてとある場所に着くとピタリと停止したんです。

そこねぇ、アタシの家の前なんですよ。


アキラ君はアタシが寝ている2階の部屋を見上げると、スゥーと浮かび上がり窓を突き抜けて中へと入ったんです。


・・・そこでアタシ、夢から覚めたんだ。

心臓がドキドキドキドキしてる、布団は汗でびっしょり濡れている。


暗い部屋・・・ふと気配を感じましてね、窓の方を見ると・・・。


アキラ君が立っていた。


顔と腹がパンパンに膨らんで、所々紫色に変色して腐敗したアキラ君が立っていたんです。


アキラ君は死んだ魚のように白く濁った目でアタシを見ると、ニィーっと笑って言った。


「淳ちゃ~ん、ひょうたん池に遊びに行ごうよ~、楽じいよ~!」


アタシ、あまりの恐怖にブルブルブルブル震えてましたよ。

アキラ君が迎えに来た・・・。


あの日、アキラ君を見捨てたアタシをひょうたん池に連れていくために・・・。


「ねぇ、行ごうよ~、一緒に行ごうよ~」


アキラ君が言いながら歪んだ笑みを浮かべて腐った手を伸ばして近づいてくるんだ。


アタシ我慢できず部屋を飛び出した。


「淳ちゃ~ん、まっでよ~!」


アキラ君がゆっくりと追いかけて来る、まるでアタシが逃げ切れない事を知っているようにねぇ・・・。


部屋を出るとなぜかぷ~んとお線香の匂いがしたんです。

父と母の寝室の前を通り、階段を駆け下りる。


この時なぜかアタシ、両親に助けを求めようとは思わなかったんですよ。

どういうわけか両親ではどうにもならないという事を感じていたんだな。


祖母の部屋の前も通り過ぎ、暗い廊下を走る。

そしてお線香の匂いのする方へと急いでいたんです。


「淳ちゃ~ん、なんで逃げるの~?一緒にいごうよ~」


アキラ君の声が後ろに迫っている。

見るとアキラ君は腐って腫れた顔に満面の笑みを浮かべて追いかけて来ているんです。


アタシは突き当たりに追い詰められ、藁にもすがる思いでその部屋に転がり込んだんですよ。


ぷ~んと香るお線香の匂いが一層強くなった。

そこ、仏間だったんです。


仏壇があって、去年亡くなった祖父の遺影が飾ってある。

アタシの祖父は帝国の軍人さんだったんですが、海軍の結構偉い人だったらしく、とても厳格ではあったんですが優しかった。

アタシ、祖父が大好きだったんですよ。


やがて、アキラ君が仏間の入り口に辿り着いた。


「淳ちゃ~ん、もう逃げられないねぇ~いごうよ~池にいごうよ~」


言いながら部屋に入ろうとした時・・・。


「淳二は二度とお前とは遊ばない!!自分の場所に帰れっ!!」


雷のような凛とした怒号が部屋に響き渡ったんですよ。

それ・・・懐かしい、祖父の声だったんです。

するとアキラ君はとても悔しそうな顔をして・・・スッと消えた。


翌朝目覚めるとアタシ、仏間の畳の上にいましたよ。

昨夜の事は、夢じゃなかったんだと思いましたねぇ。


ひょうたん池からアタシを連れに来たアキラ君から、祖父が救ってくれたんだと確信したんです。


その後、ひょうたん池は子供が溺れる事故が相次いだもんでね、全周を鉄条網付きの高い金網でもって囲まれましてね、中に入る事はできなくなりました。


でもね、その場所・・・今もまだありますよ。

荒れ果ててもう近づく人間も居ませんがね、きっとアキラ君はまだあそこで寂しさを紛らわしてくれる友達を探して待ち続けているような気がするんですよねぇ・・・あの無数の白い手と共に。


この体験から、アタシは守護霊だとか悪霊だとかいうものが現実にあるんだという事を信じるようになったんですよ。


そしてね、ご先祖様は大切にしなくてはいけないんだという事もねぇ、学んだんですよ。


みなさんはいかがですか?

お墓参り、ちゃんと行ってますか?仏壇にはお線香、お供えしていますか?

是非、ご先祖様を大切にする心・・・忘れないで下さいねぇ。


今夜の怪談はこれでおしまいです。

近いうちにまたお目にかかりましょう。


それじゃまた。