とうとう家にヤツが現れた。


夜中、トイレに行こうと電気を点けてドアを開けた瞬間、黒く鈍く光る物体が、足元をものすごいスピードで一直線に駆け抜けていくのが、目に止まる。


絶叫しながら、嫁さんの元へ走る私。


虫系が完全にだめな私は、この世の終わりにように、嫁さんに懇願した。


「頼むから、あいつを殺してくれ」


嫁さんはしぶしぶ物置にしまってあったゴキジェットプロと懐中電灯を片手に、トイレ付近に向かった。


しかしそこにあいつの姿はなかった。


どこを探しても見つからない。


「本当にいたの?」


と、存在を疑うような詰問も飛び出した。


「絶対にいた。間違いない」


私は、自分の虫発見センサーの性能の良さと、その絶対的信頼性と確実性をぞんぶんにアピールした。


しかしゴミ箱の下、洗濯機の下、電子レンジ置きやコード類の陰など、すみずみまで探したが、いない。


私は、どこかに姿をくらましたのだろうかと、半ば諦めてかけていたそのとき、目の端に黒くすばやく動く塊を認識した。


「いたぞ!!」


どうやら、隣のベッドルームに逃げ込んでいたらしい。


ヤツはそのままベッドの下へもぐりこむ。


嫁さんは懐中電灯で下を照らす。


隅にいるヤツを発見した嫁さんは、ベッドの上に乗り、隙間からヤツめがけて、プロを発射。


たのもしすぎるほど、軽快な、プシャアッ!という殺人音がこだまする。


「やったか?!」


生死の確認を急く私に、嫁さんは苦々しく答える。


「まだピクピクしてる・・」


どうやら、長年にわたり保管していたため、プロの殺人力が低下、その威力が劣化していたらしい。


「完全にしとめるまで、噴射をやめるんじゃあない」


確実な暗殺を促す私。


しかし、ヤツは噴射をまともにくらったらしく、その場(ベッドの下)から1歩も動けず、ただ仰向けになって手足をピクピクと動かしているだけのようだ。


書いてて気分が悪くなってきた・・。


完全に動かなくなってから嫁さんは手元にあったクイックルワイパーで、ヤツを補足。


ベッドの下からはいずりだす。


しばらく様子をうかがってから、再度噴射。


一ミリも動かないことを確認してから、ワイパーのシートで丸めてごみ箱へポイ。


ついにヤツをぬっころすことに成功。


私が嫁さんを尊敬した出来事だった。



私は後方でスリッパを片手に待機していただけです。すみません。