宗佑の抱える傷と弱さに同調したミチルは、元いた美容院で再び働くことを決意する。

そのことをルカたちに告げるミチルの目には、「もう宗佑の思い通りにはならない。自分さえしっかりしていれば、なんとかなる」という、はっきりとした強さが宿っていた。

宗佑の呪縛から逃れ、再びルカたちのいるシェアハウスへと戻るミチル。

後日、ルカの実家で、パーティが開かれる。

ミチルやタケルを歓迎するルカの家族。

そこにはミチルの求める「家族の暖かさ」があった。その夜、ミチルに聞かれ、ルカは、自分には好きな人がいる、と洩らす。しかし、当人を前にしたルカの心は、複雑な思いで満ちていた。

永遠に交わらない二つの平行線は、多くの感情を内包したまま、またも違ったベクトルへとその矛先を向けていく。


一方、妻との不仲をきっかけにシェアハウスへ転がり込んできた会社の同僚、オグリンとの微妙な関係を続けていたエリは、妻の元へと帰ったオグリンに対し、不満をあらわにする。

それは同時に、自分自身への不満でもあった。

やり場のない感情を、甘えに似た劣情へ変換し、タケルにぶつけるエリ。

そのままなし崩し的にタケルを襲おうとするが、同性愛者のタケルはそれを激しく拒む。

水道水で口をすすぐタケルの姿は、監督に無理やり襲われたルカのそれと重なる。

ミチルとルカの思いがすれ違っていくのに対し、ルカとタケルのポジションは、どことなく重なり合っていく。


それぞれが抱く思いは違うものの、次第に惹かれあっていく二人。

「なんとなく安心する仲間」としてのルカのタケルに対する認識と、「守ってあげたい」という、恋愛感情に限りなく近い思いをルカに抱くタケル。

遊歩道を並んで歩く二人の姿は、これから等しく訪れるであろう幸せを感じさせる。

少なくとも、今、この瞬間だけは・・・。


二回目のモトクロスレースで優勝を勝ち取るルカ。

身の丈に合わない気負いもなく、プレッシャーもなく、ただ、強くなりたいという純粋な意志。

仲間や家族、監督に心から応援されながら、夢を確実に勝ち取っていくルカに対し、ミチルは憧れを感じながらも、自分の心には暗い感情が眠っていることを知っている。

それは弱い心を持つ者同士、理解し、惹かれあう、宗佑への思いを引き金に、ルカへと吐き出される。

「私はルカとは違う」

そう言い残し、ルカを跳ね除け、宗佑の元へと走るミチル。

なぐさめようとしたタケルに対してルカはミチルと同じことをする。

「触るな。アタシに触るなよ」

他人を絶対に傷つけないその優しさ故に、結果的に自分が傷ついてしまうタケル。


ひとつになるはずだったリボンは、たったひとつの綻びから、修復不能に引き裂かれたまま、もう元には戻らない。



○感想

今回は、宗佑が寝込んでいたため、登場シーンが少なく、シェアハウスのメンバーのやり取りをメインに、話が進んでいくような感じでした。

岡崎京子の『リバーズエッジ』に引用される、「平坦な戦場」のイメージ。

なぜかそれを思い出しました。

こちらも少年少女の錯綜する思いを美しく破壊的に描いた傑作ですが(同性愛や摂食障害、暴力など現代に潜む病理をモチーフにしている点も類似)、「平坦な」というのっぺりで平凡な日常を思い起こさせるイメージと、「戦場」という抜き差しならない、悪意の塊のような非日常なイメージが、そのまま、今回の話にぴったりと私の中ではまったからなのかもしれません。

ルカの家族やシェアハウスのメンバーが集まってワイワイ騒ぐシーンと、宗佑の登場シーンの冷たさ。

この二つのシーンは、明らかに、日常に潜む狂気を描き出しているし、それが逆に、物語に緊張と緩和を生み出している、ひとつの要因だと思います。

宗佑の登場シーンが少なかった今回、改めて、それを認識しました。


それにしてもタケルの「距離感」は、ますますいい感じですね。

ミチルが、タケルにだけは胸の内を打ち明けられるのも、うなずける気がします。



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なぜリバーズエッジがアフィにないのでしょうか・・・。