『心淋し川』西條奈加 集英社


東京十社というものがある。
私が訪れたことがあるのは、日枝、赤坂と深川の富岡八幡宮の3つで、長く東京に住んでいるが神田明神にすら行ったことはない。
未踏十社のうちの1つが根津神社。
『心淋し川』の舞台界隈である。

地図を開く。
なるほど、いわゆる「谷根千」と言われるエリアがそれに当たるのだろうか。
意外にも東京大学のキャンパスが近くて驚く。
それらしき川は見当たらない。

さらに調べてみると、かつては千駄木あたりに藍染川という川が流れていたが、今は埋め立てられたという。
心川がこれに当たるのかどうかはわからないが、埋め立てられたという事実に読後の心がさらに切なくなる。

人間の清も濁も飲み込んで、淀み流れる心川。
そのほとりで貧しくも肩寄せあって懸命に生きる人々。
小指の先ほど灯った希望の火が、また明日をどうにか生きる活力になる。
直木賞受賞作は、なんとも切なく、優しい。