『お探し物は図書室まで』青山美智子 ポプラ社

たった一冊の本が人生を変える。
とまでは言えないかもしれないが、何かのトリガーになることは多いにある。
例えば私にとってそのひとつは芥川龍之介の『地獄変』だった。
正しく言えば、新聞小説として掲載された当時の切れ目通りに読んだ『地獄変』だ。
謎めいたことを言っておきながら、その実を
語らない語り部。
いいところで翌日に引っ張るいやらしさ。
芥川のエンターテイナーとしての手腕に圧倒され、その日を境に先行を日本文学に替え、芥川で卒論を書いた。

こんな時代に紙じゃなきゃいけない理由って何だろう?
本以外のエンタメが溢れ、電子書籍も充実し、年々書籍や雑誌は売れなくなっているという。

そんな時代に、Amazonでもブクログでもない、「図書室」の「レファレンス」で小町さんが本を紹介してくれるというのがいい。

ここで作中から一文引こう。
「作り手の狙いとは関係のないところで、そこに書かれた幾ばくかの言葉を、読んだ人が自分自身に紐づけて、その人だけの何かを得るんです」

垣間見たのは、青山さんの書き手としての謙虚さと慎ましさと、そして希望だ。
誰かに何かを届けよう、伝えよう、なんて大それたことは思わずに、それでも紡ぎだす物語が「その人だけの何か」になりますように。
いやそれがこの本でなくてもいいから、そんな一冊に出会える幸せを、多くの人が味わえますように。
いわゆる「ビタミン小説」と呼ばれるような内容でありながら、まるで祈りのような敬虔さを感じる。

あぁ、やっぱり僕は本が好きだ。