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解錠師 スティーヴ・ハミルトン 越前敏弥訳
主人公のマイクルは今刑務所に収監されて十年を迎えようとしている二十代後半の青年であり、彼がどうして服役するようになったのか読者に打ち明ける形で物語が進む。
マイクルは幼少期ある悲惨な事件に巻き込まれ、その精神的ショックから言葉を失っている。叔父に引き取られ育ったマイクルは孤独だが、天性の才能が二つあった。一つは絵を描くこと、そうしてもう一つは、金庫破り〜解錠である。
絵の才能により恋人となるアメリアを知ることとなる。
そして解錠の才能は彼の幼さもあり犯罪者の大人に絡み取られていく。しかし解錠という行為は、愛する人を守りたいというマイクルの強い意思と矜持の表れでもある。
物語は、マイクルの半生の二つの時間を行き来しながら語られる。解錠師としての仕事の日々と、幼少期叔父に引き取られ暮らし始め解錠師の才能を開花するまでの、そしてアメリアとの出会いの日々が平行して描かれる。そして事件の結末と過去の真相が明らかにされていく。
作者の物語の構成力と語りのスピード感は素晴らしい。一気に読ましてくれる。そしてこの小説は、ハヤカワミステリ文庫として発刊されたミステリ・サスペンス小説なのだけど、純愛小説でもあります。

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冬芽の人 大沢在昌
久し振りに「新宿鮫」を読んでみたいと思って図書館に行き、開架書庫を探したけれど見つからず、この「冬芽の人」が複数冊あったので人気の作品かなと思い借りてみた。
珍しく女性が主人公。それも警察をある事情で退官しOLとなった女性が事件の真相を追うという特異な設定。でも無理なく読ませてくれるのは作者の筆力だと思う。事件の真相を追ううち自分が退官せざるを得なかった過去の事件の真相も知ることになるという内容となっている。
最後まで一気に読ませてくれるのだけど、結末には少し無理があり構成の綻びを見てしまったとしらけるエンディングであった。

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バースデー・ストーリーズ
村上春樹訳のバースデーに纏わる短編小説アンソロジー。12作品+村上春樹作品たといった構成となっている。12作品の中で一番好きな作品はラッセル・バンクスの「ムーア人」。幸せな気分にさせてくれるそして切ない物語でした。