天国へ届け 『孔雀王』『夜叉鴉』他 漫画界を変えた「伝奇ロマン」の開祖 萩野真さん死去 | 20世紀漫画少年記

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 2019年4月29日、『孔雀王』シリーズで知られる萩野真さんが腎不全のため亡くなられた。享年59歳。

 

顔写真は(https://book.douban.com/author/257306/)より

 

 葬儀は5月8日に近親者のみにて執り行われた。公式HPでは「これまでの読者の皆さまのご愛顧に対し深謝しますとともに 謹んでご逝去の報告を申し上げます」と追悼の意を表した。

 

 萩野真公式HP「孔雀の実家」

http://www4.airnet.ne.jp/kujaku/

 

 荻野真さんは1959年5月26日生まれ、岐阜県出身。

 

 85年に『孔雀王』にて『週刊ヤングジャンプ』で漫画家デビュー。 当初は『孔雀退魔行』のタイトルで連作短編シリーズとしてスタートし、徐々に読者人気を獲得したことで週刊連載化へ移行。それと共に作品タイトルを『孔雀王』へ改題。 同作品は爆発的な人気となり、 『ヤングジャンプ』史上初の集英社青年漫画大賞にも選出された。 1988年にはOVA 、ゲーム、さらには日本・香港合作の実写映画(上記中央写真)にもなり現在で言う「メディア展開」の先駆けともなった。40代以下の方は知らないかもしれないが当時の『孔雀王』の人気はものすごく、第1巻の単行本初版は予約などを含め、発売からわずか数時間で5万部が売り切れたとほどだった(『孔雀王』文庫版あとがきより)。 その為、萩野さんは「単行本が本屋に並んでいない」と勘違いして担当編集者と喧嘩寸前になったという。 少年誌ではできないエロ・グロ路線の作風も大いに人気となり、80年代の青年誌ブームにおいて『孔雀王』は青年マンガを代表する作品となった。

 

 以後、同誌にて『孔雀王退魔聖伝』『夜叉烏』『ALGO!』『小類人』『拳銃神』『孔雀王曲神記』などを連載し、独自の世界観からなる伝奇ロマン&SF作品は多大な人気を博した。

 

 生前、萩野さんは『孔雀王』を「宗教漫画ブームのはしりと称されていた(『夜叉鴉』第6巻より)」と語っていた。「宗教漫画」というと手塚治虫先生の『ブッタ』のような作品や宗教団体の教義解説・勧誘の為の漫画もあり定義として合っているかどうかは判断に迷うところだが、少なくともイメージの暗い仏教(とりわけ密教系)をエンターティメントへと昇華させたのは間違いなく『孔雀王』だったと断言できる。『孔雀王』のヒット以降、青年誌のみならず少年誌(『明王伝 レイ』菊池としを等)においても「退魔師」モノは流行となり、漫画界において一つのジャンルとして定着した。「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前 」 いわゆる「早九字」( 早九字護身法 )も『孔雀王』で若年層にも知れ渡るようになった。

 

 しかし『孔雀王』で不動の地位を獲得した感のある萩野さんだったが、生前は「萩野真=孔雀王」という自身の定着したイメージにどこか苦しんでいるようだった。 萩野さん自身も「(本作連載当時は)もう、いつでも描くのを止めたいと思っていた」と後に述懐している。SF物の 『ALGO!』や人情物の『おぼこ』、釣り漫画の『サルビアの海』、歴史伝記漫画の『15の春』など、意外に他ジャンルも描いていたのだが、そちらはあまり支持を得られなかった。自身は他のジャンルも描きたいのに読者や出版社には『孔雀王』の続編ばかり求められる。 『孔雀王 戦国転生』 の後書きにもそうしたジレンマが記されていた。

 

 だが晩年はそうしたジレンマも吹っ切れたのか孔雀が戦国時代へ転生される『孔雀王 戦国転生』を「コミック乱」(リイド社)に、「月刊スピリッツ!」(小学館)にヤング編の『孔雀王ライジング』を2012年から同時連載した。それは『孔雀王』という作品を愛してくれた読者に応えるかのようであった。

 

 連載は続いたが、2018年9月から萩野さんは病に悩まされるようになった。

 

「 父は昨年の9月から入退院を繰り返す様になってしまい、今年に入ってからは4月29日までの間に5日しか家に帰宅できない状態でした。そのような体調の中今年の1月から父と私とアシスタントの皆様、担当編集者の方々で相談し、入院中に連載中の漫画を全て完結させる事を決定致しました。
その後は病院の中でできる限りの仕事をやり続け、孔雀王ライジング・戦国転生の両作品の最終回の完成に至ることができました。病室でインクを使うことは難しいのでペン入れはスタッフで行わせて頂きましたが、ネーム・及び下描き作業は全て父の手で行っております。下描きの時点で大変完成度の高いものであったため、最後の作品も正真正銘父の作品であると胸を張って発表させて頂きます」

「孔雀の実家」http://www4.airnet.ne.jp/kujaku/

 

 

 

 荻野さんは病床の身でありながら『孔雀王 戦国転生』と『孔雀王ライジング』の最終回、そして単行本用のイラストも描き上げていた。

 

 

 そして 2019年4月29日 0:45分 永眠  

 

 

 「 4月に入り連載作品が一区切りついた頃でも、父は次の作品のことを考えておりました。重度の多臓器不全により肝臓や腎臓がだんだんと衰えてしまう中、自身の体調のことで弱気になるよりも物語作りに熱意を燃やし続けていたので、父らしい人生を最期まで過ごせたのかなと感じております 」

「孔雀の実家」http://www4.airnet.ne.jp/kujaku/

 

 萩野真さんは最後の最後まで創作の炎を燃やし続けた漫画家だった。

 

 萩野さんが定着させた「退魔師モノ」というジャンルは漫画のみならず映画、アニメ、ゲーム、ライトノベルとあらゆるメディアに一つのジャンルとして定着した。

 

「退魔師モノ」というジャンルが続くかぎり、萩野さんの独自の世界観は受け継がれていくだろう。

 

 ご冥福をお祈りいたします。