『自虐の詩』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『自虐の詩』


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【出演】
中谷美紀、阿部寛、遠藤憲一、カルーセル麻紀、ミスターちん、蛭子能収、島田洋八、松尾スズキ、丸岡知恵、Mr.オクレ、佐田真由美、アジャ・コング、斉木しげる、竜雷太、名取裕子、西田敏行


【監督】
堤幸彦




“こんなアタシでもアンタがいる”




「いっつもアタシは不幸でした」


大阪・通天閣のふもと。

ひなびたアパート・パンション飛田では、今日もいつもの音が響く。
イサオがちゃぶ台をひっくり返す音だ。
幸江が作った食事が四方八方に散らばる。


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イサオは無口な乱暴者で酒飲み、その上ギャンブルに明け暮れている。


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幸江の不運と貧乏は、実は今に始まったことではない。
宮城県の気仙沼で生まれた幸江は、物心つく前に母が家出し、男手一つで彼女を育てた父・家康は、飲んだくれで借金まみれだった。
生活はまだ中学生だった幸江の新聞配達や内職にかかっていた。


「幸せになれますように」

神社でお参りするのが日課の幸江に、事件が起こる。
家康が愛人と新婚旅行に行くために銀行強盗をして捕まってしまったのだ。
パンツ一丁で連行される父の姿にボーゼンとする幸江。


さて、今日も今日とて、イサオのちゃぶ台返しは続く。
折角、作ったトンカツも、無理して大枚をはたいて買った寿司も全てひっくり返された。

しかし、見かねた隣に住む後家のおばちゃん・小春に別離を薦められようとも、「あんな奴と別れて俺と一緒になろう」と、幸江が働く食堂・あさひ屋のマスターにしつこくプロポーズされようとも、幸江はイサオと一緒にいられるだけで幸せだった。


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そんな時、ムショ帰りの家康が幸江の前に現われる。

ソープランドであさひ屋のマスターとユキエという名のソープ嬢を取り合った縁で、あさひ屋の二階に居候することになる家康。


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ここぞとばかりに、父親に取り入ろうとするマスター。
それでも何があろうと、幸江はイサオに尽くし続けた。


ある日、イサオは働きに出ることを決意する。
心づくしの愛妻弁当を持って工事現場に向かったが……昔のヤクザ仲間に絡まれ、暴力沙汰を起こしてしまう。
これを機に、かつて世話になった組長から「戻ってこないか」と誘われたイサオの心は揺れる。


再び、イサオのパチンコに明け暮れる日々が始まった。
イサオが大フィーバーを出したその日、幸江は医者からおめでた3ヶ月であることを告げられる。
喜んでイサオに報告する幸江だったが、それを聞いたイサオは黙って幸江の元から去っていってしまう。


「何かを得ると、必ず何か失うものがある」

数日後、身重の体で働き続ける幸江は、歩道橋から滑り落ちる。

生死の間を彷徨う幸江の頭の中では、過ぎ去った出来事が走馬灯のように駆け巡っていた……。

幸せじゃなかった少女時代。独りぼっちの幸江をただ一人支えてくれたのは、同級生の熊本さんだった。
彼女も幸江と同じように靴下は破け、教材費も払えず、学校の備品をこっそり持ち帰るような貧乏育ち。
いじめられても堂々としている熊本さんといつしか親友となり、二人は誓いを立てる。

「近くにいても、遠くにいても、あなたのことは忘れない。嬉しい時も、悲しい時も、あなたと友達でいる。ずっと友達でいる!」


そして、中学卒業と同時に上京した幸江。
その後は絵に描いたような転落人生が待っていた。
ヤク中のコールガールに落ち果て夢も希望もなくなった幸江の前に現われたのが、ヤクザのイサオ。

子供の頃から自分を蔑み、愛を求めていた彼女を初めて心から愛してくれた男、それがイサオだったのだ。


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やがて幸江が目を開けた時、そこに見たものは……。




健気な妻と無口な夫が織りなす風変りな愛を通し、幸も不幸も乗り越えた人生の真実を描く奇跡のどんぞこラブストーリー。


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一途に夫を愛する健気な妻・幸江と、元ヤクザ、現在はニートの無口な夫・イサオとの一風変わった愛や生活の様子を面白おかしく描き、必殺のオチはイサオのちゃぶ台返し……というお決まりのパターンを重ねていきながら、やがて物語は大河小説の態をなしていき、ラストには一発逆転大ホームランを放つ!


大阪・通天閣を見上げる下町が舞台。
くすんだ服、ノーメイク、鼻の脇には黒子のある野暮ったい雰囲気の幸江。
一方、無口で乱暴者でギャンブル好き、パンチパーマのイサオ。
そして、この二人を取り巻く人たちのバカバカしいまでにバイタリティに溢れた姿。
隣人の面倒見のいいおばちゃん、幸江に一方的に思いを寄せる食堂・あさひ屋のマスター、愛人と新婚旅行に行くために銀行強盗を働いてしまい刑務所送りとなる幸江の父。

個性的な彼らのあたふたとした様は、笑いと同時に愛おしさすら感じさせるものが。



働かないわ、金はせびるわのどうしようもないダメ夫のイサオに、ひたすら尽くす幸江。
こんな男のどこを好きになったの?なんで一緒にいるの?……と思ってしまうが、後半でそれが見事に逆転する!

二人の関係性と絆が明らかにされた時、その切なさに思わず涙。

「幸か不幸か」が絶対的判断基準で、自分だけが不幸だと思い込んでいた幸江が、実は周りに居る人たちに愛され、支えられていたことに気付いていくクライマックス、そしてそこまでに至る展開の強弱の付け方が抜群に上手いので、ぐいぐい引き込まれていく。


一見、ギャグ、CG満載のぶっとんだ映画のように見えますが、実のところは生活の中のリアルな笑いを描いており、濃い面子による演技に笑い転げていると……いつしか、幸江とイサオの愛の姿に号泣させられてしまう。


ラスト、関空での熊本さんとの再会シーンも泣けます!



中谷美紀は『嫌われ松子の一生』の薄幸のイメージを引きずったような役を好演。

阿部寛のダメっぷりも見応え満点でした。