『ツレがうつになりまして。』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

某シネコンにて『ツレがうつになりまして。』を鑑賞。


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【出演】
宮崎あおい、堺雅人、吹越満、津田寛治、犬塚弘、中野裕太、山本浩司、伊嵜充則、梅沢富美男、田山涼成、大杉漣、余貴美子


【監督】
佐々部清




“健やかなる時も、病める時も、キミと一緒にいたい”


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ハルさんこと妻の高崎晴子と、ツレこと夫の幹男……そしてイグアナのイグ。

高崎家はちょっと変わった家族だ。


ツレは仕事をバリバリこなし、毎朝お弁当まで作っちゃうスーパーサラリーマン(だった)。おまけに性格は超ポジティブ(だった)。


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一方のハルは売れない漫画家。
性格は、のんびり屋でちょっと怠け者。
ツレが慌ただしく出勤の準備をしていても……全く気にせず布団で爆睡中。


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そんなツレがある朝、ゴミの山をボッーと眺めつつ、
「これってもう必要のない物なんだよね……」

すると真顔で……
「死にたい」

「何があったのツレ?一体どうしちゃったのツレ?」


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病院での診断結果は、
「典型的なうつ病ですね」
「……うつ病?」


仕事の激務とストレスが原因らしく……そういえば、病気の予兆があったようなないような?

「最近、食欲がないんだ……眠れないし、背中も痛いし、何となく怠いし、何もする気が起きないし……」
「ただのカゼじゃない?」

結婚5年目、ツレの変化にまったく気づかないハルだった。


うつ病の原因が会社にあるなら辞めちゃえばいいのになって思ったハルは、
「会社辞めないなら、離婚する!」


こうして会社を辞めたツレが主夫になり、家事嫌いのハルは内心嬉しかったりも……。

「こうやってゴロゴロして過ごすのもいいもんだよ~」


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でも、ツレのバカ真面目で完璧主義な一面もクローズアップ!

「僕は必要のない人間なんだ……」


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ちょっとした事で落ち込んだり、急に気分がよくなったり……コロコロと体調が変わるツレ。


そんなツレをゆっくり見守りながら、ハルはその様子をイラスト日記に綴ってゆく。


時々イラッとすることもあるけれど、ハルは以前より明るい性格になれたし、グチグチと文句を言わなくなったし、病気が教えてくれたこともたくさんある。

しかし、収入源がなくなり貧困街道まっしぐら!

そこでハルは編集部へ行き、大胆発言をした。


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「ツレがうつになりまして……仕事下さい!」

ハルは新しい仕事をもらい、ツレの体調も徐々に回復に向かい、ほっと一安心。


「もう二度とあの元気なツレに会えないの?」と不安になったこともあるけれど、考え方次第で人生はハッピーになると知った。


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「頑張らなくていいからね。あせらなくていいからね」


そして、小さなつまずきのその先には、ある奇跡のような出来事が待っていた。

「描きたいことは、こんな近くにあったんだ!」


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晴れたり曇ったり、泣き笑いの人生だ……。


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夫がうつ病になったことをきっかけに、これまでの自分たちを見つめ直し、成長していく夫婦の二人三脚の闘病記。


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生真面目なサラリーマンだった夫はマイペースなスローライフを送り、ネガティブでおっとりキャラの妻はポジティブなしっかり者に変身!?

暗く重くなりがちなうつ病という題材だし、自殺未遂、症状の改善、再び悪化などのあらゆる出来事が起こるけれど、決して暗くなることなく明るくコミカルに綴り、ハッピーをモットーに‘自分たちらしくあろう’と考える型にはまらない夫婦のあり方をユーモアたっぷりに描いている。


相手を深く思いやり、お互い少しだけ寄りかかりながら、ゆっくりと前に進んでいくハルさんとツレの夫婦の姿は、ホンワカとしていて何とも微笑ましい。


‘心のカゼ’とも言われるうつ病を‘宇宙カゼ’と呼んだり、抑うつ状態の症状が現れている時に憂鬱をキャッチするアンテナが(ピーンと立った寝癖!)頭に現れていたり、布団に包まってヘコんでいる状態を‘カメフトン’と言ったり……などの描写もユニーク。



ツレは外資系のIT会社に勤める平凡なサラリーマンだが、異常なくらいの完璧主義。
曜日ごとにネクタイの色やお弁当のメニューは決まっているし、便箋を使う際は定規できっちりと計り、ゆっくり丁寧に几帳面な文字をしたためる。

そんなツレの最大の天敵は、会社に何度も電話をかけてくるクレーマー男の‘できないさん’。
しかもツレを名指しでクレームの手紙まで送るという執拗さ。

ところが細かいことにこだわるツレは、
「‘タカサキ’の字が間違っています。‘くちたか’ではなく、私は‘はしごだか’のタカサキです」
と‘できないさん’に逆クレームをつける始末。


妻のハルは、売れない漫画家で週刊誌の連載も不人気のために打ち切りに……。
(つげ義春の『ゲンセンカン主人』を愛読しているくらいだから、シュールな漫画が好み?)

でも落ち込んでいる場合ではない!なんせ‘ツレがうつ’になってしまったのだから!

「会社辞めないなら離婚する!」
とまで言い切り、自分も辛い立場にありながらも、うつ病に苦しみ繊細な夫を励まし、優しく見守っていくのです。(まるで聖母のよう!)

「休む時は休むのが宿題だよ」
「うつ病になった原因を考える前に、うつ病になった意味を考えよう」
「頑張んなきゃいけない時だからこそ、頑張らない」
「あせらなくていいからね」

ツレを懸命に支え続けるハルの温かさ、優しさには泣けてしまう。


ツレが退職する日のシーンがいい!

「最後だから、私も一緒に行く」
と二人で満員電車に乗り込むが、あまりに激しい混雑ぶりにビックリのハル。

「毎日こんなのに乗ってたら、うつ病にもなるよね。これまでご苦労様。ありがとう」

この言葉に感極まって突然、子供のように泣きじゃくるツレに困惑しまくるハル。

このやり取りは、可愛くもあり、可笑しくもありで思わず笑ってしまった。


退職したツレに代わり、「生活費を稼がなきゃ」と仕事に励むハルの健気さも愛おしいものがあります。


家でボケッ~と過ごすツレに「料理でもしてみたら?」とアドバイスし、野菜炒めを作る……このシーンも可笑しい。

味加減が分からずヘコむツレに気を遣い、
「大丈夫。少なくとも私が作ったのより美味しいよ」
「ハルさんに褒められても嬉しくないよぉぉ」
「……ああ、そうですか!」

このように二人の数々のエピソードは、ユルくてほのぼの感も漂い、観ている側は癒されてしまうこと間違いなし。


それから忘れてならないのが、この愛すべき夫婦を取り巻く人(&ペット)たち。

ツレの癒しの対象であるイグアナのイグと小亀のチビ。
爬虫類が苦手な自分としてはイグの姿がアップで映る度に「ウゲ~~!」って感じだったのですが……物語が進むにつれてだんだん可愛く見えてきて……そのうちイグの登場を期待するまでになってしまった(笑)。


ハルの両親のトボけた存在感と親バカぶりも面白い。
ハルの漫画が掲載された雑誌のアンケート葉書に大絶賛の感想を書く父親。
「やっぱり丸文字で書いた方がよかったかな?もう一冊買ってくるか?」

「うつ病には野菜を摂るのがいい」と、細かなレシピをファックスしてくる母親。

親バカだけど、その優しさがたまらない!


ツレの兄は「頑張れ、頑張れ」ばかりでそれが逆効果になってしまっているけれど、弟を心配する気持ちは不器用ながらも伝わってくる。

ツレを慕う会社の後輩は、一見ちゃらんぽらん風だが、ツレが退職する時には号泣して別れを惜しむ。

ただの冷たい仕事人間かと思えた上司は、ツレが講演会を行った際には秘かに会場に駆け付けてくる。

病院で知り合った同じうつ病患者の杉浦とは、心を開いて話せる頼れる友人になる。

そんな彼らの存在も、夫婦には大きな力になったのではないだろうか。


そして、ラストの講演会ではツレがあっと驚くサプライズが!

質問コーナーで立ち上がった中年男性が……
「恐縮だが言わせて頂きたい。この本を作ってくれてありがとう!」

そう言うや、会場を去って行く……その男こそ……実は‘あの人’だったのだ!
(この男も、もしくは妻がうつ病患者だと解釈できる)



最後の方で漫画のキャラが飛び出すファンタジック描写は余計だったんじゃ?……などとチラッと思ったりもしたけど、全体的にはホンワカムード満点で気持ちが温かくなり、笑えるし泣けるしの素晴らしい作品でした。