
【出演】
豊川悦司、池脇千鶴、吉川晃司、戸田菜穂、村上淳、関めぐみ、小日向文世、岸部一徳、山田キヌヲ、矢島健一、油井昌由樹、つまみ枝豆、村杉蝉之介、前田健、高橋和也、木野花
【監督】
平山秀幸
“死ぬことさえ、許されない。ならば、運命を斬り開くまで”
時は江戸。
東北は海坂藩の近習頭取・兼見三佐ェ門には、消そうにも消せない過去があった。
物頭をつとめていた三年前、藩主・右京太夫の愛妾・連子を城中で刺し殺したのだ。

右京太夫は連子に入れあげ、彼女にそそのかされるまま奢侈を重ねていた。
これを見かね諫言した重臣は切腹に追い込まれ、百姓一揆が勃発するなどして藩内は乱れていた。
「刃向かう者は、打ち首にすればよい」
最愛の妻・睦江を病で喪った三左ェ門にとって、失政の元凶である連子刺殺は死に場所を求めた武士の意地であり、確信犯としての行いでもあった。
斬首やお家取り潰しを覚悟する三左ェ門だったが、中老・津田民部から下された沙汰は「一年の閉門並びに降格」というあまりに軽いものだった。
「上様はなぜ私を生かす。なぜ死なせてくれぬのか……」
戸惑う三左ェ門だったが、津田が藩主に嘆願したため寛大に済まされたと聞かされ、温情に背かず刑期を過ごすのだった。

そして一年の閉門後、再び藩主の傍に仕えることになる。

腑に落ちない想いを抱きつつも、身の周りの世話をする亡妻の姪・里尾との日々の中で三左ェ門は再び生きる力を取り戻してゆく。

一方、右京太夫は連子を失った後も身勝手極まる政策を続け、農村は疲弊にあえいでいた。
右京太夫の従弟であり、藩主家と対立しているご別家の帯屋隼人正は、次第に彼への不信の念を深めていく。
そんな時、隼人正が謀反を企んでいるとの噂を聞きつけた津田は、三左ェ門を呼び寄せる。
それは、彼を天心独名流の剣豪だと知っての相談であり、「鳥刺し」という必勝を「お上のために役立てろ、守れ」という密命であった。
「ご別家は直心流の達人だ。倒せるのはお前しかいない」
「鳥刺しは、絶体絶命の時に使いますので」
しかし、この密命には重大な裏があった!

待ち受ける隼人正との決着の日……。

三左ェ門は、想像を絶する過酷な運命に翻弄されていく!

仁義と愛慕。武士道と政道。組織と個人。男と女。生きるほどに生じる運命の不条理を描く時代劇。
剣豪ゆえに陥る宿命に対し、最後は己を爆発させる主人公の姿は、人生のままならなさ、人はいかに命を全うするかという永遠の問いを観る者の胸に刻みこむ。
そして激烈なクライマックス!
15分にも及ぶ壮絶な殺陣シーンは圧巻!
ともに正義を貫く男気あふれる武士同士ながら、何の因果か対決する羽目になる二人。
実はこの対決、巧妙に仕組まれていたものだった。
三左ェ門に連子を殺され、「即刻、打ち首じゃ!」と怒り狂う右京太夫に、津田がこう進言したのである。
「三左ェ門は剣の達人です。殺してしまうには惜しい男。いずれご別家(隼人正)は、殿に反旗を翻し襲ってくるのは目に見えております。となれば、ご別家を倒せるのは三左ェ門しかおりませぬ。それまで生かしておくのが得策かと。その後のことは私にお任せください。よい考えがございます」
こうして三左ェ門と隼人正は不本意ながらも決着をつけることと相成り、死闘の末に三左ェ門が勝利し、隼人正は絶命する……が。
「お見事じゃった、必死剣!」
「いえ、今のは必死剣などではございません」
と、いきなり津田は言い放つ。
「三左ェ門が乱心じゃ!ご別家を斬り殺しおった!斬り捨てい!」
津田の策略にまんまとはまった三左ェ門に大勢の武士たちが襲い掛かる。
ところが、三左ェ門は‘峰打ち’で対抗。
自分を斬ろうと襲い掛かってくるとはいえ、みな同じ藩の同士だけに斬ることができない。
しかしそれでは限界がある。三左ェ門は深い傷を負い……遂に刃を表に向ける!
満身創痍の状態に陥りながらも斬って斬って斬りまくり、血が飛び散る!
が、多勢に無勢で遂には力尽きた……と思いきや、最後に放たれる‘必死剣’で津田を‘鳥刺し’にして恨みを晴らした末に……絶命!
「使うものは半ば死んでいる」という必死剣は、まさに「放つために半ば死ぬ」必要があるのです。
策略、裏切り、人生の不条理という過酷な運命の中で、三左ェ門が貫こうとした異常なまでの信念が凄まじい。
このラスト15分の殺陣シーンは、それまではどちらかと言うと静かな展開だっただけにインパクト大!
『浪人街』や『切腹』のクライマックスの殺陣シーンもド迫力でしたが、この作品もそれに匹敵する凄さがありました。
悲運の剣の達人・三左ェ門の豊川悦司、三左ェ門の姪でありながら密かに想いを寄せる里尾の池脇千鶴、こちらも悲運の剣の達人である隼人正の吉川晃司、そして憎らしいまでの悪役・津田の岸部一徳と役者陣が素晴らしい。
それから関めぐみの悪女ぶりもハマっていた。