
【出演】
阿部寛、ミムラ、桜庭ななみ、矢野聖人、森崎ウィン、野村周平、きゃんひとみ
【監督】
熊沢誓人
“本気で叱ってくれた。本気で愛してくれた。
沖縄の小さな弁当屋で生まれた、奇跡の実話”

沖縄で、地元の住民を相手に小さな弁当屋‘あじさい弁当’を営む大城陽。

妻の美智子や母親と共に、店を切り盛りする日々。

一方、バンドを組んでいる高校生の比嘉アヤ 、真喜志ユウヤ、仲村キヨシは、おもいっきり音の出せる練習場所の確保に頭を悩ませていた。

陽は、弁当を買いに来たアヤのなにげない言葉を耳にする。
「このガレージなんかいいんだけどなぁ。屋根はあるし、電源もあるし。ここが使えたらなぁ」
「使ってもいいぞ」
「え?ホントですか!」
ところが、あまりの大音量に近所からクレームがきてしまい…。
自然が豊かで静かなのんびりした町だが、若者の夢を育てるものは何もない。
高校生たちがバンドをやりたくても練習する場所すらない。
「もういいよ。諦めるよ」
「そんな簡単に諦めるな」
「だってこの町は何にもないんだよ。こんな町にしたのは、大人たちじゃない!」
こうして陽は、彼らが練習するための本格的な音楽スタジオを自分の手で作ることにするのだった。

しかし、私財をなげうってまでスタジオを作ろうとする陽に、美智子は大反対。
「他人のために、何でそこまでするのよ!」
「他人だからやるんだよ。俺たちが若い頃は、大人が社会のことをイロイロ教えてくれる場所があった。でも、今はそんな場所はない。若い奴らに何も教えないまま、社会にほっぽりだすなんてできない」
自力でスタジオを作る陽に、アヤをはじめとする若者たちも協力し……とうとう念願の‘あじさい音楽村’が完成!
狂喜乱舞する彼らに陽は、
「このスタジオと機材、自由に使っていい。お金はいらない。ただ条件がある。礼儀、秩序を守る人間になれ。人の痛みが分かる人間になれ。まずは挨拶をきちんとする。いいな?」
かくしてスタジオはオープンと相成り……様々な出来事が起こるうちに、若者たちが発案したルールも出来上がる。

陽は彼らを本気で叱る、本気で心配する……ともに笑い、泣く。
何事にも本気で向き合う!

親でも教師でもないのに自分たちに関わってくる陽にはじめは戸惑うアヤたちだったが、次第に陽の真の愛情に心を許すようになり、いつしか陽を「にぃにぃ」と呼び、慕うようになっていく。
スタジオ設立に反対していた美智子も、
「家族が増えたね」
アヤたちのバンド名は‘hI-drangea’と決まり、練習に熱を入れていく。
やがて、陽に反発していた伊野波カイもメンバーに加わり、‘hI-drangea’はプロを目指して始動!

陽は彼らのマネージャー役も引き受け、内緒でプロモーション活動にも尽力する。
「あいつらの歌をラジオで流してやってください!」
陽の陰での奮闘もあり、地元では人気バンドに成長していく‘hI-drangea’。
遂には、プロへの登竜門と言われるビッグフェスティバル出演のオファーが届く!

しかし、フェスティバルに向けて練習に没頭するある日、陽が病に倒れてしまい……実は3年前にガンの手術を受けていたのだが、それが再発してしまったのである。

「大切なフェスティバルの前だ。あいつらには絶対に言うな」

そんな時、結婚式を挙げていなかった陽と美智子のために、アヤたちが中心となって計画した‘手作り結婚式’が行われる。

陽はそこで真相を話そうと決意するも……口から出た言葉は……
「実は……実はな……バカ野郎。俺は結婚式なんてやりたくなかったんだよ。照れ臭いじゃないか」
自分がガンで余命わずかだなんて、とても話せない……みんなを心配させることなどできない。
そうするうちに、陽の容態はますます悪化していき……。

沖縄県・本部町にある、すべてが無料の音楽スタジオ‘あじさい音楽村’を舞台に、余命わずかな男と、未来を生きる若者たちの交流を描いたトゥルーストーリー。

あじさい音楽村……現地で弁当屋‘あじさい弁当’を営む仲宗根陽さんが、夢を持つ高校生たちを応援したい一心で借金をして作ったスタジオ。
ここから高校生バンドがプロとして巣立とうとしていたまさにその時、仲宗根さんは志半ばで病に倒れます。
自らの余命を知りながらも懸命に若者を信じ愛し続けた仲宗根さんと、彼から‘生きること’‘夢を追いかけること’を教えられる若者たちの実話を基にした作品。
(エンドロール後には、仲宗根さん本人の写真も登場)
なぜ、そこまで?……というくらい、陽は若者たちのために全力を尽くす。
自分の余命を知っていて最後に何かを成し遂げたい強い気持ちがあったのはもちろんだが、実はもうひとつの大きな理由があった。
それは亡き親友との思い出。
ミュージシャンになるために東京へと旅立った親友……しかし彼は、あと一歩でプロという時に事故のため、若くしてこの世を去っていたのです。
陽は彼が遺した曲が収録されたカセットテープを今でも大切に保管し、時には耳を傾けてもいる。
音楽が大好きでバンド活動をしている若者たちと親友の姿がオーバーラップしてしまい、それが彼らを応援する大きな要因にもなっている。
へこたれそうになるメンバーを陽はこうエールを送る。
「俺は音楽のことはよく分からないけどさ、大事なのは‘ここ’(ハート)なんじゃないか?ただ音を出してるだけじゃダメだろ。諦めるな。諦めないでプロを目指せよ」
陽のガンが悪化し、最期を迎えようとしている時、アヤら‘hI-drangea’のメンバーが病室に駆け付ける。
その姿に「よっ」と応える陽だったが……すでに彼の命は限界にきていた。
そして……何かを伝えようとするも、もう声が出ない。それでも最後の力を振り絞って、こうエールを送るのです。
「俺は諦めない。だからお前たちも諦めるな!」
そのエールを胸に刻み込み‘hI-drangea’は、フェスティバルのステージに立つのです!
その際に歌う曲は……これには泣かされた。
ラストもいい!
美智子が微笑みながら陽の遺影に向かって、
「大変なモノ、遺してくれちゃったわね。家族が大勢できたわよ」
泣かせどころたっぷりの内容だけれど、お涙頂戴的に変にくどくすることなく、意外とアッサリ、サラっと描いています。
でもそこが逆に涙を誘う。
涙のツボにハマってしまい、後半は泣きっぱなし状態に陥ってしまった


主人公は陽だけれど、アヤたち高校生の成長物語としても観ることができる内容でもあります。

不治の病と闘いながら若者たちを叱咤激励する、熱さの中に不器用な優しさをにじませる陽役の阿部寛が素晴らしい!
減量をして撮影に挑んだだけあり、病に倒れてからの表情は鬼気迫るものが。
陽の妻・美智子役のミムラも好演。
太陽のような明るさで夫を支える献身的な妻を見事に演じています。
そして何といってもよかったのが、陽に背中を押され、あじさい音楽村でプロを目指す高校生バンドの紅一点、ボーカル&ギターを担当するアヤ役の桜庭ななみ。
ラストのライヴシーンで涙を流しながら歌う姿は、演技とは思えないくらいのリアルさ!
それから陽に叱られた悔しさから絶叫しながら仲間のところまで全力疾走し……と、いきなり「悔しい!」と何の罪もない仲間に殴りかかって八つ当たり。
このシーンの桜庭ななみ、サイコーです。
とにかく桜庭ななみが困っちゃうくらい超可愛い!魅力全開の可愛さ!
ちょっとポチャッとしているあたりなんかが、これまた可愛い(^^;
公開されたばかりだというのに客入りは寂しかったのが残念。
温かい気持ちにさせてくれるし、‘病’モノだけど決して暗い内容ではない(むしろ爽やかな後味が残る)とてもいい映画なので、ひとりでも多くの人に観てもらいたいです。