
【出演】
渡瀬恒彦、吉永小百合、山本圭、滝沢修、佐分利信、小沢栄太郎、高橋悦史、三國連太郎、丹波哲郎、鈴木瑞穂、岡田英次、山崎努、永島敏行、橋本功、神山繁、森田健作 、岡田嘉子、渥美清、香野百合子、大滝秀治、中島ゆたか、太地喜和子、風間杜夫、三上真一郎、泉じゅん、内藤武敏、久米明
【監督】
山本薩夫
“八月十五日、クーデターを敢行せよ!”

与党内でも分裂が危ぶまれる政局不安定な198X年の暑い夏。
盛岡市郊外で不審なトラックを追跡していたパトカーが銃撃されて炎上する事件が発生した。
現場に残された弾痕から、犯行に用いられたのは自衛隊が保有していない機関銃のNATO弾であることが判明し、内閣総理大臣の佐橋と内閣情報調査室室長の利倉を驚かせる。
数日後、鹿児島に滞在していた江見為一郎陸上幕僚監部警務部長は、事件の連絡を受け急遽、東京への帰還を命じられる。
途中博多に寄り、娘の藤崎杏子を訪ねた江見だったが、杏子の夫で元自衛官の藤崎顕正は数日前から外出しているという。
顕正の行方に一抹の不安を覚える江見。
父の訪問に不穏なものを覚えた杏子は、博多駅へ向かい、かつての恋人である石森宏明と再会する。
そして藤崎の姿を追った杏子は、ブルートレイン‘さくら’号に乗り込む。

杏子の只ならぬ雰囲気に一緒に乗り込む石森だったが、下関駅停車中に電車の周りで不審な動きをする男たちを目撃。
一方、江見は自衛隊内外の不穏分子を列記したリストに昔の部下で、今は杏子の夫である藤崎の名を発見して愕然となる。
何かを隠している様子の杏子に、石森は真相を言うよう詰め寄るが、そこへ陸上自衛隊の戦闘服姿で小銃を構えた男達が車両を制圧し始める!

「これより、この列車を制圧する!行動開始!」
彼らは藤崎を中心に、アメリカに媚を売り、醜い派閥争いなどで腐敗しきっている民政党の現政権、民主主義による日本古来の伝統の不純化に対してクーデター‘皇帝のいない八月’を宣言!
乗客360人が乗ったさくら号をトレインジャックし、右派系の元首相で政界の黒幕の大畑剛造や一部の自衛隊の最高幹部とともに武装蜂起したのである。
彼らの目的は……
「自衛隊を国防軍に再編成すること。そのために軍事力で政府を制圧し、内閣総理大臣を拘束、憲法改正を断行する」
藤崎元1尉の乗客向けの演説には三島事件の三島由紀夫の檄文と類似したものが用いられている。
自衛隊による武装蜂起という未曽有の自体に、佐橋首相は利倉室長にクーデターの秘密裏の鎮圧を指示。
未蜂起の部隊を次々と武装解除する一方で、蜂起した部隊も包囲した上で全滅させていく。
一方、江見は6年前にUPI通信社が誤報した自衛隊クーデター計画‘ブルー・プラン’の首謀者とされた真野陸将を尋問するが、真野は舌を噛み切って自殺。
佐橋は大畑に、クーデター鎮圧後の議席数の配分を相談して大畑に咎められる。
さらに、CIAが戦略・情報・人脈を使って介入してくる。
車掌を射殺し、関東の蜂起部隊が次々と鎮圧されてもなお「クーデターを敢行しよう!」とする藤崎たちを責める石森だが、杏子は藤崎に夫としての思いを寄せる。
そして大畑が佐橋の別荘で毒殺される中、対ハイジャック部隊による藤崎隊の武装鎮圧が密かに進められていた!

もし現代の日本で自衛隊のクーデターが起こったらという構想のもとに、その恐怖と巨大なうねりに翻弄される人間の姿を描くポリティカル・サスペンス。
列車内では緊迫した状況下で藤崎とその妻、そして彼女のかつての恋人による三角関係の因縁劇が進められていくが、やはり圧倒的に面白いのは政府側の描写。
政治家という名の巨悪によるドロドロの駆け引き、魑魅魍魎の世界が綴られていく。
5年前にもクーデターを計画したものの未遂に終わり自衛隊を追われた藤崎。
そんな彼を中心に政権奪取と自衛隊の国軍化を目指して再び武力クーデターを試みる。
藤崎の主張は「この腐りきった日本、美しさを失った日本を取り戻す」こと。
しかし、現代の日本人からしたら「狂っている」としか映らない。
サスペンス、パニック、、アクション、ヒューマニズム的な乗りもあるが、一貫して反体制な社会派映画を撮ってきた山本監督だけに、その根本にあるのは骨太な社会派ドラマ。
それ故か、銃撃アクション、特撮、パニックシーンはちょっとしょぼい。(おざなり気味?)
松竹的には『カサンドラ・クロス』のような列車パニック娯楽映画にしたかったのかもしれないけど(?)山本監督は政治家の悪、陰謀部分をメインに地味な作品にしちゃったみたいな。
藤崎らは民間人の犠牲をも厭わぬ無茶な政府転覆を企てる悪人のはずなのに、政治家連中がそれ以上の悪人なので(最大の悪人は総理大臣となっている)いつしかクーデター派に肩入れしてしまいます。
また、1970年の三島由紀夫市ヶ谷割腹事件に強く影響されていることも窺える。
藤崎が制服姿で、
「我々は5年待った。もう待てない。憲法を変えるために死ぬ奴はいないのか。俺は死ぬ覚悟はできている」
と熱く語る台詞や佇まいの雰囲気は、もろに三島。
実際の事件をモチーフにしているものの、何となく全体的にチープさが漂っていて、リアリティが欠けているのが残念。
かなり臭い演技や、ミニチュア然としたヘリコプターやブルートレインがいかにも70年代風でB級感が満載。
当時、32歳の吉永小百合が凄く綺麗で超素敵です!(今もだけど)
信念を持った元自衛隊エリートの反乱分子のうちなる狂気を見事に演じきった渡瀬恒彦のクールさもカッコイイ!
ただ‘トホホ’感全開なのが、‘リアル・ゲゲゲの鬼太郎’こと山本圭。(髪型が鬼太郎そのもの

実質的にはこの人が演じた石森が主役っぽいし、ストーリーの鍵を握ってもいるのですが、ほとんど役立たずというか……終始怒りの形相で、藤崎らをただなじっているだけみたいな。
その石森が一番怒りを表すのが、駅の売店で買った博多人形を藤崎が足で踏み潰し粉々にされてしまった時。
瞬間、もの凄い剣幕で、
「それは俺の妻へのお土産だぞ!貴様は人間のクズだ!許さん



キレる、キレまくる!
もちろん、クーデターに腹を立てているのだけれど、どうしても人形を壊されたことに腹を立てているとしか見えないという!?


それから、ほとんどストーリーに関係なく渥美清が登場!(松竹作品ですからね)
乗客のひとりが顔に雑誌を乗せて爆睡している……と、突然ムクッと起きると……それは渥美清。
そして寝ぼけ眼で隣の客に(演じるは伝説の女優、岡田嘉子だ!)
「あれ?いまどこですか?」
「ハカタを出たところですよ」
「え!タバタを出た!?」
「ハカタ!」
旅に出ていた寅さんが柴又に帰る途中みたいな?(笑)。
「クーデターなんて冗談じゃないよ。俺はまだ結婚もしていない独り身なんですからね!」
と愚痴るシーンも、ますます寅さんっぽい(笑)。
なにげにツッコミどころも多く、シリアスシーンにも関わらず笑ってしまったのが、若き自衛隊員役の永島敏行の演技。
5~6歳くらいの子供に玩具の機関銃を向けられた彼は、本物の機関銃で威嚇!
「撃つぞ!席に戻れ!本当に撃つぞ!」
子供相手に超マジになってしまう……あまりにも大人気ない永島敏行がキュートです(笑)。
クライマックスは、実力行使に出た自衛隊精鋭部隊とクーデター部隊の銃撃戦。
逃げ回る乗客も全く関係なく撃ちまくり、とばっちりを受けて次々に撃たれて死んでいく乗客たち……人質を護る気ゼロの凄すぎる展開!(寅さんは無事に逃げられたのか!?)
ラストでは「総理大臣の陰謀を暴露してやる!」と喚いていた江見が……口封じのためにロボトミィ手術を施され、廃人に(『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソン状態)されてしまった姿で幕を閉じる。
エンドロールがなく、「終」のスーパーと共にパッと終わるあたりは逆に新鮮?
公開時、興行成績はそれほどではなかったものの、後にカルト的人気を博したというのも頷ける作品でした。
ちなみに、自衛隊の火器や車両などは『戦国自衛隊』で使用されたものと同じものが使われているらしいです。(角川から借りたのか?)