
【出演】
目黒真希、森岡龍、吉谷彩子、渡部駿太、勝俣幸子
【監督・脚本】
石井裕也
“すべてを失ったのに、「優しさ」だけは残ってた……”
畑と山しかない地味なド田舎。
高校の英語教師・34歳の明美とその教え子の冴えない童貞高校生・17歳のノリオは、ノリと勢いだけで‘駆け落ち’を決行!
「逃げなさい!逃げなさい!」
人相を隠すためにマスク姿でバス停まで全力疾走!

「ていうか、何で学生服着て来てんの!?」
「これが身体のラインが一番綺麗に出るんで……」
「駆け落ちすんのに身体のライン気にしてどうすんの!?バッカじゃないの」
「…………」

とうとうふたりはメトロポリス東京へと逃れ……
「ここ渋谷ですか?何か怖いっすね」
「そう、怖いよ~悪い奴らばっかり。地球上の悪が集まってんだから」
「マジっすか!?」
「でも大丈夫。わたし、小学生の頃に1、2回来たことあるから」
「1、2回って……」
そしてアパートを借りて新生活を始め、夢は膨らむばかりだったが……。
「駆け落ち成功、おめでとうね!頑張ろうね、これから」
「はい!」
「お金のことは心配いらないよ。先生、お金持ちだから」
何もかも捨てて東京に出てきたものの生活に光は見えず……明美はエステ・ジム通いを装い、内緒でカラオケ店でアルバイトを始め、明美から弁護士になるよう命令されたノリオは弁護士になるべく図書館に通い猛勉強を開始!
そして、犬の糞の世話をノリオに迫る(ついでに身体にも迫る)色っぽい誘惑お姉さん、図書館で知り合い、ノリオをプロ野球のアベ選手だと信じて疑わない天涯孤独の少年、妊娠した駆け落ち志望のイマドキの女子高生とオッサン顔で凄く不細工なその彼氏……心優しき孤独な人々との出逢いと試行錯誤の同棲生活。

やっぱり現実は当たり前のように厳しくて、誘惑やトラウマ、出会ったおかしな人達に振り回され、ふたりは次第にお互いを誤解し、すれ違っていく。
そんな中、明美の‘嘘’が発覚。
ノリオは明美の気持ちを理解しはじめ、二人の微妙で奇妙な関係に変化が生まれていくが……。
馬鹿で貧乏だからこそ、「少なくとも優しさだけは失うまい」と頑張るが、それが全て裏目に出てしまい……。

駆け落ちした女性教師と男子高校生の破天荒な逃避行を描いた、ぶっとんだ笑い満載でちょっぴり切ないビンボー駆け落ちファンタジーコメディ。

憧れの東京に出てきたものの全く冴えない日々を送る駆け落ちカップルの無鉄砲でどこかズレた二人の言動がメチャメチャ可笑しい。
すっ惚けていてユル~~くて微妙な間合いの台詞のやり取りは、石井監督の十八番だけあって、超笑えます。
それから彼女が妊娠し、駆け落ちを計画している高校生カップルの相談に乗る明美とノリオ……このシーンは大爆笑もの。
「この先生は駆け落ちのスペシャリストだから、何でも相談しなよ」
「妊娠したから駆け落ちってか?でもさ、何でちゃんと避妊しなかったのよ?男の責任でしょ」
「いえ、わたしの方が‘生’がいいって言ったんです」
「はあ?‘生’がいいのなんてね、縄文人だって知ってるわよ!」
「実は僕、カトリックなんです」
「は?カトリックなのに‘生’でやってんじゃないわよ!」
「いや、カトリックでも‘生’でしますよ」
「そうなの?」
こんな感じのおマヌケな台詞が飛び交う。
主人公のノリオは、ちょっと(いや、かなりの?)オバカさん。
親友もドン引きする程の汚い家に住んでおり、やることなすこと上手くいかないダメ高校生。
そして両親の自殺を目撃してしまったことが深いトラウマになっている。
教え子であるそのノリオと駆け落ちするのが、英語教師の明美。
彼女は過去にも駆け落ち経験があり、今はどこにいるのかすら分からない9歳になる子供もいるらしい。
ビンボーなのに「わたしはお金持ちだから」と見栄を張り、異常なくらい気前が良いが……バイト先ではやる気ゼロで「おばさん、真面目にやれよ!」と叱られてばかり。
教師と生徒というとんでもない関係の駆け落ち!
しかしこの二人……確かにお互い愛しあっているようには見えるし、一緒の部屋に住んでいるのにも関わらず、セックスの匂いが全くしない。(それらしき描写も皆無。もしかしたら、一度もしていない?)
何とも摩訶不思議な関係なのです。
そういえば『川の底からこんにちは』も駆け落ちの話でしたね。
石井監督は駆け落ちに何かこだわりがあるのか!?
それからノリオが唐突に奇妙なダンスをするシーン。これは『あぜ道のダンディ』でのウサギのダンスを彷彿とさせるものが。
石井監督らしいといえばらしい演出です。
ところで、少年が大ファンの眼鏡にヒゲで超老け顔のイーグルスのアベ選手。(大ファンのくせにノリオをアベ選手だと勘違いしているけど


少年がラジオの前で「頑張れ、アベ選手!頑張れ、アベ選手!」と必死に応援しているが……実況は、
「アベ選手、ここまで80打席連続ノーヒットです」
80打席連続ノーヒットって、打てないにもほどがありすぎ(笑)。
でもそんなアベ選手も遂に~~信じるモノは救われるのだ!